平成21年7月に21件の公募研究課題が採択されました。

同一場における転写因子のDNA結合・転写活性同時評価法の確立

研究代表者:三國 新太郎 (北海道大学 大学院医学研究科 連携研究センター 先端研究開発部門 特任助教)

MikuniShintaro.JPG遺伝情報発現は転写調節によってその大半が制御されています。その転写調節には様々な因子が関与していますが、転写因子のDNAへの結合が主な転写調節の トリガーであることが知られています。つまり、転写因子-DNA間の相互作用の解明は、すなわち遺伝情報発現の中心的な命題の解明とも言えます。我々は1 fL(10のマイナス15乗リットル)以下の微小空間を出入りする蛍光分子のゆらぎから「分子の動き」「分子数」「分子間相互作用」の情報を得ることのできる蛍光相関分光法(FCS)・蛍光相互相関分光法(FCCS)を用いて、転写因子-DNA相互作用とそれに伴う転写活性化量の一連の評価を単一溶液系で定量化可能な新たな測定系の確立を目指すとともに、生細胞核内での測定系への拡張を行い、「転写活性場」における転写に係わるタンパク質群の時空間的な解析を目標としています。

研究室HP(北海道大学大学院先端生命科学院細胞機能科学分野)

ヒストン分子から見た複製や染色体分配の場の解析

研究代表者:関 政幸 (東北大学大学院薬学研究科遺伝子薬学分野・准教授)

ヌクレオソームは、ヒストン H2A, H2B, H3, H4 の各2分子からなるヒストン八量体にDNA が巻き付いたものである。複製フォークの進行にともない、親鎖上のヒストン八量体は分解され二つの娘鎖に分配される。ところが、親鎖ヒストン八量体がどのように分解され、その各ヒストン成分がどのように娘鎖に分配されるのか、ほとんど解析されていない。そこで本研究では、親鎖ヌクレオソームの分割のメカニズムの解明を目指す。また、出芽酵母の網羅的ヒストン点変異株を解析中に、DNA複製に欠損を示すヒストン変異株の多くは染色体分配の異常の指標となる微小管重合阻害剤に感受性を示すという意外な発見をしている。本研究では、このDNA複製と染色体分配という一見すると大きく異なる過程に共通するヌクレオソーム構造変換機構の解明も目指す。

研究室HP

細胞核の内部構造構築とダイナミクスにおけるアクチン関連タンパク質の機能解明

研究代表者:原田 昌彦 (東北大学大学院農学研究科・准教授)

HarataMasahiko.jpg細胞核の構造に基づくクロマチンの核内収納はゲノム機能制御における重要な分子基盤の一つであり、発生・分化・疾病などと関連した核内構造の変化も観察されている。しかし、核内部の構造特性(クロマチン空間配置や染色体テリトリーなど)を説明する基本原理や分子構築には不明な点が多い。我々は、このような核内アーキテクチャーに、アクチンと進化的ファミリーを形成するアクチン関連タンパク質 (actin-related protein; Arp)が関与することを見出し解析を行なっている。また、これらの核内Arpは初期胚での発現が多いなど、発生分化に伴う核構造変化にも関与する可能性がある。Arpを含む核内アーキテクチャーによるゲノム機能制御として、遺伝子発現に加えて、ゲノム安定性維持との関連についても、その分子メカニズムを明らかにしてゆきたい

ピエゾマイクロ3次元振動デバイスによる生細胞核内ストレス分布の無侵襲評価法

研究代表者:小沢田 正 (山形大学 大学院理工学研究科 機械システム工学専攻・教授)

KosawadaTadashi.jpg本研究では,細胞の計測・評価用ピエゾマイクロ多段触覚プローブセンサー・3次元アクチュエータ複合デバイスシステムの開発を行う。このシステムは,細胞表面に対する圧縮,せん断,振動などのマイクロ力学刺激付加とその応答としての360度細胞内部ストレス分布評価を行うことにより,細胞内部の特定領域とくに核内のストレス分布を無侵襲で検知することをめざすものである。したがって,細胞全体および細胞の主要構造部分のストレス分布と細胞の機能との関係解明を試みることが可能となる。特に,生細胞核内のストレス強度,分布,異方性などを無侵襲で計測することにより,遺伝情報場の力学的環境のメカニズム解明に貢献することをめざしている。

