2009.03.16 部門公開セミナー
新たな排水規制の可能性としてのWET
鑪迫 典久(たたらざこ のりひさ) ((独)国立環境研究所 環境リスク研究センター 環境曝露計測研究室・主任研究員)
2009年03月16日(月) 16:00 より 17:30 まで
山手地区3号館9階セミナー室A
環境生物学領域 分子環境生物学研究部門 井口泰泉 内線5235
化学物質を特定せずにin vivoのバイオアッセイの結果を利用して排水規制を行う方法が、1995年から米国で行われているWET(Whole Effluent Toxicity)規制である。
WETでは排水または環境水の“毒性”の定義を、生物に排水を曝露して、それらの反応を直接測定することによって、総体としての影響を数値化し、定量的に理解できるものとした。つまり、生物影響試験によって排水試料のすべての影響成分の複合影響を含めて測定することを目的としているのがWET試験である。米国がWET規制を行うに至った理由は、排水中の汚染物質の毒性を、単独の化学物質によって管理することは難しいという基本概念に立っているためである。この概念は、単独物質の毒性が個々に判明すればそれらの総体としての毒性が把握できる、と考えているREACHや化学物質審査規制法の思想とは異なる。
逆にWETでは遡っての原因物質の探索にToxicity Reduction Evaluations/Toxicity Identification Evaluations(TRE/TIE)の手法が用いられるが、その目的は原因物質の単離ではなく、環境インパクトの削減であるので必ずしも環境影響の原因物質は明らかにならない。
近年発展しているOmics技術は、物質の同定ではなく生物に対するエフェクトの同定に用いることが出来る手法であるから、まさにTRE/TIEに応用可能な技術ではないかと思われる。
WETについての概要と、今後、アカデミアからみた研究テーマの可能性について話をしたい。