2007年12月25日

塚谷 裕一 客員教授が日本学術振興会賞を受賞


基礎生物学研究所 植物発生遺伝学研究部門の塚谷裕一客員教授(東京大学大学院 理学系研究科教授)が第4回 日本学術振興会賞を受賞しました。受賞対象の研究は「葉の形態形成メカニズムの解明」です。日本学術振興会賞は、我が国の学術研究の水準を世界トップレベルにおいて発展させるために、創造性に富み優れた研究能力を有する若手研究者(45歳未満対象)を顕彰し、その研究意欲を高め研究の発展を支援する必要から平成16年度に創設された賞で、日本学術振興会が選考を行います。受賞式は3月3日に日本学士院で行われる予定です。
 


2007年12月14日

コケゲノムの解読
〜植物の陸上征服を可能とした遺伝子の進化解明へ一歩前進〜


日本、米国、ドイツ、イギリスなど6ヶ国からなる国際共同研究チームがコケ植物ヒメツリガネゴケのゲノム解読に成功しました。日本は、基礎生物学研究所、金沢大学、国立情報学研究所、国立遺伝学研究所、東京大学、名古屋大学、総合研究大学院大学、科学技術振興機構の研究者グループが完全長cDNAの配列決定を分担し、約3万6千遺伝子を発見しました。その結果、陸上植物の進化過程で、植物の形作りや環境応答に必要な植物ホルモン関連遺伝子、乾燥耐性に必要な遺伝子、放射線などによってダメージを受けた遺伝子の効率的な修復機構に関わる遺伝子などが生じたことがわかりました。今後、これらの遺伝子の詳細な機能解析を行うことによって、陸上植物の進化に関与した遺伝子の解明、コケ植物の持つ高い環境耐性能力などを利用した農林業的応用や地球環境対策への応用が進むことが期待できます。この成果は、2007年12月14日に米国科学誌Science(サイエンス)オンライン速報版で公開されました。
 


2007年10月9日

卵や精子のもとの細胞(生殖細胞)は性分化に大きな役割をはたす


基礎生物学研究所の黒川紘美 元大学院生と田中実 准教授らは、卵や精子のもとになる細胞である生殖細胞がなくなるメダカを作成し、生殖細胞が性分化に果たす役割を解析しました。その結果、生殖細胞をまったく持たないメダカは、遺伝的に決まっている性別にかかわらず外見がオスの形態になることが明らかになりました。これは生殖細胞が卵や精子になるだけでなく、身体がオス・メスに分かれていく過程(性分化)にも積極的に関与することを示しています。動物の性分化および性転換の分子メカニズム解明につながる成果として注目されます。この成果は米国科学アカデミー紀要オンライン版にて2007年10月9日-13日の間に発表されました。
 


2007年7月13日

細胞内の分解/リサイクルのシステムを支える膜形成の仕組みを解明


基礎生物学研究所 分子細胞生物学研究部門の中戸川 仁 助教および大隅 良典 教授らは、細胞内の分解/リサイクルシステムであるオートファジー(自食作用)における特殊な膜構造を作り出す仕組みを明らかにしました。オートファジーとは、細胞が持つタンパク質や構造体を大規模に分解/リサイクルするための仕組みのことです。オートファジーは細胞内の新陳代謝を高めたり、飢餓時には分解産物からエネルギーを得るなど、様々な生命活動において重要な働きをしています。オートファジーには、分解すべきものを取り囲んで隔離する特殊なふくろ(オートファゴソーム)が必要ですが、このふくろを作り上げる仕組みはこれまで謎に包まれていました。研究グループは、オートファゴソームの形成に必要な「Atg8」という小さなタンパク質に、ふくろの材料となりうる脂質膜同士をつなぎ合わせ、特殊な融合状態(ヘミフュージョン)にする機能があることを明らかにしました。さらに、このAtg8の機能は、オートファゴソームの膜を大きく伸ばす段階に重要であることを発見しました。本発見は全く新しい生体膜形成メカニズムを示しており、オートファジーのメカニズム全容解明のための突破口となると期待されます。また最近、オートファジーは細胞内の浄化メカニズムとして、パーキンソン病やハンチントン病といった神経変性疾患等の原因となる異常タンパク質の蓄積を防ぐことで、これらの発症に対して抑制的に働くことが明らかとなってきました。本研究は、これら病気の予防法や治療法の開発につながる可能性も秘めています。本研究は、戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「代謝と機能制御」研究領域(研究総括:西島正弘)の研究テーマ「オートファジーにおける脂質膜組織化機構の解明(研究者:中戸川 仁、基礎生物学研究所 分子細胞生物学研究部門、助教)」の一環として、同研究所の大隅良典教授らのグループとの共同研究によって得られたものです。今回の研究成果は、米国科学雑誌「Cell(セル)」オンライン版にて207年7月13日に公開されました。
 


