2016.03.02 基生研セミナー
睡眠覚醒の謎に挑む
柳沢 正史 (筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS))
2016年03月02日(水) 16:00 より 17:30 まで
山手3号館2階西 大会議室
初期発生研究部門 藤森 俊彦 (5860)
睡眠・覚醒は中枢神経系を持つ動物種に普遍的な現象であるが、その制御メカニズムや眠気(睡眠圧)の神経科学的本態は、いまだ謎に包まれている。覚醒系を司る神経ペプチド「オレキシン」の十数年にわたる研究により新しい睡眠学が展開され、近年では睡眠・覚醒のスイッチングを実行する神経回路や伝達物質が少しずつ解明されつつある。昨年、内因性覚醒系を特異的に抑える新しいタイプの不眠症治療薬として、オレキシン受容体拮抗薬が上市された。また、覚醒障害ナルコレプシーの根本病因がオレキシンの欠乏であることが判明しており、オレキシン受容体作動薬はナルコレプシーの病因治療薬、さらには種々の原因による過剰な眠気を抑制する医薬となることが期待されている。
一方、睡眠覚醒調節の根本的な原理、つまり「眠気」とは一体何なのか、またそもそもなぜ睡眠が必要なのか等、睡眠学の基本課題は全く明らかになっていない。私たちはこのブラックボックスの本質に迫るべく、ランダムな突然変異を誘発したマウスを7,000匹以上作成し、脳波測定により睡眠覚醒異常を示す少数のマウスを選別して原因遺伝子変異を同定するという探索的アプローチを行なってきた。このフォワード・ジェネティクス研究の進展により、睡眠覚醒制御メカニズムの中核を担うと考えられる複数の遺伝子の同定に成功し、現在その機能解析を進めている。
本講演では、これらの研究を含め、文科省WPIプログラムのもと筑波大学に発足し、睡眠の基礎研究に特化した新しい研究拠点、国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)における研究活動についてご紹介する。