研究室HP

細胞核における遺伝情報の収納と染色体代謝の共役機構

研究代表者:松浦 彰 (千葉大学・大学院融合科学研究科・教授)

MatsuuraAkira.jpg染色体動態は核内での染色体の局在性やクロマチン状態により動的・機能的に制御されている。核における染色体の存在様式はさまざまなレベルで制御されていると考えられ、その制御の一端は核膜とクロマチンとの相互作用により担われている。核膜の裏打ち構造形成に関与する細胞骨格タンパク質ラミンの異常はラミノパチーと総称される多様な病態の原因となる。ヒトの常染色体性優性の疾患である早期老化症プロジェリア症はラミノパチーのひとつであり、lamin Aのスプライシング異常によるトランケート型タンパク質の発現により、核形態が著しく変形することで生じる病態である。本研究は、変異lamin Aの“切れ味のいい”誘導系を構築し、染色体代謝における核膜構造の生理機能を明らかにすることを目的とする。さらには、高次生命現象(老化、細胞死)に対する核膜構造の機能的関与にも迫りたい。

研究室HP

確率的遺伝子発現のロバストな現象論とその実験検証

研究代表者:若本 祐一 (東京大学 複雑系生命システム研究センター・准教授)

Wakamoto.JPG細胞内のタンパク質の発現量は、遺伝子発現反応に関わる分子の少数性や細胞内の反応場の不均一性などに依存して大きなゆらぎを持つことが予想される。この遺伝子発現ゆらぎは、環境情報に応じた発現応答の正確性の限界を定める重要な指標となり、またある種の発現制御回路では、ゆらぎがあることで逆に正確に目的機能を発現するという、直感から大きく外れた、ゆらぎの本質的役割も示唆されている。細胞内というマイクロメータースケールの特殊環境で進行する遺伝子発現反応の性質を理解するためには、このゆらぎの特性を知ることが非常に重要だと考えられる。
 この研究課題では、遺伝子の種類や生物種を問わずみられる「遺伝子発現ゆらぎ」に注目し、特に、発現制御関係などの細かな状況設定の違いに依存しない、ロバストな現象論的性質を実験・理論の両面から探っていきたい。

研究室HP

ゲノムサイズクロマチンファイバーの単離と物性計測・高次構造解析

研究代表者:小穴 英廣 (東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻・准教授)

OanaHidehiro.jpg顕微鏡下で細胞から長大なクロマチンファイバーをインタクトな状態で単離する技術を確立すると共に、得られたクロマチンファイバーに対し、光ピンセットを用いた単分子操作技術を応用して物性計測を行う。またAFMを用いて得られたクロマチンファイバーの微細構造を明らかにすると共に、クロマチンファイバーの持続長等の計測に取り組む。更に、転写活性化因子などのDNA結合タンパクを添加した際のクロマチンファイバーの物性変化をリアルタイム計測するとともに、ゲノムサイズの長大なクロマチンファイバーの物性変化が局所的に起きているかどうかについて明らかにすることを目指す。本研究課題においては、これまでに我々が構築してきた巨大DNA単分子操作技術、微細加工技術を応用・発展させ、これまでにないクロマチン単分子操作・解析手法の確立を学際的に進めることで当該領域の発展に寄与したいと考えている。

研究室HP

核内外の力学要素の探索と核の応力場解析

研究代表者:長山 和亮 (名古屋工業大学 大学院工学研究科 機能工学専攻 バイオメカニクス研究室・助教)

