2002.12.16 部門公開セミナー
ヒストンH4の20番目のリシン残基を特異的にメチル化する酵素・PR-Set7の同定と解析
西岡憲一
2002年12月16日(月) 13:30 より 14:30 まで
情報研修室(431)
統合バイオサイエンスセンター 渡邉肇 内線5235
講師:西岡憲一 博士 Howard Hughes Medical Institute.
University of Medicine and Dentistry of New Jersey
クロマチンを構成するヒストン蛋白質中の特定のリシン残基に付加されるメチル基は化学的に安定と考えられており、クロマチン高次構造の制御を介したエピジェネティクスの中心的役割を担うことが近年わかりつつあります。一方、ヌクレオソ-ム結晶構造の解析結果からヒストンH4の16から20番目の残基は隣接する他のヌクレオソ-ムと相互作用してクロマチンの高次構造形成に直接関与する可能性が示唆されていました。このうち特に20番目のリシン残基へのメチル化は、クロマチン高次構造形成の鍵を握るとされており、その重要性が強く示唆されていました。今回、このヌクレオソ-ム中のヒストンH4の20番目のリシン残基を特異的にメチル化する酵素(PR-Set7)を同定し、この酵素およびメチル化リシンが細胞内でどのような役割を担っているかを解析しました。
PR-Set7は70-90kDaのホモ二量体を形成し、細胞内では20番目のリシン残基をメチル化する主な酵素です。N末端部分はヌクレオソ-ム特異性を担っています。またこの酵素はヒストン・メチル化酵素のコンセンサスであるSETドメインをもち、そのメチル化部位特異性を担っています。おもしろいことに、この酵素活性はヒストンH2AおよびH2Bを必要とし、他のH4以外のヒストンN末端部分は不要です。ショウジョウバエの唾腺染色体を用いた解析の結果、20番目のメチル化リシン残基はDNA密度が高い領域に基本的に分布し、RNAポリメラ-ゼIIの分布や番目のヒストンH3の4番目のメチル化リシン残基の分布とは全く相反する分布を示しました。また、オスのショウジョウバエの唾腺染色体を用いた解析では、20番目のメチル化リシン残基は、16番目のリシン残基のアセチル化を特徴とする、転写が活発に行われているX染色体上での分布が少なく、さらにシグナルの程度はメスのそれと比較すると若干弱い傾向にありました。細胞周期の解析結果では、PR-Set7は分裂期に発現が上昇し、20番目のリシン残基のメチル化の推移とほぼ一致することが確認されました。おもしろいことに、20番目のリシン残基のメチル化はここでも16番目のリシン残基のアセチル化とは相反する挙動を示したのです。生体内で観察されたこの20番目のリシン残基のメチル化と16番目のリシン残基のアセチル化の相反する関係は試験管内でも再現されました。これらのことより、20番目のリシン残基のメチル化は、少なくとも一部では、16番目のリシン残基のアセチル化を抑制することによりタイトなクロマチンを維持しているという可能性が示唆されました。