遺伝情報継承のメカニズム

研究代表者:平岡 泰 (大阪大学大学院生命機能研究科 教授)
研究分担者:近重 裕次 ((独)情報通信研究機構 未来ICT研究センター神戸研究所 主任研究員)

hiraoka.jpg私たちは、細胞核の機能構造をダイナミックな視点から理解したいと考えています。細胞核は遺伝子が働くための空間的な場を構成します。その機能を果たすために、多くのタンパク質がダイナミックに相互作用し、離合集散しながら働いています。このダイナミックな生命現象をビジュアルに捉え、その分子的な仕組みを遺伝的に解明するために、顕微鏡イメージングと分子遺伝学の手法を併用し、染色体と細胞核の機能的な構造を解析します。個々の遺伝子産物の記述にとどまらず、細胞の物理化学的実体を意識し、生きている細胞の時空間の中で理解することを目指します。

研究室HP(大阪大学)
研究室HP(情報通信研究機構)

遺伝情報収納のダイナミクス

研究代表者:大山 隆 (早稲田大学 教育・総合科学学術院・教授)

ohyamaphoto.jpg本プロジェクトでは、DNA の物理的特性やトポロジーに着目し、ゲノム・遺伝子の核内収納機構、クロマチン基盤構造構築の分子機構、ならびにそれらのダイナミクスの解明を目指す。我々は、ヒトゲノム全長に渡るDNAの柔軟性マップを完成させた。そして、ヒトゲノムには数Mb の周期で極めて柔軟な特性をもつ小領域(SPIKEと命名)が分布していることを発見した。SPIKEは、ヒトゲノムの収納機構に何らかの役割を果たしていると推察される。そこで本プロジェクトでは、SPIKEを糸口にしてゲノムの収納機構にメスをいれる。具体的には、細胞核におけるSPIKEの配置を可視化し、細胞周期に伴うゲノム・遺伝子収納のダイナミクスを解明する。また、他の真核生物ゲノムに関しても柔軟性の解析を行うとともに、マウスES細胞を用いて、細胞分化とゲノム収納と遺伝子発現の間の関係について解析する。そして、真核生物に共通したゲノム収納の分子基盤を明らかにする。

研究室HP

1分子イメージングによる生命情報の「その場」計測

研究代表者:徳永 万喜洋 (東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生命情報専攻・教授)

Tokunaga.jpg1分子イメージング観察と定量を用いて、染色体の局所領域に一過的に作られる特殊な構造と変化を明らかにする。染色体は、非常に多くの蛋白質と複合体を形成し、高度に高次な構造体として機能している。しかも、その構造は、転写・複製・修復・組換えなどの生命現象において一定不変でなくダイナミックに変化する。DNAの全領域で一斉・一律に起こるのではなく、機能に応じ、特定の時期に特定の局所領域に限局して段階的に起こる。その複雑さと、適切な「その場」計測技術がないため、その実態は未解明の点が多い。我々がこれまでに開発した、対物レンズ型全反射照明法や、薄層斜光照明法による鮮明な細胞内部の1分子イメージング法を用い、細胞核内外の分子の動き・情報の流れ・構造変化を、時空間の関数として可視化する。個々の時空間場で直接観察計測できるという1分子イメージング定量技術の特性を生かし、細胞内での「その場」計測を推進する。

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細胞核の機能的複合体の構造と動作メカニズム

研究代表者: 胡桃坂 仁志 (早稲田大学理工学術院・教授)

PhotoKurumizaka.jpg本研究グループでは、物理的・機能的に相互作用する核内複合体と染色体とを、遺伝情報収納・発現・継承のための「場」の実体として考え、それらの動作メカニズムを生化学的および構造生物学的手法により解析する。具体的には、まず、核内複合体の機能・構造解析をクロマチンレベルで行うために、クロマチンをリコンビナント蛋白質群によって再構成する系を確立する。そして再構成クロマチン自体の構造的・機能的性質を、生化学的および構造生物学的手法により解析し、クロマチン高次構造と機能発現との相関を明らかにする。また、クロマチンの機能発現に重要な新規の核内複合体を同定するために、コアヒストンに結合する因子群の解析をプロテオミクス法によって行う。さらに、ダイナミックなクロマチン構造変換期、例えば細胞増殖や生殖細胞形成の際、に働く蛋白質群に着目し、これらの蛋白質に結合する因子群をプロテオミクス法により同定する。これらの解析から、局所的・過渡的に染色体の配置や構造変換に機能する核内複合体の同定を行う。並行して、これらの核内複合体の再構成を行い、それらの機能・構造解析を行う。

