2009.06.05 部門公開セミナー
植物細胞内の輸送を担うアクチン-ミオシン駆動系の分子機構
富永 基樹 独立行政法人 理化学研究所 基幹研究所
2009年06月05日(金) 10:00 より 11:30 まで
明大寺地区1階会議室(111)
植物器官形成学研究室 五十嵐 久子 内線7569
真核細胞内では、機能分子を選別し輸送する目的のため、オルガネラや小胞を介した非常に複雑かつ高度に制御された輸送システムが発達している。その時間・空間的制御には多種多様なモータータンパク質の能動的運動機能が深く関わっていることが明らかになりつつある。細胞内輸送を理解するためには、モーター分子レベルの運動から多分子レベルの制御を含めた統合的理解が不可欠である。
動物細胞では、微小管をレールとした輸送網が発達し、数10クラスに及ぶキネシン及び細胞質ダイニンなど多種多様なモーターの関与が示されている。対照的に、植物細胞の輸送はアクチン-ミオシン系システムに依存している。ただ、駆動力であるミオシンは、24クラス中たった2クラス(植物特異的ミオシンVIIIとXI)しか存在しない。動物に匹敵する複雑さを持つ植物の輸送機構が、少ないモーター分子種でいかに制御されているのかはほとんど明らかになっていない。私は、植物ミオシンXI単1分子が、ステップ幅35nmでアクチンフィラメント上をプロセッシブ(連続的)に運動することができる最速のモーターであることを明らかにした。しかしながら、In vitro に取り出したモータータンパク質は、レールである細胞骨格上を一方向に一定速度で運動する機能しか持ち合わせていない。
複雑な輸送機構を実現している因子として注目されているのが、植物ミオシンメンバーの多様性である。シロイヌナズナでは、ミオシンVIIIにおいて4種(ATM1,2,VIIIA,B)、ミオシンXIにおいては13種ものメンバーが存在する(XI-1,2,A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K)。同一クラスに属するメンバー間での運動機能や制御機構の多様性が、動物に比べ決して単純とはいえない植物の輸送を制御している可能性が考えられる。生物物理学的手法による分子レベルでの解析、細胞内イメージングによる細胞レベルでの解析、遺伝学的手法による組織レベルでの解析をリンクさせることにより、少ないモーター分子種で制御されるユニークな植物輸送機構の統合的理解を目指していく。本セミナーでは、植物ミオシン1分子解析によって明らかとなった分子運動機構と、シロイヌナズナに存在するミオシン全メンバーを発現・イメージングした結果を元に、ミオシンによって制御される植物特異的なアクチン系輸送機構に関して議論する。