2016.03.29 基生研セミナー
全身・全脳透明化の先に見えてくるもの
上田 泰己 (東京大学医学系研究科/理化学研究所)
2016年03月29日(火) 11:00
明大寺地区1階 会議室 (111)
杉森 聖子
2000年前後の大規模なゲノム配列決定を契機に分子から細胞への階層における生命科学・基礎医学研究が変革した。ゲノムに基づくシステム科学的アプローチは分子から細胞への階層の生命現象の理解に有効であるものの細胞から個体への階層の生命現象への応用は難しい。細胞から個体の階層におけるシステム科学的アプローチを実現するためには、細胞階層での基幹技術の確立が必要不可欠である。そこで我々は、成体組織を丸ごと透明化し1細胞解像度で観察できる技術の開発に取り組んだ。我々が開発したCUBIC法は、透明化が困難な血液を豊富に含む組織をアミノアルコールによる色素除去作用により透明化することで、マウス成体全身の透明化を世界で初めて実現することに成功した。我々は、CUBIC法の持つパフォーマンス・安全性・簡便性・再現性の高さをさらに生かすために、複数のサンプルを定量的に比較可能な計算科学的な手法の開発に取り組み、取得したイメージングデータを標準臓器画像に対してレジストレーションすることで、同一領域の細胞活動変化を直接比較する計算科学的な手法の開発にも成功している。全身や各種臓器を用いた全細胞解析は、細胞と個体の階層においてシステム科学的なアプローチを提供し、解剖学・生理学・薬理学・病理学などの医学の各分野に対して今後の貢献が期待される。
【参考文献】
Ueda, H.R. et al, Nature 418, 534-539 (2002).
Ueda, H.R. et al, Nat. Genet. 37, 187-92 (2005).
Ukai H. et al, Nat Cell Biol. 9, 1327-34 (2007).
Ukai-Tadenuma M. et al, Nat Cell Biol. 10, 1154-63 (2008).
Isojima Y. et al, PNAS 106, 15744-49 (2009).
Ukai-Tadenuma M et al. Cell 144(2):268-81 (2011).
Susaki et al. Cell, 157(3): 726–39, (2014).
Tainaka et al. Cell, 159(6):911-24(2014).
Susaki et al. Nature Protocols, 10, 1709–27 (2015)
Sunagawa et al, Cell Reports, 14(3):662-77 (2016).
Susaki and Ueda. Cell Chemical Biology, 23(1):137-57, 2016 (2016).