2007年7月3日

精子の幹細胞を維持する機構を解明
〜幹細胞を維持する細胞(ニッチ)の形成機構を明らかに〜


岡崎統合バイオサイエンスセンター/基礎生物学研究所の小林悟教授らは、精子をつくる幹細胞を維持する機構を世界にさきがけショウジョウバエで明らかにしました。幹細胞が維持されるために必要な細胞群は、生殖幹細胞ニッチ(ニッチ)と呼ばれています。本研究グループは、セブンレス(sevenless)という名の遺伝子に注目、この遺伝子の機能が精巣原基で失われるとニッチが異常に拡大することを明らかにしました。さらに、それに伴い幹細胞や精子に分化する途中の細胞が精巣中に過剰に蓄積され、精巣が腫瘍化することも明らかとなりました。ニッチおよび生殖幹細胞は、一生を通して精子が作られ続けるために必要ですが、これらの細胞が異常に増えると腫瘍化を引き起こすことが明らかとなったわけです。この危険性を回避し、正常に精子を作り続けるために、セブンレス遺伝子が必要であることが示されました。幹細胞は分化した細胞を供給する元となるもので、器官の成長や維持さらに再生時に重要な役割を果たします。一方、幹細胞数の異常な減少や増加は、腫瘍化など器官の正常な機能を妨げる要因になると考えられています。したがって、適正な数の幹細胞を維持する機構の解明は、生物学や医学の研究分野で特に注目されている研究課題です。幹細胞の維持には幹細胞と隣接するニッチと呼ばれる細胞群の働きが必須であることがいくつかの器官で知られています。しかし、ニッチそのものが発生過程で形成される機構についてはほとんど明らかにされていませんでした。本研究で得られた知見は、多くの器官におけるニッチや幹細胞の形成機構を明らかにする基盤となることが期待され、生殖・再生医療にもつながる可能性があります。本研究は、岡崎統合バイオサイエンスセンター/基礎生物学研究所の北舘祐研究員、小林悟教授らの研究グループにより行われました。研究の詳細は、2007 年7月3日に、米国の専門誌 デベロップメンタル セル(Developmental Cell)誌で発表されました。
 


2007年6月11日

運動能の高い細胞、動きの制御に新知見


基礎生物学研究所形態形成部門の木下典行准教授らは、体の形づくりの初期における細胞運動に、パキシリンというタンパク質が不可欠であることを明らかにしました。人間を含む多くの動物の体は、体の外側を覆う表皮、その内側の骨や筋肉、そして最も内側に消化管が配置されています。このような正しい配置を作るには、体づくりの初期に、それぞれの元になる細胞が正しい位置に移動することが必要です。この現象において、将来骨や肉や血管などをつくる中胚葉と呼ばれる細胞群は、高い運動能を持つことが知られています。今回、木下准教授らの研究グループは、中胚葉細胞の高い運動能は、パキシリンタンパク質の分解と更新が適切にコントロルされることによって生み出されるということを発見しました。この成果は体の形づくりを理解する上で重要な発見であり、また二分脊椎症などの病因解明や癌浸潤のメカニズムの理解にもつながるものとして期待されます。研究の詳細は2007年6月11日発行のネイチャー・セルバイオロジー (Nature Cell Biology) 電子版で発表されました。
 


