ヒト
藤森 俊彦
藤森 俊彦
FUJIMORI, Toshihiko
基礎生物学研究所 初期発生研究部門 教授
総合研究大学院大学 生命科学研究科 基礎生物学専攻 教授

1965年 長野県生まれ。
1989年 京都大学理学部卒業、1994年 京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了(理学博士)。1995年 米国ハーバード大学研究員、1997年 大阪大学細胞生体工学センター助手、1998年 京都大学大学院医学研究科助手、2008年 基礎生物学研究所教授。
独自の技術で生命の不思議が隠された“暗黒の2日間”に挑む

ほ乳類初期胚の体軸形成のメカニズム

科学者は、独自の技術や装置の開発により新たな発見を生んできた。ガリレオが自作の望遠鏡で月の表面にクレーターがあることを発見し、フックが自作の顕微鏡で細胞を発見したように。現代の生物学も例外ではない。肉眼では見えない分子に迫ったり、生きたままの細胞を扱ったりするには多くの技術が必要だ。藤森は、メカニカルな技術を駆使し、受精卵というひとつの細胞から体がどうできるのか、という発生の謎に挑んでいる。

工作少年が生物学の世界へ

少年時代は、自称“メカおたく”。家にある時計や電化製品を何度も分解しては怒られた。高校生のころには、自作のトランジスタ回路やアマチュア無線も作っていた。その工作好きが嵩じて、大学では、実験物理学の研究者を目指して京都大学理学部へ進む。しかし、数学の授業が、とんでもなく難しかった。「自分の理解の範囲を超えた」と感じ、大学1年生で物理学者の道を断念してしまう。

そして、「この先どうするのか」と自問自答しながら、リュックひとつで日本各地を放浪した。北海道を旅して海辺を歩いていると、磯にいた貝やヒトデなどの生き物の形が面白いことに気づき、生物学に興味を持った。

「勉強してみると、生物学は面白かったですね。生き物の形がどう決まるのかという発生学が特に面白かった。分子レベルで、発生という現象が説明できるようになってきた時代で、ホットだったんですよ。」そして、細胞同士の接着を研究していた研究室に進んだ。

暗黒の2日間に挑む

fujimori_1.jpg博士を取得した後は、マウスの胚の研究を行うことに決めた。ほ乳類は、精子と卵が受精すると1つの細胞から2つ、4つとどんどん細胞が増えていき、それぞれが皮膚や神経など様々な性質を持つ細胞に分化していき、体が作られる。ここで、生物学がまだ解いていない問題に突き当たる。どうやって背と腹、頭と尻、右と左とそれぞれの体軸が決まるのだろうか。これまでの研究で、体軸は受精卵の段階では決まっておらず、細胞が増えるにつれて、細胞同士がコミュニケーションをとりながらゆるやかに決まっていくことがわかってきた。しかし、詳しいメカニズムはまだ謎に包まれている。

藤森は、発生初期の細胞の移動を明らかにしようと自身でコンピュータ、レンズ、顕微鏡などをつなぎ合わせ、オリジナルの装置を作った。そして、分裂しては移動する細胞の動きを映像化することに成功。

fujimori_fig.jpg

しかし、体軸形成に重要な時期は、母親の子宮の中で進むため細胞がどのように振る舞うかを観察することが難しく、「暗黒の2日間」と呼ばれている。

そこで、藤森は「暗黒の2日間」に光を当てようと、強みである技術開発を活かし、シャーレの中で子宮と同じ環境をつくる技術開発や、細胞の動きを捉える映像化の装置開発などを進めている。

オリジナルな技術が新しい発見を生む

fujimori_2.jpg研究室の一角には、ペンチ、半田ゴテ、導線などの工具がずらりと並んだ部屋がある。その部屋だけに案内されたら、そこが生物学の研究室とはだれも思わないかもしれない。しかし、「科学と技術は密接に結びついている」と藤森は語る。

「科学の発展は、技術の進歩とパラレルです。映像化の場合は、カメラの精度やコンピュータの処理能力が格段に上がり、それに、発達してきた遺伝子操作の技術などが合わさって、これまで見えなかった映像が撮れるようになりました。他の研究者と同じ装置や技術では、同じような結果になりがちです。でも、独自の装置や技術を開発することで、新しい発見が生まれる可能性は大きいと思います。」

研究室のこれから

藤森の研究スタイルは、人がやらないことをやる事。「それには、時代の流れと自分のやりたいことのバランス感覚が重要だと思います。そして、効率と質が重要。むやみに量をこなせば、結果がでるわけではない。効率の良さが左右するのだと思います。」学生の指導でも、能力の高い学生を酷使して芽をつみとるのではなく、やりたいことをやらせて、能力をさらに伸ばす教育を心がけているという。

今後の研究については「発生学のなかで、未解決な問題はまだまだあります。今後は、画像処理技術を向上させ、細胞の移動を数値で表したい。将来的には、動物の体造りを細胞のレベルから説明できるようにしたいと思っています。」と話し、さらなる研究技術開発に意欲をみせた。

休日もメカいじり
fujimori_car.jpg趣味は、モータースポーツ。未舗装の道を走りタイムを競う「ダートトライアル」に挑戦してきた。インターネットでパーツを集め、クルマを好きなように改造しては、近くで行われる大会に出場している。また、カメラも好きで、学会のついでに全国各地で買い集めたというこだわりのカメラコレクションが研究室に並ぶ。

研究室はこんなところ〜研究室メンバーより
研究室は、にぎやかでメンバーは個性的です。みんな1人1芸を持っていて、チェロ、グライダー、ゲームおたくもいます。先生の教育方針は、「やってみなはれ」精神で、基本的に野放しです。でも、研究室内のコミュニケーションは盛んで、ディスカッションはどこでも思いついたときに始まります。
研究室ホームページ https://www.nibb.ac.jp/embryo/

編集後記
藤森先生の研究人生を聞くはずでしたが、インタビューの半分は、クルマとカメラなどメカの話で盛り上がりました。実験物理学から生物学へ転向した藤森先生ですが趣味の工作をガッツリ研究に生かし、それを強みに変えているところがすごいです!(取材:鈴木和歌奈)
>「研究者インタビュー」新着一覧にもどる

コンテンツ

  1. 研究者インタビュー(10)
  2. 研究者の視線(7)

What's New