Nagayama.JPG我々はバイオメカニクス的観点から,血管などの組織内で生じている引張・圧縮などの力の変化が,細胞形態や細胞の内部構造にどのような影響を与えるか詳しく調べてきた.この過程で,細胞の増殖性や収縮性などの違いによって核の形態が全く異なること,細胞内の核には圧縮力が作用しており,細胞内の力のバランスによって核のひずみが一定レベルに保たれている可能性があることなどを見いだしてきた.従って,核の形態,核内外に加わる力,核の力学特性などが,核—細胞質間の遺伝情報伝達に多大な影響を与えている可能性があるが,この点は全く明らかとなっていない.本研究では,独自の細胞マニピュレーション技術を駆使して,細胞核の3次元形態や,ひずみ,力学特性を精密に計測し,生理状態で核に加わる力分布を求める手法を確立していくとともに,力の要因となる核内外の要素を明らかにしていく.このようにして「核の形態・核の応力場」の生理学的意義に迫りたいと考えている.

研究室HP

ノンコーディングRNA転写に共役する新規クロマチン制御機構の解明

研究代表者:廣田 耕志 (京都大学大学院医学研究科放射線遺伝学・助教)

HirotaKouji.jpg昨今の網羅的なトランスクリプトーム解析から、タンパク質をコードしていない転写物(ノンコーディングRNA)が、予想以上に多く存在することが示された。しかしながら、ノンコーディングRNAの中でも比較的長めのポリアデニル化されたメッセンジャーRNA(mRNA)型のノンコーディングRNAの大半は、機能がほとんど解明されておらず議論の的になっていた。私は分裂酵母のfbp1遺伝子座で、RNAポリメラーゼII(RNAPII)によるmRNA型長鎖ノンコーディングRNA (mlonRNA, mRNA-type long non-codingRNA)のカスケード的な転写により、クロマチン再編成が誘起されることを見出した。酵母で発見したこの新規メカニズムを高等真核生物で一般化し、DNA組換えとの関わりや、その分子メカニズムを解明することを目指し、ニワトリBリンパ球DT40細胞で研究します。

研究室HP

ヒストンH3K36トリメチル化を介した転写共役機構―転写因子と核構造体のリンク

研究代表者:浦 聖恵 (大阪大学大学院医学系研究科 遺伝子治療学・助教)

UraKiyoe.JPG遺伝情報の発現は、転写開始からRNAプロセシングそして転写産物の核外輸送と多段階のステップから成る。核内にはこの転写の多段階反応を互いに共役させて制御する場が存在すると古くから考えられて来たが、その実体はよく分かっていない。私達はヒトの発生・分化過程における転写制御機構とその破綻による先天性疾患の発症機構を、遺伝情報発現の場の制御から解き明かすことを目指して、種を越えてゲノムワイドに転写活性状態と正の相関関係を示すコアヒストンH3、36番目リシンのトリメチル化 (H3K36me3)に着目した。そして転写因子と協調して遺伝子コード領域の転写制御に関わり、転写疾患に直結したH3K36me3化酵素の同定に成功した。本プロジェクトではES細胞分化系、マウス胚、再構成クロマチン鋳型の3つの実験系を駆使してヒストンH3K36me3酵素の機能解析を押し進め、転写制御因子と細胞核構造を転写の多段階反応において機能的に結びつた転写制御機構の新概念打ち立てることを目指す。

研究室HP

初期胚発生における遺伝情報場への分子輸送の時空間制御

研究代表者:安原(垣内) 徳子 (大阪大学大学院医学系研究科 生化学・分子生物学講座・特任助教)