2007年 5月 29日

メダカの生殖腺形成をコントロールする遺伝子を発見


基礎生物学研究所の生殖遺伝学研究室(田中実准教授・斎藤大助研究員・中村修平大学院生)と科学技術振興機構の森永千佳子研究員らは、生殖腺が過剰に発達し、雄から雌への性転換をおこす突然変異体メダカを単離し、hotei(布袋)と命名しました。そしてその原因遺伝子が抗ミュラー管ホルモン受容体タイプ2(amhrII )であることを明らかにしました。性転換は動物によってはしばしば認められる現象ですが,そのメカニズムはまったく解明されていません。また、将来の卵や精子となる細胞(生殖細胞)の数がどのように制御されているかも、明らかにされていませんでした。メダカはY 染色体を持つ個体が雄となり、その性は終生変わることがありません。hotei 変異体では、Y染色体を持つ変異体メダカの約半数が卵巣,あるいは精巣と卵巣とが混じり合った中間的形態の生殖腺を形成し、ヒレの形などの第二次性徴も雌型となりました。これは生殖細胞の数の制御が、生殖腺の性分化に深く関与していることを示唆する初めての結果です。同定された原因遺伝子amhrII は、哺乳類において卵管・子宮,などの雌の生殖腺付属器官が発達するために必須の遺伝子であり、魚からヒトに至るまで広く共通の生殖腺形成と性分化メカニズム解明につながると期待されます。本研究は、JST戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「小型魚突然変異体群を用いた脳領域発生の研究」(研究代表者:近藤寿人 大阪大学大学院生命機能研究科教授)のサポートのもとに行われました。この成果は米国科学アカデミー紀要オンライン版にて2007年5月29日に先行発表されました。
 


2007年 5月 8日

アクチン細胞骨格を制御する短鎖ペプチド遺伝子を発見
〜細胞形態を決定する最小の役者〜


私たちの体の中で遺伝子が働くときには、DNAに書き込まれた遺伝情報をもとに、タンパク質 (ペプチド) が合成されます。合成されるペプチドは、多くの場合100以上のアミノ酸が結合したものですが、近藤武史大学院生 (奈良先端科学技術大学院大学) および 科学技術振興機構 さきがけ研究者の影山裕二研究員らは、わずか11アミノ酸の小さなペプチドを合成するショウジョウバエの遺伝子を発見しました。この11アミノ酸という大きさは、ヒトを含む真核生物の遺伝子の中でもっとも小さいものです。polished rice と名付けられたこの遺伝子は、細胞表面の突起を作るのに必要な骨格(アクチン細胞骨格)を制御しており、細胞の形の決定に重要な働きをしていることが判明しました。この発見は、ごく小さなペプチドをコードしているゲノム領域が、生体内では重要な意味を持つ可能性を示しています。しかしながら、そのような小さな領域はこれまでほとんど注目されておらず、本研究で得れた結果は、現在猛烈な勢いで進行しているゲノム解析において、新たな遺伝子を見つけるための重要な指針になると考えられます。本研究は、科学技術振興機構 (JST) さきがけ研究 (18-21 年度)「RNAと生体機能」研究領域のサポートのもと、影山研究員らの研究グループと、(独) 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 形態形成シグナル研究グループの林茂生グループディレクターらの共同研究により行われました。研究の詳細は、2007年5月7日付けのネイチャー・セルバイオロジー (Nature Cell Biology) オンライン版で先行発表されました。
 


2007年 5月 4日

初期胚の細胞が集団で動くしくみ発見


ヒトを含めた動物の卵は受精したあとに、生き物のかたちづくりのもっとも重要なステップである原腸形成と呼ばれる運動を経て成長します。その運動は将来神経や、皮ふをつくる外胚葉、心臓や骨格筋をつくる中胚葉、胃や腸をつくる内胚葉とよばれる3つの組織細胞の集団が将来の器官をつくるために、ダイナミックに移動して正しい位置に配置します。その移動の間に同じ細胞集団の中の個々の細胞が、集団から離れ他の集団の細胞と交じり合わないように、お互いを認識して接着する(くっつく)ことによって動くことが必須です。基礎生物学研究所の鄭恵英研究員と上野直人教授らは、細胞を互いに接着させることによって、原腸形成を調節するタンパク質をアフリカツメガエルで発見しました。このANR5はヒトを含めた多くの脊椎動物にもあることがわかっており、動物種を超えて共通の働きを持っていることが予想されます。原腸形成が始まるときにこのタンパク質を働かなくすると、異なる細胞同士が交じり合って細胞の移動や異なる細胞同士の分離がうまくいかず、調和のとれた細胞移動に障害が起き、その結果、体長が短くなったり、神経形成の異常ながみられるようになりました。また同タンパク質は細胞膜にあるPAPCというタンパク質に直接結合して、RhoAと呼ばれる細胞内の酵素を活性化することにより、細胞が動くために必要な膜突起の形成を調節していることが明らかになりました。この研究成果は2007年5月3日付けの「カレントバイオロジー」(オンライン版)に掲載されました。
 


