研究概要

RESEARCH 研究概要

全ての生物は約40億年前に生じた一つの祖先生物から進化してきました。現生生物に見られる多様性は40億年間に蓄積した突然変異によって引き起こされたものです。従って、生物進化の痕跡は現生生物のゲノム上に記されているはずです。では、どこがどう変わることによって進化はおこったのでしょうか。

この問題を解くために、まず、研究対象とする生物の類縁関係を明らかにする。このステップは系統分類学の範疇に入ります。我々も含めて、この20年間で世界中の研究者によってほとんどの生物の系統関係が明らかになってきました。

次に、モデル生物を駆使して生物進化の鍵となった現象(例えば、植物特有の発生の前適応となった植物特異的な細胞構築機構の進化とか、多細胞化とか、花の進化とか、幹細胞形成維持機構の進化とか、再生能力の進化とか、、)をゲノムのレベル、すなわち、遺伝子レベルまで還元して理解します。細胞生物学、発生生物学、分子生物学の範疇です。

そして、これらの現象を遺伝子レベルまで還元できたら、異なった生物間でゲノム比較、あるいはゲノムの一部を交換することによって、遺伝子系がどうかわることによって多様性が生み出されたかを推定する。つまり、最終的に進化学へとたどりつくわけです。このアプローチで多くの進化の問題点が解決できるはずです。

一方、モデル植物だけでは解決できない、けれども、進化的に重要な現象は多々残されています。例えば、新規複合適応形質の進化です。生き物のいろいろな形質の中には、複数の形質進化が積み重なることによってはじめて適応的となり、未完成な段階では適応的ではなく、かえって生存に不利なように見える形質が多々見受けられます。例えば、食虫植物のウツボカズラの捕虫葉は袋状になっていますが、どういう段階を通ってこんな葉ができたのでしょう。平面的な葉は光合成に最適化されています。少しだけ壺状になった中間段階の葉を持つ突然変異体は、光合成には不利になるので競争に負けて生き残れないように思われます。完全にできあがれば祖先の状態よりも適応的になるのですが、中間段階では不利になってしまいます。個体再生現象も複合適応形質の一つだと考えています。コケの葉を切断して水につけておくと2日くらいで葉細胞が原糸体幹細胞に変化します。原糸体幹細胞から、新しい個体が再生します。このような複雑な過程は進化の過程でどのように組み上げられてきたのでしょうか。

これまでは、モデル生物以外での遺伝子レベルでの研究は困難でした。しかし、ゲノム技術の進展に伴い、どんな生物のゲノム解読もでき、ゲノム編集をして機能解析を行うことが可能になりました。我々はなんとも幸運なことに、最新のゲノム技術と組換えDNA技術を駆使して、ダーウィンも解けなかった進化の謎解きに挑戦できる時代に居合わせたのです。もちろん、ゲノムを見たりいじったりしただけでは複合適応形質の進化は解けません。どうするか。そこが頭と体の使いどころかと思っています。

以上が我々の研究スタンスです。いろいろなレベルでとりとめもなく多様にみえる進化。それを包括的、総合的に説明するゲノムレベルでの一般原則は無いのでしょうか。自然選択や中立説に匹敵するような進化の一般原則をゲノムの中から見つけ出す。これが我々のミッションです。

大学院生、博士研究員募集(リンク:http://www.nibb.ac.jp/univ/
植物発生進化学講義(http://www.nibb.ac.jp/plantdic/blog/
陸上植物の進化(http://www.nibb.ac.jp/evodevo/tree/00_index.html

大学院生、博士研究員、若手教員の教育

「学校は人に物を教うる所にあらず、ただその天資の発達を妨げずしてよくこれを発育するための具なり。教育の文字はなはだ穏当ならず、よろしくこれを発育と称すべきなり。かくの如く学校の本旨はいわゆる教育にあらずして、能力の発育にありとのことをもってこれが標準となし、かえりみて世間に行わるる教育の有様を察するときは、よくこの標準に適して教育の本旨に違わざるもの幾何あるや。我が国教育の仕組はまったくこの旨に違えりといわざるをえず。」福沢諭吉「文明教育論」

研究は誰も見たことも無い、考えたことも無いことを発見することです。個々人は異なったゲノムを持ち、異なった環境刺激によるエピジェネティックな変異を蓄積しているので、必ずオリジナルです。そして、人類進化の過程での生存競争に伴い、いつも好奇心を持って新しいことをする突然変異体が一定の割合で人類集団の中に残っています。これが研究者の能力(遺伝的バックグラウンド)だと思います。それをどう解発するかは個々の大学院生、博士研究員、若手教員自身が考えることです。

我々の研究室では、互いの興味が一致した内容について共同研究を行い、我々のスタンダード以上の研究成果を共同発表します。この過程で、科学者としての流儀は身につくと思います。そして、研究室を出た後にどのような研究をしていくのかを考える機会を提供しています。研究室には、細胞生物学、分子生物学、エピジェネティクス、発生学、進化学などの専門家である4名の教員と、技術職員、博士研究員、大学院生がいます。彼ら、彼女らと研究生活を共にすることにより、広い視野で自分の将来の研究について考えられることを祈っています。