YasuharaTokuko.jpg真核細胞の核内外への分子の出入りは核膜孔を介して行われる。小分子は拡散により核膜孔を通過するが、大きな分子はエネルギーを必要とする選択的な輸送により核膜孔を通過する。このような選択的な輸送を担うのが、輸送受容体を中心とした核―細胞質間分子輸送システムである。細胞が内外の環境変化に応じて、遺伝情報に基づいた適切な反応系を働かせるには核―細胞質間分子輸送が欠かせない。我々はこの輸送システムが、ほ乳類幹細胞の分化の過程で転写因子の輸送制御を通し、細胞の運命決定の一端を担うことを明らかにした。本研究では、核―細胞質間分子輸送システムがほ乳類の初期胚発生において、いつ、どのような分子を流通させるか解析する。特に、遺伝子発現制御に関わる機能性分子に焦点を当て、輸送の時空間制御を明らかにする。これにより、核―細胞質間分子輸送による遺伝情報場への情報伝達制御を明らかにし、発生・分化のメカニズムに迫る。

研究室HP

RNAポリメラーゼⅡによる転写の時空間場

研究代表者:木村 宏 (大阪大学生命機能研究科・准教授)

KimuraHiroshi.jpg転写は遺伝情報発現の出発点であるが、生きた細胞核内において転写の場がどのように制御され構築されるのかについての基本的問題は未だ解明されていない。これまで我々は、生きた細胞内でのRNAポリメラーゼIIやヒストン分子のダイナミクスをフォトブリーチや細胞融合などの方法を用いて解析してきた。また、最近、ヒストン修飾を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いて、生きた細胞内でヒストン修飾を検出することに成功した。本研究では、この系をRNAポリメラーゼIIにも適用し、我々が独自に作成した特異的モノクローナル抗体を用いてCTDのSer2とSer5のリン酸化を生きた細胞内で検出することで、RNAポリメラーゼIIによる転写の時空間場を明らかにしたいと考えている。

セントロメアでのDNA相同組換えの分子機構と生理的意義の解明

研究代表者:中川 拓郎 (大阪大学・大学院理学研究科・助教)

NakagawaTakuro.jpgセントロメアは真核生物の染色体を正確に分配するために不可欠な染色体領域である。興味深いことに多くの真核生物で、この領域はリピート配列により構成されている。また、セントロメアに特徴的な高次クロマチン構造が形成され、それが染色体の安定維持に重要であることが知られている。しかし、セントロメアのクロマチン構造がどのようにして形成・維持されるのかについては多くの謎が残されている。これまでの研究から我々は、二重鎖切断の修復などに働くDNA相同組換えがセントロメア・クロマチンの形成、維持に関与することを示唆する結果を得た。そこで、本研究では分裂酵母を用いた分子遺伝学的な解析技術を駆使して、セントロメアでのDNA相同組換えの分子メカニズムを明らかにし、その生理的意義の解明を目指す。

研究室HP

特異的遺伝子のエピジェネティック修飾可視化技術によるエピジェネティクスの時空間的解析

研究代表者:滝沢 琢己 (奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 分子神経分化制御学講座)

TakizawaTakumi.jpg分化に伴う遺伝子発現プログラムの変化においてヒストン修飾やDNAメチル化などのエピジェネティクスは重要な役割を果たしている。一方、細胞分化の際にはエピジェネティクスのみならず、遺伝子座の核内空間配置などゲノムに関連する多くの事象が劇的に変化している。これらの現象は密接に関連していると考えられるが、エピジェネティクス解析がその多くを細胞を溶解して解析する手法に頼っているため、同時に解析し統合的に理解することが困難である。そこで、本研究計画では細胞生物学的な手法により細胞の形態を維持したままエピジェネティクスを可視化する技術の開発を目指す。我々は、これまでにエピジェネティクス修飾が劇的に変化する初代神経系細胞培養の系を確立しており、この培養系を利用し核内でのエピジェネティクス変化がおこる部位を同定する手法を開発し、エピジェネティクス変化に伴う遺伝子座配置変化の有無などについて検討したいと考えている。

研究室HP

遺伝情報場へのフィードバックの同定

研究代表者:守屋 央朗 (岡山大学異分野融合先端研究コア・助教(特任))

