2004.11.25 部門公開セミナー
ニワトリ胚における内胚葉分化・領域化機構
福田公子 (東京都立大学大学院理学研究科生物科学専攻 助手)
2004年11月25日(木) 15:30 より 17:00 まで
山手地区3号館2階セミナー室
分子発生学研究部門 高田 慎治 内線5241 stakada@nibb.ac.jp
内胚葉は消化・呼吸器系の上皮を構成するが,その成立,分化機構は他の胚葉に比べ,ほとんど研究されてこなかった。最近,脊椎動物の内胚葉形成の分子機構が両生類や魚類で進んできたが,鳥類やほ乳類などの有羊膜類では研究が少ない。有羊膜類では,内胚葉は,かなり細胞自立的に分化する両生類とは違い,はじめ中胚葉/内胚葉の両方に分化する細胞集団である内中胚葉としてノード周辺に分化する。そして内中胚葉細胞は原腸陥入とともに内胚葉/中胚葉の運命を選択するとされている。まず内胚葉マーカーとしてsox17のニワトリ相同遺伝子を単離し,発現を調べたところ,今まで中胚葉と思われていた中間層の細胞のうちノードの周りの細胞が一時的にsox17を発現し,ラベル実験によって,この細胞は内胚葉になることを確かめた。次に内中胚葉からどのような機構で内胚葉が分化してくるのかを調べたところ,中内胚葉は,組織自立的に内胚葉に分化すること,分化した内胚葉は中内胚葉からの内胚葉分化を押さえることがわかった。またnodalシグナルを抑制すると内胚葉分化がおこらないこと,内胚葉はcerberusを発現することがわかった。このことから,中内胚葉からはまず内胚葉が分化し,その内胚葉からのcerberusがnodalシグナリングを阻害し中内胚葉が内胚葉に分化を抑えることが示唆された。さらに内中胚葉から中胚葉に分化するにはcerberusによるnodalシグナリングの阻害と同時にFGFシグナルが必要であることもわかった。さらにnodalシグナリングとFGFは発生の早い時期には内中胚葉そのものの誘導にも関わっていることも明らかになった。つまり,発生の時期,場所でnodal/FGFが厳密にコントロールされて内胚葉/中胚葉が分化してくると思われる。
さて,このようにして成立した内胚葉は前後軸にそって領域化し,様々な器官に分化する。この内胚葉領域化機構を知るための基礎的な研究として,原腸陥入期前後での内胚葉運命地図を作製した。ニワトリ初期胚ではノード周辺の胚盤葉上層にあった内胚葉前駆細胞は原腸陥入とともに下層に移動すると言われている。この時期の下層のみをDiIで標識する方法を確立し,その方法を用いて原腸陥入期前後のニワトリ胚の下層を標識後,体節期まで培養し,細胞がどの領域に寄与するかを解析した。その結果,内胚葉は原腸陥入期直前のstage3から原腸陥入が終わるstage5にかけて,予定後腸内胚葉,予定前腸背側内胚葉,予定前腸腹側内胚葉の順に連続して下層に陥入してくることがわかった。さらに予定後腸,前腸背側内胚葉は前方原条から直接下層に陥入するが,予定前腸腹側内胚葉は一度中間層に入り,中間層内を側方に移動してから下層に入ることがわかった。