2015.04.21 部門公開セミナー
アーバスキュラー菌根共生における宿主シグナルとしての ストリゴラクトンとカーラクトン
秋山 康紀 (大阪府立大学大学院生命環境科学研究科)
2015年04月21日(火) 14:00
明大寺地区1階 第1セミナー室 (132-134)
共生システム研究部門 川口 正代司 (7564)
アーバスキュラー菌根菌(arbuscular mycorrhizal fungi, AM菌)と植物との共生は80%以上もの陸上植物の科に見られる地球上で最も普遍的な共生系である。AM菌と植物との共生はそれぞれが発するシグナル物質の相互認識から始まる。宿主植物は根からAM菌の宿主認識反応の一つである菌糸分岐を誘導する物質を分泌している。本物質は“ブランチングファクター”と呼ばれ,その同定が試みられてきたが,根から極微量しか分泌されず,化学的にも不安定なため長らく単離されなかった。我々はマメ科モデル植物であるミヤコグサからストリゴラクトン(strigolactone, SL)の一種である5-デオキシストリゴールを“ブランチングファクター”として単離した1。SLは根寄生植物であるストライガやオロバンキなどの種子発芽を刺激する物質として1960年代から知られていた化合物であった。さらに2008年には,SLは植物の地上部のシュート分岐を抑制する植物ホルモンであることが明らかになった 2。イネやエンドウ,トマトなどのSL生合成欠損変異体では菌根形成能が大きく低下している 3。
SLはカロテノイドから生合成されるアポカロテノイドであることは分かっていたが,生合成の詳細については不明のままであった。2012年にin vitroで発現させたD27,CCD7,CCD8の3つのSL生合成酵素により -カロテンからSLによく似た構造を持つカーラクトン(carlactone, CL)が生成することが判明した。我々は同位体ラベル化合物の取り込み実験により,CLがSLの生合成中間体であることを証明した 4。さらに最近,CLの19位のメチル基が酸化されたカーラクトン酸(carlactonoic acid, CLA)とカーラクトン酸メチル(methyl carlactonoate)をイネやシロイヌナズナから同定した 5。これらCL類のAM菌に対する菌糸分岐活性を調べたところ,CLAがSLと同等の活性を示した。CL類はSLに比べてさらに不安定である。植物はAM菌への共生シグナルとしてまずCLを作り出し,進化の過程でより安定で構造多様性に富むSLを産出するようになったのかもしれない。
【 参考文献 】
1. Akiyama K et al. (2005) Nature 435; 824-827.
2. Umehara M et al. (2008) Nature 455; 195-200.
3. Yoshida et al. (2012) New Phytol. 196; 1208-1216.
4. Seto Y et al. (2014a) PNAS 111; 1640-1645.
5. Abe S et al. (2014b) PNAS 111; 18084-18089.