2007年 4月 17日

生殖細胞の死を回避するメカニズム


卵や精子すなわち生殖細胞は、子孫をつくるために必要不可欠な細胞です。この生殖細胞は、発生過程の初期につくられる始原生殖細胞と呼ばれる細胞に由来します。始原生殖細胞は生殖細胞を経て次世代の個体を作り、再びその個体の中で始原生殖細胞がつくられるという過程が繰り返されることで生物の生命が維持されているのです。しかし不思議なことに、このような始原生殖細胞はもともとは死ぬようにプログラムされていることが、岡崎統合バイオサイエンスセンター/基礎生物学研究所の佐藤仁泰研究員、小林悟教授らによるショウジョウバエを用いた研究から明らかになりました。そして始原生殖細胞の中に含まれるナノス (Nanos)と呼ばれるタンパク質がこの細胞死のプログラムを抑制することにより、はじめて始原生殖細胞が生き残ることができるようになるという仕組みが判明しました。ナノス・タンパク質はマウスでもショウジョウバエと同様に始原生殖細胞の生存に関わっていることから、この研究成果は哺乳類を含めた動物全般の生殖細胞の維持の機構を明らかにする上で重要と考えられます。本研究は、科学技術振興機構(JST) CREST 研究(12-17 年度) のサポートのもと岡崎統合バイオサイエンスセンター/基礎生物学研究所の佐藤仁泰研究員、林良樹研究員( 現ミネソタ大学研究員)、小林悟教授らの研究グループにより行われました。研究の詳細は、2007 年4 月16-20 日に、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版で先行発表されます。
 


2007年 4月 5日

体液中のナトリウム濃度検知は脳のグリア細胞が行っている


血液や脳脊髄液に代表される体液(細胞外)中のNa(ナトリウム)濃度は生理的Na濃度(約145 mM)に厳密に保たれています。また細胞内のNa濃度(約15 mM)も、同様に厳密に制御されています。細胞内外のこのNa濃度の勾配は、物質輸送の駆動力になっているだけでなく、神経細胞においては活動電位の発生に主要な役割を担っています。このように生命にとって必須であるNa恒常性を保つため、私たちの体は、塩分・水分の経口摂取と腎臓における排泄・再吸収の制御を統合的に行っています。体液のNaと水のバランスが崩れた時、例えば、長時間の脱水は体液中のNa濃度を上昇させます。この時私たちは、のどの渇きを覚え、水分の補給を行うとともに、塩分摂取を抑制します。それでは、この体液中のNa濃度上昇を、私たちの体はどこでどのようにして感知しているのでしょうか。基礎生物学研究所の野田昌晴教授らの研究グループは、この体液中のNa濃度の上昇を検出するセンサーがNaxチャンネルであり、その部位が脳内の感覚性脳室周囲器官であることをこれまでに明らかにしてきました。Naxは細胞外のNa濃度が上昇した時(閾値は約150 mM)に開くという特異なチャンネル分子です。今回の研究により、Naxは感覚性脳室周囲器官のグリア細胞に発現しており、Na濃度上昇の情報はグリア細胞で検出された後、神経細胞に伝達されるという仕組みが明らかになりました。細胞外液のNa濃度の上昇をグリア細胞上のNaxチャンネルが感知すると、Na+/K+-ATPaseが活性化し、グリア細胞のグルコース(糖)代謝が活性化します。その結果、乳酸が産生され、この乳酸が隣接する神経細胞の発火頻度を調節します。これまでグリア細胞は、神経細胞のサポート役と考えられてきました。しかし脳内のNa濃度の検出では、脇役と思われてきたグリア細胞が主役を果たしており、むしろ神経細胞はグリア細胞によってコントロールされていることが明らかになりました。この成果はグリア細胞と神経細胞の役割の常識を覆す発見として注目されます。また食塩の過剰摂取は高血圧や胃ガン等の疾病リスクを高めることが知られており、食塩摂取行動の制御メカニズムの解明はこれらの疾患のリスク低減につながると期待されます。研究の詳細は2007年4月4日付のNeuron誌オンライン版で先行発表されました。
 


