領域概要

領域代表あいさつ

光合成は地球上最強の持続可能なエネルギーシステムです。光合成を持続可能たらしめている要因は、光、水、二酸化炭素というリソースが無尽蔵に手に入るからばかりではありません。環境変化に瞬時に対応するしくみが多段階に備わっている点も極めて重要です。そのようなしくみの中から、私たちは「プロトン駆動力制御」という全く新しい考え方に注目します。それは、葉緑体チラコイド膜という小さな膜の袋の中に貯まるプロトンの挙動を制御し、やがて地球上の光合成反応を統御するという壮大な試みです。この目標に向け、一番詳しい研究者、一番強力な研究手法を持っている研究者、これを活かす方法を一番わかっている研究者などに集まっていただき8つの計画班からなる核を作りました。まず、この計画班内でどんどん共同研究が立ち上がるようにします。次に、われこそはという公募班に入ってもらいます。ひとたび領域に入ればさまざまな共同研究の機会が得られるでしょう。四方から共同研究を申し込まれることでしょう。領域内には光合成解析センターと光合成リソースセンターがあります。これらを利用しない手はありません。また、国際活動支援班が設置されているのも特徴です。やる気のある若手には次々と海外に渡ってもらいます。海外からは有力な光合成研究者がひっきりなしに来日するでしょう。高いレベルの国際会議も開かれます。年に1度は岡崎で、1度は光合成の盛んな自然の中で合宿形式で領域会議をやり、お互いがお互いの研究の質を高める場にしたいと思っています。そんな会議の場での議論を別次元に高めることも考えています。この新学術領域によってそれぞれの研究が大展開した、その結果光合成の新しい学術領域が確立した、となるよう力を合わせていきたいと思います。

平成28年9月1日

領域代表者 皆川純

自然科学研究機構基礎生物学研究所
皆川 純

本領域研究の背景

植物は、それぞれの生育環境(ローカルミニマム)にあわせて光合成機能を最適化させるように進化しました。しかし、光合成システムには、光エネルギーの利用効率を上げると反応の場に傷害(光阻害)が起きやすくなるという悩ましくも不可避な問題があります。そこで、植物は「光を使う」機能と「光を捨てて過剰光から防御する」機能の適切なバランスを保ち障害を避けつつも最大限の光合成を行ってきました。この2つの機能はトレードオフの関係にあり、その最適バランスは環境に依存します。したがって、植物の光合成機能を別の環境で向上させようとする場合、この2つの機能のバランスを再最適化することが必要です。

光によって駆動される電子伝達は、チラコイド膜のストロマ側(外側)からルーメン側(内腔)へのプロトン輸送と連動していますが、プロトンは正電荷を持つために、プロトンの濃度勾配(プロトン勾配)と膜電位が生じます。このプロトン勾配と膜電位の総和がプロトン駆動力であり、化学浸透圧説で知られるようにATP 合成に利用されますが、一方でプロトン勾配は過剰な光エネルギーを散逸させる(光を捨てる)反応であるNPQ(non-photochemical quenching)も誘導します。光合成は、地球の大気組成に影響を及ぼし生物の爆発的な進化を決定づけた巨大なエネルギー変換反応ですが、その活性はチラコイド膜という微小空間で起こるミクロな反応、「プロトン駆動力の制御」によって調節されているのです。

本領域の目的

本領域の目的は、将来的な光合成機能向上への道を拓くことを目標に、光合成システムが環境に応じて「光エネルギー利用効率」と「過剰光からの防御」のバランスを制御するしくみを分子レベルからシステムレベルまで解析し、光合成システムの光エネルギー変換機能再最適化戦略を解明することです。特に、プロトン駆動力を制御する機構、そしてプロトン駆動力によって制御される機構の解明に取り組みます。本領域研究は、植物の持つ光合成の潜在能力を引き出し、植物をローカルミニマムから解放し我々の望む環境へ再最適化する道のりの確立を目指す、目的志向の基礎光合成研究です。

領域の内容

計画研究A01(プロトン駆動力の制御機構)は、主要なプロトン駆動力制御ネットワークの解明を目的として、1) 集光、2)電子伝達、3) プロトン駆動力形成、4) ATP 合成、5)炭酸固定の5つの研究班で構成しています。「プロトン駆動力の制御」は新しい概念であり、従来の植物生理学の境界線を超越しなければ、全体の理解は深まりません。そのため、計画研究A02(解析システムの新展開)を組織して新たなアプローチを導入し、光合成システムの個々の機能単位の機能評価の深化と全体理解を図ります。具体的には、1) 電気生理によるイオン輸送の理解、2)システム生物学によるフローの評価、物質収支解析、そして3) 機能タンパク質複合体の構造評価をそれぞれの専門家が担当します。

総括班は技術支援と情報交換・共有推進の役割を担います。そのため、総括班に高度専門解析を行う光合成機能解析センターと必要な研究材料を提供する光合成リソースセンターを設置し技術支援を行います。また、領域会議、セミナー、シンポジウム、ワークショップの開催などを総括班が主催し、情報交換・共有の推進に努めます。本領域を成功に導くためには、領域研究の国際化が必須です。そのために国際活動支援班を組織し、国際的研究動向の把握、国際ネットワークの形成・強化、国際共同研究などの取組みなどを推進します。

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