研究室HP

プロテオミクスによる遺伝情報発現の場の理解

研究代表者:小布施 力史 (北海道大学 大学院先端生命科学研究院・教授)
研究分担者:長尾 恒治(北海道大学 大学院先端科学研究院)

PhotoObuse.JPG本研究グループでは、遺伝情報発現制御の場を支える分子基盤、構造基盤を理解するために、主にプロテオミクス解析を用いて、染色体DNA 上に形成される蛋白質複合体の構成蛋白質を同定し、その機能を明らかにする。特に、クロマチン構造と核構造について、その階層性、発現制御を担う機能複合体との相互作用、空間的配置との間にあるクロストークを明らかにし、遺伝子発現制御を、核内の時空間軸に制御された「場」の理解を加えて分子レベルで解明することを目的とする。細胞増殖や分化の過程での分子ネットワークの動態を、生細胞イメージングや1分子イメージングを駆使して計測と解析を行う。さらに、遺伝学的手法による表現型の解析により、明らかにした分子基盤、構造基盤の生物学的な意義を検証する。得られた知見をもとに、生きている細胞内の遺伝子発現の時空間場を形成する分子・構造基盤を理解することを目指す。

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発生・分化におけるクロマチン高次構造の解析

研究代表者: 末盛 博文 (京都大学 再生医科学研究所 附属幹細胞医学研究セ
ンター 霊長類胚性幹細胞研究領域・分野主任 准教授)

PhotoSuemori.jpg遺伝子発現がゲノムのDNA塩基配列情報だけではなく、ヒストンのメチル化アセチル化などの修飾によるクロマチン構造、さらに広範な染色体領域の高次構造の変化によっても制御されると考えられる。このようなクロマチン高次構造が核内に作り出す「場」とその変化は、哺乳動物の発生分化においても遺伝子発現制御機構として重要な機能を果たしていると考えられるが、まだまだ未知な部分が多い。そこで、発生初期の細胞分化における遺伝情報「場」の機能を明らかにするために、我々が持つ高精度の分化誘導技術を応用する。クロマチン高次構造が細胞分化の過程でどのように変化し、どのように機能しているかを明らかにし、最終的には遺伝子発現制御機構という枠組みを越え、「クロマチン高次構造それ自体が、情報の伝達や機能発現に関与する」ことを示したい。

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発生・分化におけるクロマチン高次構造の解析

研究分担者:山縣 一夫 (大阪大学)

初期胚発生における遺伝情報場ダイナミクスの定量化の試み

Yamagata.jpg受精・初期胚発生では、短時間に細胞がその分化状態を大きく転換させながら、同時に遺伝情報をすばやく増幅させる。そのため、核内ではジェネティックおよびエピジェネティックなイベントが次々とおき、かつそれらがネットワークを形成し、最終的な個体発生へと通じる。実際、それらいずれかの制御の破たんが連鎖的に次の異常を引き起こし、結果的に流産などの発生不全に至ることが、顕微授精胚や体細胞クローン胚などの発生不全胚の解析から明らかとなってきた。異常発生の原因や、発生に与える影響を明らかにするためにも、これら一連のイベントが織りなすネットワークの全体を包括的に理解することが重要になると思われる。本研究では初期胚ライブセルイメージングで得られた多次元画像情報を定量化する技術を開発し、それらイベント間の相関性を一つ一つ明らかにすることを目的とする。

シミュレーションによる生命情報の場の再現

研究代表者:木村 暁 (国立遺伝学研究所 新分野創造センター 細胞建築研究室・准教授)

Photo_AkatsukiKimura.jpg線虫C. elegansの初期胚をモデルとして、細胞核内で遺伝情報を取り巻く環境について空間的視点から定量化し、遺伝情報場の理論を提唱することを目的とする。本研究では遺伝子収納の場である核の大きさに着目する。核の大きさは遺伝情報の核内濃度を左右するため、遺伝情報の制御に多大な影響を与えうることが予想されるが、そのような視点からの解析は従来なかった。遺伝情報の制御因子と染色体との会合の様子を定量化するアッセイ系を構築し、核の大きさが遺伝情報制御に与える影響を解析する。そして、これらの定量結果を踏まえて核の大きさが遺伝情報の制御に及ぼす影響を理論モデル化し、コンピュータシミュレーションと実験データの比較により理論化の妥当性を検証する一連の研究により細胞核という空間場が遺伝情報を制御する様相の理論的理解と再現を目指す。

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