ヒト
小峰 由里子
小峰 由里子
KOMINE, Yuriko
基礎生物学研究所 脳生物学研究部門 助教
総合研究大学院大学 生命科学研究科 基礎生物学専攻 助教

1961年 兵庫県生まれ、神戸市育ち。
1979年 京都大学理学部入学。1983年 酒造会社に入社。1987年 カルフォルニア大学アーバイン校にポスドクとして留学、1995年 基礎生物学研究所 助手。
遺伝子を探り脳の不思議に迫る

脳形成における遺伝子発現調節機構

記憶、学習、思考、感性、理性など私たちの精神活動を司る脳。今や、脳科学は注目を浴びているが、その複雑さゆえにまだ解明されていない謎が多い。小峰は、脳の中で遺伝子がどのようにコントロールされているかを、RNAという物質に注目して調べている。学生時代から、脳研究にたどり着くまでや研究の面白さについて聞いた。

生物の授業が面白くて理学部へ

少女時代は、読書やスポーツが好きないわゆる普通の女の子。進学で理学部を選んだのは、高校の生物の先生が面白く、教科書に書いてある図や写真を眺めるのが好きだったから。「理系に進みたい」と言うと先生から医学や薬学を勧められたが、なぜか実学は気乗りせず、「何となくカッコイイ」と惹かれた京都大学理学部を受験した。

「入学してみると驚きました。京大出身でノーベル賞を受賞した朝永振一郎さんや湯川秀樹さんの影響もあって、ほとんどの同級生は物理学者を目指していました。最初は、自分とのギャップにびっくりしましたが、個性的な仲間が多く、刺激的な学生時代でした。」

そして、上回生になると生物学の研究室に所属。理学部を卒業すると「自分で給料をかせいでみたかった」と酒造会社のバイオ系研究所に就職した。

企業へ就職も再び学生に

komine_1.jpgしかし、商業ベースの研究より、好きなことを追究し続けている大学の研究室の熱気が懐かしくなり、大学院へ行く事を決意。就職から4年目の春に再び学生となった。そして、この頃から研究の世界にどっぷりと浸かっていく。

「研究の面白さは2つあると思います。1つは自分で手を動かして結果を出すこと。もう1つは、自分の仮説が外れても、意外な方向へ進んでいって、新たな発見があることです。もちろん仮説通り結果が出ればいいのですが、そうでない場合も多い。違う方向へ行ってしまっても、そこからどんどん興味が広がっていくことが面白いですね。」

大腸菌やウーパールーパーの研究

大学院では大腸菌の遺伝子解析を行い、博士を取得した後、アメリカのカリフォルニア大学へポスドクとして留学した。そこでは、大腸菌から一転し「ウーパールーパー」の愛称で知られているメキシコサンショウウオの肢の再生に関わる研究を行った。

「いったん、やり出すと止まらない性格かもしれません。実は、研究者になりたいと思ったことはないのです。大きな夢に向かって頑張る人もいると思いますが、私の場合は好奇心に動かされて、楽しいことを続けてきただけなんです。」

脳神経の研究へ

2年半の留学を終え、日本に戻って来ると、現在所属している基礎生物学研究所・山森研究室のメンバーに加わることになり、一からマウスの脳研究をスタートさせた。ここでも、好奇心が大きく刺激されたようだ。

brain.jpg「脳の研究はやり出すととても面白いものだと知りました。脳は、複雑な調節機能が働いていると同時に、わずかな遺伝子の違いが脳の正常と異常を分けています。今は、私たちの思考、記憶、推理などを司っている大脳皮質などの脳の領域がどうできているのか、ということに興味があり、脳の中で遺伝子がどうコントロールされているかを調べています。」

脳が正常であるか、異常であるかは、1つの遺伝子の異常で決まるのではなく、1つが壊れても他がそれを補うといった形複雑に何段階にも調節されている。最近の研究で、その調節にいくつかのRNAも関係していることがわかってきた。ヒトやマウスなどのほ乳類は、魚類、両生類、は虫類などと比べ、大脳皮質が格段に発達している。大脳皮質にある膨大な神経回路網を探ることで、私たちの喜怒哀楽のメカニズムの糸口がつかめるかもしれない。

komine_2.jpg「脳の研究を始めたころは、「心」や「意識」といった精神に関わる問題は科学で解明することは困難だろうと思っていたのですが、ここ10年で研究が大幅に進み、やり出すと興味が湧いてきました。自分の研究が統合失調症やうつ病などの疾患に関係している可能性もあるので、今後は、それらの治療に寄与できたら嬉しいです。」

今後、脳研究の進む方向によっては、また新たな発見や研究の可能性が生まれてくるはずだ。常に新しい研究に好奇心を動かされてきた小峰。これからも、その化学反応は続いていく。

息抜きはバイオリン
violin.jpg研究の息抜きは、バイオリンの練習。数年前に、大人のための音楽教室が開かれていることを知り、サイレントバイオリンを購入した。研究を終えて帰宅した後に家で弾く事も楽しみだが、趣味を通して、研究以外で友達の輪が広がったことも良かったそうだ。休日には友達と「なんちゃってアンサンブル会」を開いて、楽しんでいるそう。

マウスってどんな生き物?
体長は約10センチ(尻尾除く)、体重は約30gで、ちょうど手のひらに収まるサイズ。和名はハツカネズミといい、体色は白、黒、茶色、まだらなどさまざま。いくつかの系統が研究用に繁殖されており、世界中のラボで使われている。「産まれて毛がはえてきた仔マウスが一番かわいい。夜行性なので昼は寝ていますが、起こすとちょこちょこと元気に動き回るんです。一匹一匹で性格が違うので、この子たちは何を考えているのかなと思いながら実験しています。」と、小峰先生。

編集後記
夢に向かって一直線に進むというより、流れに身を任せて面白いことを続けていくというスタイルの小峰先生。常に目の前にあることを楽しみながら、興味を持ったことにはとことん粘る、というしなやかな姿勢が魅力的でした。
(取材:鈴木 和歌奈)
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  2. 研究者の視線(7)

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