2010.10.29 部門公開セミナー
蛍光プローブを用いた生細胞内ATPイメージング
今村 博臣 (大阪大学産業科学研究所/JST・さきがけ)
2010年10月29日(金) 15:00 より 16:00 まで
山手地区3号館2階大会議室
重信 秀治 shige@nibb.ac.jp
アデノシン三リン酸(ATP)は最も重要な細胞内低分子化合物の1つであり,その役割は大きくわけて2つある.1つは良く知られている主要なエネルギー通貨としての役割であり,非常に多くの細胞内求エルゴン反応を駆動するために用いられている.筋収縮などはもとより,細胞運動,細胞内輸送,膜を介した物質輸送,生体高分子の合成,代謝反応等々,さまざまな生命現象はATPの持つエネルギー無しには進行しない.もう1つは細胞の内外における情報伝達物質としての役割であり,インスリン分泌や貪食,発生などにおけるATPシグナルが近年注目を集めている. ところが,従来の細胞内ATPの測定法は,多数の細胞や組織を一旦破壊した後にATP量を測定するというものであったため,生体内のATP濃度の時間的・空間的な分布・変動についての理解は限定的なものであった.そこで,我々はFoF1-ATP合成酵素のATP結合サブユニット(εサブユニット)がATPの結合によって大きく構造変化する性質を利用し,εサブユニットと2つの蛍光タンパク質を組み合わせた蛍光ATPプローブ(ATeam)を開発した[1].ATeamを細胞内に発現させ,ATP濃度に応じた蛍光タンパク質間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)効率の変化をイメージングによって検出することで,生きた単一細胞内のATP濃度の時空間パターンを記録する事が可能となった.例えば,これまで細胞内のATP濃度が均一なのか,それとも細胞内の区画によって異なるのかは全く不明であったが,細胞質と核,ミトコンドリアにそれぞれATeamを発現させる事で,ミトコンドリアでは他の2カ所に比べてATP濃度が低く保たれているということも明らかとなった.最近では,ATPとカルシウムイオンの同時イメージングにも成功しており,カルシウムイオンの上昇がミトコンドリアにおけるATP合成を促進する様子を単一細胞レベルでとらえる事にも成功した(unpublished).本セミナーでは,ATPイメージング技術と関連技術の概要,およびその応用例を紹介する予定である. [1] Imamura et al. (2009) Proc Natl Acad Sci USA 106, p15651-6.