2009.05.22 部門公開セミナー
神経集団活動の層構造 (Laminar structure of neural population activity)
坂田 秀三 (Center for Molecular and Behavioral Neuroscience Rutgers, The State University of New Jersey)
2009年05月22日(金) 15:00 より 16:30 まで
明大寺地区1階会議室(111)
脳生物学研究部門 山森哲雄 内線7615
哺乳類の脳で最も特徴的な構造の一つは大脳新皮質の6層構造である。各層は、解剖学的な特徴・電気生理学的な特性・遺伝子発現プロファイルという点で多様な神経細胞から構成されている。しかし、その6層を構築する神経細胞たちが回路網としてどのように働いているのか依然不明である。その層構造の機能的な役割を明らかにするため、我々は「juxtacellular記録法」と呼ばれる方法によって細胞の形態を特定しながら、最先端の電気生理学的手法も組み合わせ、神経細胞集団の活動をミリ秒以下の時間解像度で全層から同時計測した。麻酔下あるいは覚醒下のラット一次聴覚野から計測した神経細胞の活動データに基づいて、今回は以下の三つのトピックを議論する:
1)感覚応答の細胞種特異性
「皮質コラム」の概念は、提唱されてから50年以上経過し、大脳新皮質の動作原理を理解する上で重要な概念である。しかし、多様な神経細胞から構築されている皮質コラムは果たして機能的に均一な神経集団の集まりなのであろうか?我々は、異なる細胞種は異なる情報処理戦略を採用していることを見出したので、今回その結果について議論したい。
2)感覚応答と自発活動の類似性と差異性
脳は決して休まない。感覚入力や運動出力に直接起因しない「自発活動」は、神経回路形成から様々な脳機能まで重要な役割を果たす。さらに驚くべきことに、感覚皮質では、自発活動と感覚応答が神経集団レベルで似ていることが最近わかってきた。では、感覚信号と脳自身が生み出した活動を脳はどのように区別するのだろうか?我々は、その二つの神経イベントの明確な差異を神経集団レベルで見出したので、今回その結果について議論したい。
3)神経活動の脳状態依存性と細胞種特異性
脳波に基づき、大脳新皮質の状態は「同期状態」と「非同期状態」の二つに古くから大別されてきた。同期状態はノンレム睡眠中や麻酔下に見られ、非同期状態は覚醒中やレム睡眠中に見られる脳状態である。しかし、それらの大域的な脳状態が、大脳新皮質の多様な神経細胞の活動にどのような影響を及ぼすか依然不明である。我々は、脳状態に依存した神経活動の変化は細胞種によって異なることを見出したので、今回その結果について議論したい。
坂田博士は、脳活動のオシレーションの理論的解析で有名なKen Harris博士とともに研究しています。今回、帰国した機会にセミナーをお願いしました。皆様のご来聴を期待します。