2002.04.04 部門公開セミナー
細胞間接着における大腸癌抑制 遺伝子産物 APCの役割~ショウジョウバエホモローグの解析から~(濱田文彦)
2002年04月04日(木) 15:00 より 16:30 まで
情報研修室(431)
形態形成研究部門 上野直人 内線7570
演者:濱田文彦博士(MRC Laboratory of Molecular Biology.Cambridge.UK)
大腸癌の癌抑制遺伝子 APC の異常は、大腸癌をはじめ種々の癌の発生に深く関わっている。APC蛋白質は、Wnt/Wingless(Wg)シグナル伝達系の主要なエフェクター分子であるβ-catenin(the vertebrate homologue of Drosophila Armadillo)分子と結合し、その細胞内レベルを調節することにより、このシグナル伝達系を負に制御することが明らかになってきた。一方、APC蛋白質は、細胞膜に局在していることが知られているが、細胞間接着における APC 蛋白質の役割については、未だ不明の部分が多い。ショウジョウバエには2つの APC 遺伝子が存在するが、このうち ubiquitous に発現している E-APC 遺伝子産物は、epithelial cell において adherens junction に局在していることが知られている。我々は、この E-APC 遺伝子に変異を持つミュータントフライの単離に成功した。このミュータントでは、Armadillo 分子が adherens junction から遊離し、電子顕微鏡下で細胞間に多くの間隙が認められた。さらに egg chamber では、cadherin を介する細胞間接着の異常の場合に観察される、oocyte の mislocalisation が認められた。これらの知見は、APC 蛋白質が、Wnt/Wg シグナル伝達系を制御するだけでなく、細胞間接着の維持に重要な役割を担っていることを示唆しており、大腸癌の発生初期に認められる腺種の形成、さらには腫瘍の進展において、APC 遺伝子の変異による細胞間接着の異常が関与している可能性が考えられる。