2014.09.11 部門公開セミナー
ヒストンバリアントが制御する骨格筋分化能 ~ヒストンバーコード説の新たな展開~
大川 恭行 (九州大学医学研究院先端医療医学部門)
2014年09月11日(木) 16:00
山手3号館2F 大会議室
核内ゲノム動態 宮成 悠介 (5850)
細胞分化の過程では、ゲノム上に存在する2-3万もの遺伝子からおよそ数千に及ぶ特定遺伝子の発現が選択され、特定の形質が獲得される。骨格筋分化をモデルとして、この選択的な遺伝子発現が行われる場であるクロマチン構造に着目し、分化における遺伝子発現の選択機序の解明を行っている。
これまでの解析では、MyoDが骨格筋への分化を運命決定するマスター遺伝子として同定されている。一方、MyoDは骨格筋分化が形態的に開始する以前より発現しており、そのクロマチン上での機能は不明であった。私たちは、このMyoDに着目し、未分化段階の骨格筋前駆細胞での機能を解析し、MyoDがクロマチンリモデリング因子Chd2と協調的に働き骨格筋遺伝子の制御領域にヒストンバリアントH3.3を取り込ませることで選択的に後の分化で発現する遺伝子をマーキングすることを明らかにした。ヒストンバリアントH3.3は、全発現ヒストンH3のうちの5%程度を占めるバリアントであるが、転写活性化領域に選択的に取り込まれるとされてきた。このH3.3バリアントは、主要なH3.1ヒストンと比べてわずかに5アミノ酸が異なるだけであるが、このわずかな違いで、遺伝子発現の選択性を規定していることが示唆された。更に、ヒストンバリアントは、ヒストン修飾による制御の前段階の“足場”として働くことが明らかとなった。これら知見は、特定のヒストンバリアントのクロマチンへの取り込みが、選択的な遺伝子発現制御における最も初期の機構であることを示唆している。本講演では、ヒストンバリアントの選択性を中心に細胞運命決定における遺伝子選択機構について議論したい。