2007年 2月 20日

メダカの性決定遺伝子はDMY遺伝子である


多くの生物には雄と雌の二つの性が存在します。性はどのようにして決まるのか、近年その仕組みを遺伝子レベルで解明する研究が盛んに行われています。ほ乳類では、SRY遺伝子の有無により性別が決まることが明らかになっています。一方、ほ乳類以外の脊椎動物の性決定遺伝子は精力的に探索されましたが長らく不明でした。基礎生物学研究所 松田勝研究員、長濱嘉孝教授らと新潟大学の酒泉満教授らの研究グループは2002年にメダカのY染色体から性決定遺伝子の有力な候補遺伝子を発見し、DMYと名付けました。DMY遺伝子はほ乳類の性決定遺伝子SRYとは全く構造の異なるタンパク質をコードする遺伝子です。DMY遺伝子突然変異体はメスになることから、DMYは正常発生において雄になるために必須の遺伝子であることが分かりました。しかしながらDMY遺伝子がメダカの性決定遺伝子であることを示すためには、DMY遺伝子が雄への分化に十分であることを示す必要がありました。本研究において松田らは、DMY遺伝子を遺伝的には雌のメダカ卵に導入し、雄になる個体を得ました。よって先の結果と合わせ、「DMY遺伝子は、メダカの雄への分化に必要かつ十分な遺伝子である。」という結論に達することができました。DMYは脊椎動物で見つかった2番目の性決定遺伝子となります。この研究により、メダカは、ほ乳類以外の脊椎動物において、特定の遺伝子の有無によって性別を判定できる唯一の動物という位置づけになりました。水生動物は環境変化の影響を直接に受けると考えられています。環境変化による生物の性別への影響を検証する為のモデルとして、メダカの果たす役割はより大きくなると期待されます。またメダカに関するゲノム情報の収集やバイオリソース事業が日本を中心として活発に展開されつつあることから、メダカは性研究の貴重なモデル生物として国内外の研究者からの注目がますます高まると予想されます。 本研究は基礎生物学研究所(松田勝・長濱嘉孝)と新潟大学(四宮愛・酒泉満)を中心とした研究グループにより実施されました。研究の詳細は2007年2月19-23日の間に、米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版で先行発表されました。
 


2007年 1月 13日

大腸菌環状ゲノムの線状化に成功


生物の遺伝情報を担っているのは染色体(ゲノム:以下ゲノムと呼称)ですが、それには線状のものと環状のものがあります。我々人間を含め、動物・植物のゲノムは細胞の核の中に存在し、全て線状です。一方バクテリア等の原核生物のゲノムは、ほとんどが環状でできています。何故そうなったかについては分かっていません。その理由を探るために、基礎生物学研究所の堀内嵩教授らの研究グループは、良く知られたバクテリアの一つ、大腸菌の環状ゲノムの線状化に挑戦し、世界で初めて成功しました。大腸菌に感染するウイルスであるN15ファージの能力を応用し、環状のゲノムに切れ込みを入れ、環を開いて線状化する方法を用いました。ゲノム中のDNAは2本の鎖状分子が縒り合わさった二重らせん構造をもっていますが、今回の手法で線状化すると、その末端は2本の鎖が切れ目無く連続したヘアピンのような状態になっています。驚いたことに、線状ゲノムの菌は、環状ゲノムの菌と同様に、正常に生育しました。生育ばかりでなく、他の性質についても、ほとんど変わりませんでした。また、この線状ゲノムへの変換では、ゲノムの末端をどこに持ってくるかが重要であることが明らかになりました。正常に生育するのは、ゲノムの中央に複製開始点があり、両腕の長さが同じ場合です。両腕の長さが違えば違うほど、生育が悪くなり、極端に違うと生存出来ませんでした。この成果は世界で初めての環状ゲノムの線状化成功であると共に、線状化に用いた手法はゲノム工学の技術として注目されます。研究の詳細は、2007年1月13日、EMBO reports誌オンライン版で先行発表されました。