2019.09.26 部門公開セミナー
GTP代謝からみる細胞機能と疾患
佐々木敦朗 准教授(シンシナティ大学医学部・慶應義塾大学先端生命科学研究所)
2019年09月26日(木) 16:00 より 17:00 まで
山手3号館2階西 大会議室
定量生物学研究部門 青木 一洋(5235)
GTPとATPは、プリン骨格を持つ核酸で、DNAやRNAの構成ブロックとして組み込まれます。一方で、エネルギー分子として様々な細胞機能を駆動する力としても使われています。ピリミジン骨格をもつ核酸、UTP/TTP, CTPも同様の働きを持っています。興味深いことに、これら4種の核酸は、それぞれ異なるカテゴリーの細胞同化反応に使われています。例えば、脂質合成はCTP、 糖鎖合成はUTP、ATPはそれらを支える基盤として使われています。我々が取り組んでいるGTPは、細胞の主要成分であるタンパク質合成を駆動するエネルギーです。タンパク合成では、一つのアミノ酸伸長において2分子のGTPが消費されます。私達の体では、いまこの瞬間もタンパク合成があらゆる細胞で起こっております。タンパク合成が盛んな免疫細胞や膵臓細胞、そしてすごいスピードで分裂する細胞では、大量のGTP消費が起きています。ところが、教科書にある「細胞のエネルギーはATP」との知識が浸透しているためでしょう、ATPについて膨大な研究が行われATPエネルギー感知機構や制御への知が構築されてきた一方で、GTPについては大きく看過されてきました。
私達はGTPエネルギーを感知する“GTPセンサー”が哺乳細胞類細胞に備わっていることを、2016年に発見しました(Sumita et al., Molecular Cell, 2016)。このGTPセンサーの正体は脂質キナーゼで、なんとGTPを基質として使っていました。さらに爆発的に増殖するがん細胞においてGTP代謝がドラマティックに変化して、その同化作用の基盤となっていることを発見しました(Kofuji et al., Nature Cell Biology, in press)。私達はGTPエネルギー代謝には、まだまだ多くの秘めたる驚くべき働きがあると考えています。本セミナーではGTPの視点からみえてくる新たな細胞機能制御そして疾患、そしてGTP代謝を標的とした新たな治療戦略について我々の最新のデータとともに紹介致します。