2013.01.28 生物機能解析センター公開セミナー
同位体顕微鏡を用いたマイクロイメージング法による共生組織における元素輸送解析
久我 ゆかり (広島大学大学院総合科学研究科)
2013年01月28日(月) 16:00 より 17:00 まで
明大寺地区1階 会議室 (111)
光学解析室 亀井 保博 (4611)
菌根は土壌生息性の真菌(菌根菌)が植物の根と土壌に同時に定着する,起源のもっとも古い植物共生のひとつである.菌根菌は,土壌中の菌糸(外生菌糸)で吸収したPやNなどを根内の菌糸(内生菌糸)を通じて植物に渡すかわりに,Cを直接,他の微生物との競合から隔離された根の中で受け取る利益を得る.菌根菌は,したがって,植物の一次生産を支えるパートナーであるとともに,Cの土壌環境への供給末端として決定的な役割を担っている.本研究は二次イオン質量分析法(Secondary ion mass spectrometry,SIMS)を用い,同位体標識化合物を細胞レベルでトレースすることにより,菌根共生における宿主-共生菌間の元素輸送の仕組みを明らかにすることを目的としている.実験にはラン科植物の共生発芽プロトコーム(菌類従属栄養期)を用い,外生菌糸に13C-グルコース,15NO315NH4を与え,同位体顕微鏡(北海道大学)およびnanoSIMS50(キュリー研究所他)により各同位体画像を得,細胞構造の同位体比(13C/12C,12C15N/12C14N)を分析することにより元素の流れを解明することを試みた.その結果,細胞内菌糸の衰退期における菌糸内での急激な元素の流入,菌の感染・非感染に伴う植物細胞の輸送状態(import/export)の可逆的変化等多くの新規知見が得られた.本研究により,長い間議論されていたラン共生プロトコームにおける栄養供給機構に全く新しい情報が加えられ,一つの解が提唱された.現在ラン共生独立栄養期,アーバスキュラー菌根での検討を行っており,さらに分子同定,遺伝子発現等,本研究で観察された現象の検証を行う予定である.形態学と表面分析を組み合わせた本手法が,新規の細胞学的代謝解析法として生命科学研究に有効である可能性が示された.