ヒト
皆川 純
皆川 純
MINAGAWA, Jun
基礎生物学研究所 環境光生物学研究部門 教授
総合研究大学院大学 生命科学研究科 基礎生物学専攻 教授

1964年東京生まれ。
1987年東京大学薬学部卒業、1992年東京大学大学院薬学系研究科博士課程(生命薬学専攻)修了。1992年イリノイ大学研究員、1995年理化学研究所研究員、2001年北海道大学低温科学研究所助教授を経て、2010年10月から基礎生物学研究所教授。
環境によって変化する光合成システムの実態に迫る

巧みに光を集める光合成から解く植物の生存戦略

フラスコに入った緑色の液体を「かわいい」と言って愛おしそうに見つめる皆川。緑色の正体はクラミドモナスという植物プランクトンだ。20年以上、クラミドモナスを使って光合成の研究をしている。クラミドモナスの魅力とは何なのか。そして、どんなことを明らかにしているのだろうか。

光合成研究に憧れた学生時代

minagawa2.jpg大学院のときは大腸菌を使って、呼吸の研究をしていた。しかし、次第に光合成の研究に惹かれるようになったという。「光合成と呼吸はちょうど逆の反応なので、仕組みとしてはよく似ています。違うのは光を使うかどうか。光合成の実験では、光を当てることで、1回の反応をコントロールできて、そういう細かい制御ができることに憧れたんです。ちょうど当時、光合成の研究者にノーベル賞が与えられたのもあって、光合成の研究はすごく進んでいるように見えたんですね」

そして、ポスドクは呼吸と光合成の両方を扱っているイリノイ大学の研究室に行った。ボスに「クラミドモナスがいいらしいよ」と言われ、クラミドモナスを使って光合成の研究を始めた。

個性のある集光アンテナ

flask.jpg光合成では、光のエネルギーを生物が使える形のエネルギーに変換するために、「光化学系」という大掛かりな装置が、葉緑体のチラコイドという膜に埋め込まれている。この装置には、光を集める「アンテナ」の部分と、集めた光のエネルギーを変換する「反応中心」の部分がある。

「反応中心はどの生物もだいたい同じですが、アンテナは生物の種類や環境によってすごく違いがあります。海の上のほうにいるか、下のほうにいるかでもアンテナは違って、そういうのが面白いと思うようになりました。クラミドモナスは光への対応能力が高くて、アンテナの研究には打ってつけです。かわいいだけじゃなくて、研究対象としても魅力的なんですよ」

最初のブレークスルー

tube.jpg2002年、北海道大学で助教授をしている頃、転機となるできごとが起きた。光化学系には、光化学系Ⅱ(PSⅡ)と光化学系Ⅰ(PSⅠ)があり、あるとき学生が単離したPSⅠに、本来はPSⅡについているはずのタンパク質がついていた。

「最初は"君のやり方がよくないからだ"と言っていたのですが、何度やっても彼が取るPSⅠにはそのタンパク質がついているんです。これはひょっとしてステート遷移かな、と思いました」ステート遷移とは、PSⅡとPSⅠのエネルギー配分のバランスをとる仕組みとして40年以上前に発見された現象のこと。PSⅡとPSⅠは連動して機能するので、どちらか一方に多くのエネルギーが集まるような光環境では、エネルギーの一部をもう一方の光化学系に分けて、エネルギーの配分を調節する仕組みが備わっている。しかし、どうやってPSⅡとPSⅠの間でエネルギーを移動させているのかは、長らく謎のままだった。

spectrophotometer.jpg 皆川の読みは当たり、PSⅠについていたタンパク質こそ、エネルギーを移動させる運搬体だった。このタンパク質はアンテナの役割をする"アンテナタンパク質"で、PSⅡからちぎれてPSⅠにくっつくことでエネルギーを移動させる。その後、世界で初めてこの様子を可視化することにも成功した。

こうした成果は、光合成活性を測定するためのオリジナルの装置や、巨大なタンパク質を分離する高度な技術があってこそ成し遂げられる。これは皆川研究室の最大の強みだ。

もう1つの光合成を証明

minagawa1.jpg2010年、ふたたび妙なタンパク質を単離した。今度はPSⅠとアンテナタンパク質に、さらにシトクロムbfというものもついた超巨大なタンパク質だ。これは、昔からその存在が示唆されていたものの、誰も証明できずにいた、もう1つの光合成の姿だった。

普通の光合成は、チラコイド膜に直列に並ぶPSⅡとPSⅠの間で電子が受け渡され、これを「リニア電子伝達」という。一方、PSⅡは使われず、PSⅠの周りを電子が回る「サイクリック電子伝達」と呼ばれる様式の光合成もあると50年以上前から言われてきた。しかし、誰もそれを単離することはできず、もはや伝説化されていた。

Fig.jpg単離した超巨大なタンパク質は、まさにサイクリック電子伝達が起きている状態のもので、この成果はNatureに掲載された。「アンテナタンパク質がPSⅡについているとリニア電子伝達ですが、アンテナタンパク質がPSⅠにつくとサイクリック電子伝達になります。つまり、ステート遷移が起きることで、サイクリック電子伝達になるわけです。これまでステート遷移だけを見ていましたが、もっと引いて見ると、ステート遷移は全体の一部に過ぎないことがわかってきました。環境が変わったときに、光合成システムが全体としてどう変わるか、私たちはそれを明らかにしたいと思っています」

coral.jpg最近は、研究室でサンゴを飼い始めた。サンゴに共生している褐虫藻という植物プランクトンの光合成を調べようとしている。「褐虫藻は熱帯や亜熱帯に生息する動物に共生しているので、その環境で生き抜くために、ある側面が強く出ている可能性があります。さまざまな環境に特化したものを調べていれば、植物全体の共通項が見えてきて、環境適応のしくみも明らかになってくると思います。サンゴのことはほとんどわかっていないので、大ブレークスルーになる発見が眠っているかもしれません」

自宅でブドウ狩り
北海道にある自宅ではブドウを育てていて、約200株ものブドウがなる。「毎年、近所の幼稚園児がブドウ狩りをしに来て、“皆川さん、ありがとう”とクレヨンで描いた手紙をくれるんですよ」

ホロヴィッツの熱狂的ファン
ウラディミール・ホロヴィッツというピアニストの長年のファンで、CDは200枚くらいもっている。「他の人とは全然違う、本当に輝かしい音を出すんです」と力説。 lab.jpg 学生の頃、来日公演が行われたときには1席5万円のチケットを買って聴きに行き、NHKにインタビューされて、7時のニュースで全国に放送されたという。

研究室はこんなところ~研究室メンバーより
アットホームな研究室です。皆川先生は僕らの発想を尊重して伸び伸びと研究させてくれます。学生だろうと研究員だろうと関係なく、自由にやらせてくれるので、やる気のある人には最高に幸せなラボです。
研究室ホームページ: http://www.nibb.ac.jp/photo/

編集後記
最初はクラミドモナスがかわいいと言われても「?」でしたが、お話を伺っているうちに、光を集めるたくみな仕組みに引き込まれました。緑色の物体にしか見えないけれど、その内側ではものすごいことが起こっているんだなと感慨深かったです。今後サンゴがどう関わってくるのかも、とても楽しみです。(取材:秦 千里)
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