2007.05.07 部門公開セミナー
プラスチドピルビン酸輸送体の同定から、緑化子葉におけるプラスチド分化と糖代謝を考える
古本 強 (広島大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 植物生理化学研究室)
2007年05月07日(月) 15:00
明大寺地区1階会議室(111)
高次細胞機構研究部門 西村 幹夫 内線7500
プラスチドは、その分化状態に応じて適切に細胞質との間で物質の輸送を行い、特有の代謝を成立させている。ピルビン酸は、脂質代謝やイソプレノイド代謝・疎水性アミノ酸合成などの種々のプラスチド特有の代謝の初発物質であり、プラスチド機能を支える中心的な物質である。一方で、プラスチドのピルビン酸輸送活性については部分的な生化学的解析が報告されているだけで、その分子実体は明らかではない。我々はC4光合成植物における葉肉細胞葉緑体の機能解析過程から、葉緑体包膜局在ピルビン酸輸送体タンパク質をコードすると強く推定される遺伝子の単離に成功した。現在では、植物一般におけるプラスチドピルビン酸輸送機能の生理的・生化学的意義を解明することを目的として、植物材料をシロイヌナズナに転じ、そのホモログの機能解析を行っている。これまでに、その遺伝子発現が主として子葉に限られ、第3本葉以降には発現しないことを明らかにし、シロイヌナズナ遺伝子破壊株から単離したプラスチドにおいてピルビン酸輸送活性の消失を証明した。また、これらの破壊株における暗所発芽時の胚軸伸長の低下や弱光条件下の幼若葉における葉の黄化などの形態的表現型を見出した。これらの環境条件下では、細胞質からのピルビン酸の流入がプラスチド機能に必須であると考えられる。すなわち、当輸送体は、子葉における貯蔵脂質分解によって生じるリンゴ酸を初発とする細胞質糖代謝と発達・分化過程にあるプラスチドでの各種代謝との接点として機能していると推察された。
セミナーでは、(1)C4光合成に着目したプラスチドピルビン酸輸送体遺伝子の単離過程と、(2)単離後のC3植物にその機能を普遍化させようとしている現在の試みについて、の2部構成で話を進める予定である。