研究概要

RESEARCH 研究概要

全ての生物は約40億年前に生じた一つの祖先生物から進化してきました。現生生物に見られる多様性は40億年間に蓄積した突然変異によって引き起こされたものです。従って、生物進化の痕跡は現生生物のゲノム上に記されています。

しかし、ゲノムを見ただけでは表現型進化にどんな遺伝子が関わったのかはわかりません。ゲノムを改変してはじめて、ゲノムのどこが表現型に影響を与えるかがわかります。我々は、ゲノム解読とゲノム改変を通して、生物進化の鍵となった現象が、どのような遺伝子のどのような変化によって進化したのかを解明します。

(1)陸上植物の体制進化

多様な陸上植物の形はどのように進化したのでしょうか。我々は、陸上植物進化のミシングリンクだったコケ植物ヒメツリガネゴケ、シダ植物小葉類イヌカタヒバのゲノム解読を行い(Rensing et al. 2008 Science, Banks et al. 2012 Science)、ゲノム改変によって、陸上植物の生殖器官(Hasebe et al. 1998 PNAS, Tanabe et al. 2005 PNAS, Maizel et al. 2005 Science他)、栄養器官(Fujita et al. 2008 Evol. Dev., Aya et al. 2011 Nat. Commun., Xu et al. 2014 Science他)、世代交代(Okano et al. 2009 PNAS, Sakakibara et al. 2013 Science)の遺伝子基盤と進化を世界に先駆けて明らかにしました。

そして、陸上植物の体制進化の鍵となったのは、細胞分裂面の制御機構であることがわかりました。動物でわかってきた細胞分裂面制御に関わる遺伝子は植物ゲノムにはほとんどありません。では、細胞はどんな仕組みでどちらに分裂するかを決めているのでしょうか。その機構はどのように進化してきたのでしょうか。

これまで微小管形成機構とその自己組織化(Murata et al. 2005 Nat. Cell Biol., Murata et al. 2013 Nat. Commun.)、転写因子、植物ホルモンが関わっていることがわかったので、これらをつなぐ仕組みの解明に取り組んでいます。

植物細胞の分裂

植物細胞はどうやって分裂する方向を決めているのでしょうか (村田隆撮影)

(2)食虫植物と植物運動の進化

チャールズ ダーウィンは進化の大きな謎として、「食虫植物」と「植物の運動力」の2冊の本を出版しています。しかし、その後の多くの研究にも関わらず、どのような遺伝子が進化に関わったかは明らかになっていません。我々は、フクロユキノシタのゲノムを解読し消化酵素の進化を明らかにするとともに、温度を変えることで袋状葉と平面葉をつくりわけることに成功しました(Fukushima et al. 2017 Nat. Eco. Evo.)。また、サラセニアの袋型捕虫葉が細胞分裂面の変化によって進化した可能性があることがわかりました(Fukushimae et al. 2015 Nat. Commun.)。どんな遺伝子が袋状葉の進化に関わったのかをフクロユキノシタを用いて探索しています。

これまで遺伝子の研究ができなかった理由はゲノム情報が無かったことと、遺伝子を改変する技術が無かったからです。我々はコモウセンゴケ、オジギソウのゲノム解読、ハエトリソウのトランスクリプトーム解析を行うとともに、遺伝子改変に成功しました。コモウセンゴケとハエトリソウの運動機構、ハエトリソウが2度の刺激で閉じる記憶機構、オジギソウの運動機構を遺伝子改変を通して明らかにしようとしています。

オジギソウの運動2

オジギソウの葉を触ると運動部分にシグナルが蓄積します。刺激の受容、伝達、応答の仕組みを調べることで、植物運動の進化を明らかにしたいです。 (真野弘明撮影) 

(3)分化細胞から幹細胞への変化

植物の大きな特徴の一つは、分化した細胞が動物と比較してより容易に幹細胞に変化することです。我々は、葉を切って水につけるだけで葉細胞が幹細胞に変化するヒメツリガネゴケを用いて、幹細胞化を制御する遺伝子を明らかにしてきました(Ishikawa et al. 2011 Plant Cell, Sakakibara et al. 2014 Development, Palvaskin et al. 2016 Dev. Cell, Chen et al. 2017 Nat. Commun., Sato et al. 2017 Sci. Rep.等)。

そして、たった1つの遺伝子で葉細胞を幹細胞に変えることができるSTEMIN遺伝子を発見しどうして1つの遺伝子だけでこのような変化を起こせるのかを研究しています。

ヒメツリガネゴケのリプログラミング

ヒメツリガネゴケの葉を切って水に漬けておくだけで切り口の細胞が幹細胞になって分裂し伸び出します。どうしてこんなに容易に幹細胞になれるのでしょうか。 (村田隆撮影)

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