2008年12月12日

セロトニンの視覚に果たす役割を解明
〜鮮明な視覚像を得るための脳の仕組み〜


セロトニンは、神経細胞間で情報伝達を行う化学物質である神経伝達物質の1つです。脳内のセロトニン濃度の低下と鬱病等との関係が示唆されていますが、セロトニンの脳における機能はよくわかっていません。基礎生物学研究所 脳生物学研究部門の山森哲雄教授らの研究グループは大阪大学の佐藤宏道教授のグループと共同で、セロトニンが脳内における視覚の情報処理において、雑音(ノイズ)を減少させる役割と、視覚刺激のコントラストを適当な強さに調節する役割を持つことを明らかにしました。今回の研究は、セロトニンの高次脳機能における役割の一端を初めて明確に示したものであり、今後、その脳における役割の全容解明に貢献するものと期待されます。この研究成果は脳科学専門誌Cerebral Cortex オンライン版に12月5日に掲載されました。

 


2008年12月11日

植物種子の発芽エネルギー生成に必須な新規輸送体を発見


基礎生物学研究所 高次細胞機構研究部門の新井祐子研究員、林誠准教授、西村幹夫教授は、種子の発芽エネルギー生成に必須となるタンパク質PNC(ピーエヌシー)を新たに発見しました。植物の種子には脂肪やデンプンといった貯蔵物質が蓄えられており、植物は発芽に必要なエネルギーをこれらの貯蔵物質を分解することによって得ています。脂肪を燃やしてエネルギーを得る過程は主にペルオキシソームと呼ばれる細胞内の構造の中で行われます。この過程に必要な物質が、どのようにしてペルオキシソーム内部に集まるのか、その全容は解明されていません。今回、研究グループは脂肪代謝に必要な物質の一つであるアデノシン三リン酸(ATP) をペルオキシソーム内に輸送するタンパク質PNCを発見しました。このPNCタンパク質を少量しか持たないように改変した変異体植物では、貯蔵脂肪の分解がうまく進まず、健全に発芽することができなくなりました。この研究により、発芽における脂肪の代謝メカニズムの一端が明らかになったと共に、発芽における脂肪の重要性が示されました。今後、この輸送体の研究を進めることで、種子発芽の仕組みを解明するとともに発芽を調節する手法の開発につながることが期待されます。今回の研究成果は、学術雑誌「The Plant Cell」12月号オンライン版に12月10日に掲載されました。また同誌の巻頭に注目論文としてとりあげられました。

 


2008年11月22日

世界初!マナマコの放卵・放精(生殖行動)を誘発する神経ホルモンを発見
〜マナマコの大量生産可能に〜


九州大学(吉国通庸大学院農学研究院教授:研究代表者)、自然科学研究機構(大野 薫基礎生物学研究所助教)、水産総合研究センター(山野恵祐養殖研究所チーム長)の共同研究グループは、マナマコの神経から放卵・放精などの生殖行動を誘発する神経ホルモンの解明に世界で初めて成功しました。今回の研究成果は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センターが実施する「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の平成18年度採択課題「水産無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンの解明と応用(研究代表者:吉国通庸教授)」の研究の一環として共同研究グループが行ったもので、米国発生生物学会誌(Developmental Biology誌)に掲載されます。

 


2008年09月16日

植物の新規細胞小器官“ERボディ”の形成の仕組みを解明


基礎生物学研究所 高次細胞機構研究部門の山田健志助教および西村幹夫教授らは、京都大学大学院 理学研究科 永野惇大学院生および西村いくこ教授と共同して、植物の小胞体から形成される細胞内小器官(オルガネラ)、ERボディの形成機構を明らかにしました。ERボディは、小胞体から形成される新規細胞小器官として2001年に高次細胞機構研究部門がモデル植物のシロイヌナズナより発見し、解析が続けられています。植物は様々な環境に適応して生きるために、新しい機能をもつ細胞小器官を形成したり、既存の細胞小器官の機能を変換したりすることができます。ERボディは、小胞体という本来分泌タンパク質の合成の場として働く細胞小器官が、βグルコシダーゼという酵素を大量に蓄積するために特殊化した新しい細胞小器官です。ERボディは幼植物体に見られますが、傷害や食害によっても誘導されるため、病害や虫害に対する防御のための細胞小器官であると考えられています。さらに、ERボディは、シロイヌナズナを含むアブラナ目にみられる細胞小器官であることがわかっています。これまでは、どのようにして小胞体よりERボディが形成されるのか、わかっていませんでした。今回、研究グループが発見しNAI2と名付けた遺伝子がERボディの形成に必須であることが初めて明らかになりました。今後、この遺伝子を用いて様々な作物にERボディを作らせ、病害や虫害に対する抵抗性を高めさせることができるのではないかと期待されます。今回の研究成果は、9月9日に雑誌「The Plant Cell」オンライン版に掲載されました。
 


2008年02月06日

網膜神経節細胞のサブタイプの1つを発生期から見分けることに成功
〜光の動きを伝える視神経回路形成の発達機構の一端が明らかに〜


眼の網膜で受け取られた視覚刺激は、網膜神経節細胞を介して脳に伝えられます。ほ乳類の網膜神経節細胞は形態的な違いから12種類以上に分類され、それぞれが異なる視覚情報を脳に運ぶことが知られています。しかしながら発生期において網膜神経節細胞の種類の違いを見分ける方法がこれまでなかったために、それぞれの発達機構を明らかにすることはできませんでした。基礎生物学研究所の野田昌晴教授らは、発生期において、1種類の網膜神経節細胞で活性化する遺伝子をマウスで発見し、この遺伝子を目印にすることで、この特定の種類の網膜神経節細胞の発達を、初期の段階から見分けることに成功しました。この網膜神経節細胞は、特に上下方向に動く光の情報を伝えていると考えられています。今回の成果は、光の動きを感知する網膜神経回路がどのようにして形成されるのか、脳は受け取った視覚情報を基にいかにして行動を引き起こすのかを明らかにしていく上で重要な手掛かりになると考えられます。研究の詳細は、2008年2月6日、米国の科学雑誌プロスワン(PLoS ONE)誌で発表されました。