2019.03.12 部門公開セミナー
キネトコアタンパク質結合ネットワーク変換の制御機構
原 昌稔(大阪大学 大学院生命機能研究科 染色体生物学研究室(深川研究室))
2019年03月12日(火) 16:00 より 18:00 まで
山手3号館2階西 共通セミナー室
初期発生研究部門 藤森 俊彦(5860)
遺伝情報の正確な次世代への継承は、生物の恒常性維持に必須である。そのために遺伝情報の担い手である染色体は、S期で正確に複製され、M期において娘細胞へ均等に分配されなければならない。M期の染色体分配に際して、染色体上のセントロメア領域にキネトコアとよばれるタンパク質複合体が形成される。この複合体と紡錘体微小管とが正確に結合することにより、M期における染色体の均等分配が保障される。そのため、染色体の正確な分配機構を理解するためには、キネトコア複合体の構造や機能を正しく知る必要がある。
キネトコアを構成する主要なサブ複合体として、CCAN (constitutive centromere-associated network) とKMNネットワーク (KMN: KNL1複合体、Mis12複合体およびNdc80複合体) が知られている。CCANは、細胞周期を通じて常にセントロメアへ局在する一方で、KMNはM期にCCAN上へリクルートされる。KMNの構成因子であるNdc80複合体は、微小管に直接結合するため、このCCANとKMNとの結合は、M期に染色体と微小管との結合に重要である。これまでに、CCANの構成因子であるCENP-CおよびCENP-Tが、それぞれ独立にKMNと結合できることが示されていた。しかしながら、これらCENP-CとCENP-Tとが、KMN結合の足場として、どのようにキネトコア上で 使い分けられているかは不明であった。
これまでに提唱されていたキネトコアの形成モデルでは、CENP-Cがキネトコア複合体の中心的なハブとして、染色体から微小管への橋渡しにおいて重要な役割を果たすと考えられていた。しかし、ニワトリDT40細胞を用いてCENP-CおよびCENP-TとのKMN結合を解析したところ、キネトコア上では、CENP-TがKMN結合の主要な足場として機能するのに対して、CENP-CとKMNとの結合は、機能的なキネトコア形成に必須でないことが示された。この結果は、既存のキネトコア形成モデルに反する、驚くべきものであった。本発表では、さらなる解析結果をもとに、なぜCENP-Tが主要なKMNの結合の足場として機能するかを議論したい。また、我々は、CCANとセントロメアとの結合が、細胞周期の進行にともなって変化するということを見出しており、その制御機構についての最近の結果も紹介したい。