2003.03.18 部門公開セミナー
PTGS植物とRNAi植物
児玉 浩明 (千葉大学・園芸学部・生物化学研究室・助教授)
2003年03月18日(火) 15:30 より 17:00 まで
情報研修室(431)
統合バイオサイエンスセンターII(生命環境)塚谷グループ 塚谷裕一 内線7512
形質転換植物で観察されるPTGS(Post-transcriptional Gene Silencing)では、導入遺伝子の発現が転写後に抑制される。PTGS では導入遺伝子と同じ塩基配列を持つ内在性の遺伝子の発現も抑制されるため、mRNA の塩基配列が認識され、同じ塩基配列を持つRNA が分解されることで発現抑制が生じると考えられている。一方、RNAi(RNA interference)は1998 年に線虫で初めて観察された遺伝子発現抑制現象である。2 本鎖RNA 分子を細胞に導入すると、導入したRNA と同じ塩基配列を持つRNA の発現が強く抑制される現象である。その後、PTGS/RNAi に必須な遺伝子群が同定され、その一部に相同性が認められる遺伝子が見つかったことから、共通の分子機構が想定されている。その一方で必須とされる遺伝子がなくとも、生物種によってはRNAiが生じるものがあり、RNAiの分子機構にバリエーションがあることも明らかになりつつある。
一方で、PTGS として過去に報告された事例の中には、同じ塩基配列を持つRNA 分子種を分解するという基本的なRNAi の分子機構のみでは説明が難しいものもある。演者はこれまで、脂肪酸不飽和化酵素遺伝子のPTGS について研究を進めてきた。小胞体局在型w-3 脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の遺伝子産物は、リノール酸からa-リノレン酸への変換を行う。過剰発現を狙って作出した形質転換タバコの多くは野生株よりもa-リノレン酸含量が増加したが、PTGS により野生株よりも大幅にa-リノレン酸含量が減少した系統が得られた。この系統ではRNA スプライシングおよび翻訳の段階で抑制的な制御が働いていることを示唆するデータが得られており、遺伝子の種類によっては植物のPTGS が、転写後の多段階からなる抑制的な制御機構により成立していることを示唆している。今回はこのような観点から、実際にRNAi植物とPTGS植物とを比較し、その違いについて考察したい。