ヒト
吉田 松生
吉田 松生
YOSHIDA, Shosei
基礎生物学研究所 発生遺伝学研究部門 教授
総合研究大学院大学 生命科学研究科 基礎生物学専攻 教授

1967年愛知県生まれ。
1991年東京大学医学部医学科卒業、1995年東京大学大学院医学系研究科 博士課程修了、1995年国立精神・神経センター神経研究所にてポスドク、1997年大阪大学細胞生体工学センター助手、1998年京都大学大学院医学研究科助手、2001年〜2005年JSTさきがけ「認識と形成」研究者、2008年から基礎生物学研究所教授。
生殖細胞という生命の神秘への挑戦

マウスにおける精子形成幹細胞の実体

男性の体は、毎日およそ1億個もの精子を新しく作ると言われている。子孫を確実に残すためには、精子を継続して沢山つくることが必要だ。一方で、遺伝情報を正確に伝えるには、1つ1つの精子の質を保つことが重要となる。これらの2つの使命を両立しているカギは、精子のもとになっている「幹細胞」が握っていると、吉田は考える。吉田は、マウスの幹細胞の実体を探り、生命を次世代につなぐ巧妙な仕掛けを明かそうとしている。

研究の原点は昆虫採集

yoshida1.jpg生き物研究の原点は、父親から教わった昆虫採集だった。小学校2年生のとき、蝶の標本の作り方を父から教わり、中学3年生まで標本作りに没頭した。自宅のあった現北名古屋市は自然豊かで、放課後になると友達と夢中になって蝶を追いかけた。そして、「同じ蝶なのに形や大きさが違っていたり、似たように見えるのに違う種であったりするのはなぜだろう」と生き物の多様性に驚き、その秘密を知りたくなった。

ヒトという生き物を知る

そして大学では、生命のことを学びたいという想いと、医師でありながらがんの研究者でもあった父の影響もあり、医学部に進学した。

yoshida4.jpg「医学は人間の治療を目的とした学問ですから、対象はヒトです。なので、ヒトという生き物を頭から足の先まで全体で捉えるという考え方が身に付きました。局地的にとらえるのではなく、全体が連動して機能しているという考えは今の研究のベースになっています。でも、蝶の採集のときに感じた、地球上の生き物の多様性を実感できなかったのは残念でした」

在学中、医師という選択肢も考えたが、やはり生き物の不思議を探りたいと研究者の道を志す。博士課程を終えると、多様性と連続性を生み出している生殖という大きな謎に挑み始めた。

生殖細胞の動きを映像化

yoshida2.jpg吉田の関心は、生殖細胞に関する遺伝子だけでなく、細胞そのものはどう動くか、様々な細胞が集まってどういう風に秩序が保たれているのかという全体の仕組みだ。
これまでの生殖細胞の研究では、生きた細胞を扱うことが難しかった。顕微鏡で見るために、精巣がスライスされ、染色される過程で細胞は死んでしまうからだ。しかし、吉田は、幹細胞に関する遺伝子を見つけるとともに、生きているマウスの精巣の中で、細胞の動きをライブ映像でとらえることに成功。細胞が躍動感溢れる動きを示し、無秩序に見えながら秩序だって動いていることがわかった。こうした最新の技術を駆使しながら、幹細胞そのものやそれをとりまく環境との関係やメカニズムに迫っている。

研究の面白さと孤独

「不思議で美しくて面白い」と生き物の神秘を熱く語る吉田。研究の醍醐味について聞くと「何より、生き物の中に誰も知らないことを見つけた時の喜びは大きい。そして、それを論文で発表したときに、同じ興味を持つ世界中の研究者と仲良くなれることです。共感してくれる人はわずかでも、ディープなところで分かり合えることが嬉しいですね」と話す。

「でも、それまでの作業は本当に孤独で不安です。行き詰まると自分は何のために研究をしているのか、よく自問自答しますし、どの方向に研究を進めるかということも悩みます。そこで、重要なのは、原点に戻ることだと思います。私は、よく研究を始めたころの思いを振り返っています」

研究室のこれから

yoshida3.jpg吉田は、2008年に京都大学から基礎生物学研究所に赴任したばかり。「マウスの生殖細胞という分野は未知のことがたくさんあります。どこから攻めるかは自由ですから、いろいろな角度から挑戦する学生や研究者が集まってくれたら嬉しいですね」と、新しい研究室のマネージメントにも力を入れる。

「基礎生物学研究所の研究者たちは、研究でもプライベートでもたくさんの生き物を扱っています。私も刺激を受け、中断していた蝶の採集を再開したいと思っています」。研究室がオープンして1年、近所で見つけた蝶のさなぎが羽化した。原点である蝶の採集を思い出し、再び生き物の不思議を探る思いを再確認したそうだ。

研究は人生のすべて?

学生やポスドク時代は、研究一色だったという。「とにかく研究をやらなければ」と焦りばかり募って空回りすることも。しかし、2人の子どもが産まれて、親同士のふれ合いを通じて、様々な職業や考え方の人たちと話しているうちに「研究は、結局人生の一部にすぎないのかもしれない。もっと大事なことがあるのではないか」と考えるようになった。その後は、研究を続けながらも一歩引いて自分を見ることができるようになり、以前よりも研究がうまくいくようになったそうだ。

研究室はこんなところ〜研究室メンバーより

吉田先生は研究に関しては厳しいので、学生はしっかりと指導してもらえます。それに、「生き物の研究ってこんなに面白いんだ!」ということも実感できますし、やりがいもあります。もちろん、研究以外でも充実しています。他の研究室と流しそうめんしたり、餅を焼いたりイベントも多いですよ。吉田研究室は立ち上がったばかりなので、新しい学生が来たら雰囲気も変わっていくと思います。ぜひ、一緒に研究室を作って行きましょう!
研究室ホームページ https://www.nibb.ac.jp/germcell/index.html

編集後記
生殖細胞のライブ映像を見せていただき、驚きました。細胞がふわふわと現れ、しばらくうごめいたかと思うと、細胞同士が手をつなぎながら消えていきました。周りの細胞が連携し合ってまとまって動いているのがはっきりわかりました。私たちの体の中でも、1つ1つの細胞が他の細胞と連携して、機能していると思うと、生きていること自体が不思議です。吉田先生が熱く語る「生き物の美しさ、不思議さ」に魅き込まれました。(取材:鈴木和歌奈)
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コンテンツ

  1. 研究者インタビュー(10)
  2. 研究者の視線(7)

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