研究概要

RESEARCH 動物細胞と植物細胞の違いはどうして生じたのか

(村田隆 准教授、富山大学・玉置大介 助教、北海道大学・根本知己 教授らとの共同研究:
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動物細胞には中心体があり、微小管形成中心として働いています。しかし、植物細胞には中心体がありません。では、どうやって中心体無しで紡錘体形成を行っているのでしょうか。動物細胞と植物細胞の違いから生物の細胞内での形作りの共通性を探ります。

実験に用いるタバコBY2細胞

(詳しい研究内容)

基生研の良いところの一つは動物と植物の両方の研究室が近接してあり、日常的に自分と違った実験材料を用いた研究の話が聞けることです。

多細胞生物は、たくさんの細胞からできあがっています。従って、細胞の基本的性質の違いは、多細胞生物の違いを生み出す源です。細胞分裂・伸長は微小管をはじめとする細胞骨格系によって制御されています。動物細胞の微小管は中心体から形成されますが、植物細胞には中心体が見つからず、どこから微小管ができるかは長い間謎でした。村田隆准 教授はどういうわけか微小管が大好きで、微小管をGFPでラベルして楽しそうに毎日眺めていました(長谷部 教授談)。すると、植物細胞では微小管が既存の微小管上から生じている、という常識外の発見をしてしまいました(Murata et al. 2005)。つまり、中心体が無くても、「種」になる微小管があれば、そこから新しい微小管を作りだせるのです。

Murata, T., Sonobe, S., Baskin, T. I., Hyodo, S., Hasezawa, S., Nagata, T., Horio, T., and Hasebe, M. 2005. Microtubules are nucleated on extant microtubules via gamma-tubulin in plant cortical arrays. Nature Cell Biology 7: 961-968.

微小管が枝分かれによって生じることを示す模式図。

動物細胞はくびれて分裂しますが、植物細胞は細胞板を形成して分裂します。細胞板はフラグモプラストという微小管からできた構造が細胞の中心から辺縁に広がることで形成されます。しかし、どうやってフラグモプラストが細胞辺縁に向かって拡大するかは謎でした。村田 准教授は、研究室で毎月全員が発表して行われるプログレスセミナーなどでの議論を通して、微小管に特定の角度で新しい微小管が生え、それが移動することによってフラグモプラストが拡大するという作業仮説を独自に考案し、それを基生研という共同利用機関の利点を生かし、多くの研究者による共同研究としてとりまとめ証明しました(Murata et al. 2013)。

  

Murata, T., Sano, T., Sasabe, M., Nonaka, S., Higashiyama, T., Hasezawa, S., Machida, Y., and Hasebe, M. (2013). Mechanism of microtubule array expansion in the cytokinetic phragmoplast. Nature Communications 4: 1967.

フラグモプラスト。青色はDNA、緑色が微小管を示す。

染色体が分配されるときには紡錘体という微小管の束が形成されますが、動物細胞の場合は中心体が核となってそこから伸び出します。しかし、植物細胞には中心体がありません。でも、紡錘体は形成されます。いったいどうやって形成されるのでしょう。現在、村田 准教授が中心となって多くの研究者と共同研究を行い、この謎解きに挑戦しています。

タバコ培養細胞BY-2の紡錘体。植物細胞は中心体を持たず、紡錘体の極は収束しないが、染色体は正常に分配される。微小管全体と微小管のプラス端をそれぞれmCherry-tubulin(ピンク)、EB1-Citrine(青色)で標識した。

   

植物細胞が中心体無しで分裂できる機構のうち、微小管がどこからできるか、フラグモプラストがどのように拡張して細胞板を形成するかが明らかになり、紡錘体形成の仕組みも明らかになりつつあります。これらの機構を生物全般からの視点で見直し、進化について考察できる日も近いと思います。

日渡祐二 元助教(現・宮城大学准教授)は幹細胞形成維持機構に興味を持って総研大大学院生のときに遺伝子トラップラインを作製し、幹細胞特異的に発現しているラインの責任遺伝子の解析を始めました。ところが、解析した2ラインはともに幹細胞制御というよりは、細胞分裂制御因子でした。乗りかかった船は予想外の発見が得られるまでとことんやるのが我々のスタンスです。その結果、8年かかりましたが、一つの遺伝子はキネシンでフラグモプラスト形成時に微小管をつなげる働きをしていることを明らかにできました。そして、予想外でしたが、細胞内をフラグモプラストが広がっていくときに、進行方向から葉緑体を排除する働きをしていることもわかりました。葉緑体を排除する機構があるなんて考えても見なかったので感動しました。

Hiwatashi, Y., Obara, M., Sato, Y., Fujita, T., Murata, T., and Hasebe, M. 2008. Kinesins are indispensable for interdigitation of phragmoplast microtubules in the moss Physcomitrella patens. Plant Cell 20: 3094-3106.