Moriya.JPG環境の変化や、変異、転写・翻訳過程のゆらぎは、核におさめられた遺伝情報が正確に機能(蛋白質)に結びつく事を妨害する。これを防ぐにため、細胞システムには機能から情報へのフィードバックが多数存在していると考えられる。遺伝子綱引き(gTOW)法は、遺伝子のコピー数を上げて、細胞システムの特定の要素を過剰にドライブさせることができる。このとき、遺伝子のコピー数と蛋白質の発現量に相関がないならば、核の情報の揺らぎが蛋白質の発現量に影響を与えないようにするフィードバックが、遺伝子発現システムに存在している事を示している。本研究では、酵母の細胞周期関連遺伝子のコピー数を上げた時に、それがmRNAや蛋白質の量にどのように反映されるかを調べ、フィードバックをシステマティックに同定し、その分子機構を明らかにする。最終的には、遺伝子発現制御に組み込まれたフィードバック機構の全容を解明し、その情報を数理モデルへと統合することを目指す。

研究室HP

スモ修飾システムによる修復関連核内ドメイン形成制御機構の解明

研究代表者:田代 聡 (広島大学原爆放射線医科学研究所細胞再生学研究分野・教授)

tashiro.jpg遺伝情報が記録されたDNAの代謝、すなわち複製、転写、修復は、時空間的に精密な制御下に行われる。このため、DNA代謝に関連する蛋白質はそれぞれの素反応が行われる「場」に集積し、高次構造体(核内ドメイン)を形成することが知られている。核内ドメインの形成制御には、蛋白質の翻訳後修飾が重要な役割を果たしていると考えられているが、未だ不明な点が多い。私たちは、DNA修復、特にDNA二本鎖切断(DSBs)修復に関連するゲノム修復蛋白質RAD51が、ゲノム損傷部位に核内ドメインを形成することを明らかにしてきた。一方、RAD51にはSUMO-1が結合することが知られている。 そこで本研究では、RAD51の核内ドメイン形成機構の解明にSUMO化修飾システムの関与を中心として取り組む。

研究室HP

機能性クロマチンモデルとしての人工遺伝子制御システムによる遺伝子転写調節概念

研究代表者:片山 佳樹 (九州大学大学院工学研究院応用化学部門・教授)

KatayamaYoshiki.JPG我々はこれまで、ペプチド-高分子複合体を用いた、細胞内シグナル応答型遺伝子転写制御システムを開発してきた。本システムでは、疾患細胞で特異的に亢進するプロテインキナーゼやプロテアーゼに応答する基質ペプチドを保有する人工高分子が、溶液中、細胞内、およびin vivoにおいて、標的細胞内シグナルに応答して遺伝子転写をOFFからONに転換でき、標的細胞でのみ遺伝子を働かせることが可能である。これらの研究を通して、そのシステムが明瞭に遺伝子を制御できる理由が、DNA鎖の熱運動の制御に依存している事を示唆するデータが得られつつある。そこで本研究では、このシステムを人工の機能性クロマチンモデルと捉え、DNAの運動性と遺伝子転写の関係、あるいは高次構造制御との関係を明らかにするとともに、さらに高効率に遺伝子を制御できる人工システムを開発する事を目的とする。

研究室HP

染色体間ドメインの制御と核形態の定量的解析

研究代表者:斉藤 典子 (熊本大学発生医学研究所・助教)

SaitoNoriko.jpg細胞核は、ゲノムの微小環境を形成することにより遺伝子発現を制御する、高次エピジェネティクス機構のひとつです。細胞核内は転写、複製、RNAのプロセッシングなどが、複雑な制御を受けながら起こることを反映して、高度に組織化されています。染色体間領域には様々な核内構造体が存在し、その形成機構が明らかにされることが期待されています。細胞の増殖・分化、疾患において、遺伝子発現プロファイルが変動するとともに、核構造がダイナミックに変化し、遺伝子の核内配置プログラムが再編成されます。がんを含む疾患には細胞核形態の異常が多く見られ、診断にも頻繁に使われるものの、その機序の多くは不明で、客観的な計測システムを構築することが必要であると考えられます。本プロジェクトでは、細胞核内構造体形成と機能の分子機構を解明すること、細胞核の形態を定量化・分類する技術を確立・検証することを目標とします。

研究室HP

シミュレーション計算によるヌクレオソーム構造形成の自由エネルギー地形解析

研究代表者:河野 秀俊 (日本原子力研究開発機構・グループリーダー)

KonoHidetoshi.jpgヌクレオソームコアの構成要素であるヒストンタンパク質とDNAの相互作用を非平衡系の分子動力学計算によって解析し、ヌクレオソーム構造形成の素反応の自由エネルギー地形を明らかにすることを目指しています。また、ヒストン修飾によってその自由エネルギー地形がどのように変化するかを調べ、ヒストン修飾の意味を分子論的に明らかにしたいと考えています。得られた自由エネルギー地形は、ヒストン置換やヌクレオソーム再構築因子の働きを解明する際に、その解析基盤を与えることができるものと考えています。また、このような解析は、一分子実験結果と直接比較できるのではないかと考えています。

研究室HP

物理化学的手法を用いたヒトゲノムの折り畳み構造の統合的解析

研究代表者:前島 一博 (国立遺伝学研究所 構造遺伝学研究センター 生体高分子研究室 教授)

Maeshima_photo.JPG直径2nm、全長2mにも及ぶヒトゲノムDNAは、まず、塩基性蛋白質ヒストンに巻かれ、ヌクレオソームになり、さらに折り畳まれて直径約30nmのクロマチン繊維を形成するとされてきた。このクロマチン繊維がどのようにして、最終的に直径約0.7μmの分裂期染色体や、直径10μmの細胞核の中に折り畳まれているのか?については全くの謎であり、長年に渡って生物学者たちの興味を集めてきた。この問いに答えるため、私たちは、「生きた状態」に近い細胞観察ができるクライオ電子顕微鏡や、溶液中の非結晶物体の構造解析が可能なX線散乱解析などの物理化学的測定をおこなってきた。これに、従来の細胞生物学的手法を組み合わせ、新しい視点から、ヒト分裂期染色体や細胞核内のヒトゲノムDNAの折り畳み構造(クロマチンorganization)を解明しようとしている。現在までの知見ではヌクレオソームに相当する11nm散乱のピーク以上の大きな構造は検出されていない。つまり、ヌクレオソーム繊維の不規則な折り畳みによって成り立っていると考えている。このことは、古くから提唱されているモデルが必ずしも正しくない可能性を示唆している。本研究では生きた細胞の中での核内や染色体内の環境、また不規則に折り畳まれたヌクレオソームがどのように振る舞うのか?をさまざまな方法で調べていきたい。

研究室HP

遺伝情報継承をつかさどる初期胚発生における遺伝情報場変換機構の解析

研究代表者:山縣 一夫 (理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター ゲノム・リプログラミング研究チーム(若山照彦研究室) 研究員)

YamagataKazuo.jpg生殖細胞核は世代を超える遺伝情報継承の場である。その中で受精から初期胚発生過程は特に大きく遺伝情報場が変化する時期であり、一連の現象が適切な場所・タイミングで起きて初めて個体発生に導かれる。一方、体細胞核移植(クローン)では、配偶子の遺伝情報場を丸ごと体細胞のものへと強引に交換する。結果、産仔率は数%と極端に低く、多くは遺伝情報場変換過程に異常を来たし発生不全に陥ると考えられる。つまり、クローン胚における核の異常を理解すれば、正常な発生に必要な遺伝情報場の変換機構を知ることにつながるはずである。本プロジェクトでは、我々がこれまでに開発してきた「発生に影響しない初期胚長時間ライブセルイメージング技術」に単一胚遺伝子発現解析や移植技術を組み合わせて通常受精胚やクローン胚を比較することで、核内の様々な異常とその後の発生への影響を関連付けてゆく。最終的には遺伝情報場継承機構の解明に初期胚発生という点から貢献したい。

研究室HP(若山研究室)