2011年5月30日

ペルオキシソームのタンパク質輸送に関わる植物特異的な新規因子を発見


植物細胞の中には、核や葉緑体など様々なオルガネラ(細胞内小器官)がありますが、これらのうち、ペルオキシソームは植物の発芽や光合成、種子形成に関わり、植物生長に必須なオルガネラです。しかし、植物細胞におけるペルオキシソーム形成の仕組みはあまり明らかにされていませんでした。今回、基礎生物学研究所・高次細胞機構研究部門の後藤志野大学院生(総合研究大学院大学)、真野昌二助教および西村幹夫教授らは、ペルオキシソームのタンパク質輸送に関わる植物特異的な新規因子を発見しました。この成果は、国際植物学専門誌 The Plant Cellの電子版にて発表されました。

 

2011年5月6日

シダゲノムの解読
〜陸上植物遺伝子の予想外の多様性を発見:遺伝子資源として有用〜


大学共同利用機関である基礎生物学研究所の長谷部光泰 教授、金沢大学学際科学実験センター遺伝子研究施設の西山智明助教らは、国内5大学および国外9ヵ国による国際共同研究チームと共同で、シダ植物の一種であるイヌカタヒバのゲノム解読に成功しました。従来、陸上植物の中で最も複雑な形を持った被子植物と最も単純な形を持ったコケ植物のゲノムは解読されていました。しかし、両者の中間に位置するシダ植物はゲノムの大きさが大きく、ゲノム解読が難しかったことから、どのような遺伝子のどのような進化によって陸上植物が進化してきたのかは謎でした。今回、ゲノムの大きさが極めて小さいイヌカタヒバを用いることで、シダ植物のゲノム解読に初めて成功し、シダ植物とコケ植物、被子植物のゲノムを比較解析した結果、陸上植物が共通に持つ遺伝子が明らかになりました。また、花の咲く植物(被子植物)と花の咲かない植物(シダ植物)との間で、遺伝子の発現を制御する遺伝子(転写因子)の数が増えており、これが単純な形を持った植物から複雑な形を持った植物への進化を引き起こした可能性が高いことも分かりました。これまで、植物は動物と比べると互いに形が似ていることから、動物よりも遺伝子の進化の程度がずっと少ないだろうと思われてきましたが、今回の研究結果より、陸上植物のゲノムは動物よりも大きく変化していることが明らかになりました。さらに、病気や害虫に食べられないようにしたり花粉を運ぶ昆虫を引き寄せたりする働きを持つ二次代謝産物や植物の生育に必要な植物ホルモンの合成酵素遺伝子などは、被子植物・シダ植物・コケ植物でそれぞれ独自に数を増やしたり減らしたりして多様性を産み出していることも分かりました。今後、シダ植物やコケ植物特有の“有用な性質を産み出す遺伝子”を見つけ出し、作物などの改良に利用することによって、製薬やバイオマス生産を含む農林業への応用が進むものと期待されます。なお本研究の一部は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「長谷部分化全能性進化プロジェクト」(研究総括:長谷部光泰)の一環として行われました。本研究成果は、2011年5月5日(米国東部時間)に米国科学雑誌「Science」のオンライン速報版で公開されました。

 

2011年3月28日

オオミジンコの性決定遺伝子の発見


岡崎統合バイオサイエンスセンター・基礎生物学研究所 分子環境生物学研究部門の井口泰泉教授らと大阪大学の研究グループは、オオミジンコのオスを決定する仕組みを明らかにしました。ミジンコは甲殻類で、池や湖で春から夏にかけて爆発的に増え、藻類を食べて育ち、魚の餌にもなる生態系で重要な動物プランクトンです。ミジンコ類は環境が良ければメスがメスを産んで単為生殖(クローン)で増えますが、餌不足、混雑、短日など環境条件が悪くなるとオスを産み、交尾して乾燥にも耐えられる耐久卵を産みます。耐久卵からはメスが発生します。従って、ミジンコにはヒトのような遺伝性の性決定ではなく、環境条件による、環境性の性決定の方式をとっていると思われています。環境性性決定の仕組みを持つ生物は、ミジンコの他にも、ワニやカメなどで知られていますが、今まで、その環境性性決定の仕組みはミジンコを含めて他の生物でも謎でした。井口らは国立環境研究所と行った先行研究で、オオミジンコに“幼若ホルモン類似物質”とよばれる化学物質が作用するとオスばかりが産まれることを見つけていました。今回、研究グループは、その手法を用いてオスになる卵を集め、メスになる卵とオスになる卵の違いを調べました。研究グループは、メスとオスで働いている遺伝子の違いを比較し、オスだけで強く働いている遺伝子、「doublesex1 (ダブルセックス1)」を発見しました。ミジンコの卵内で遺伝子の働きを止める手法(ミジンコにおけるRNA干渉法)を新たに開発し、この方法を用いて、ダブルセックス1遺伝子の働きを止めると、オスになるはずの卵から生まれたミジンコはメスの形態を示しました。また、この遺伝子をメスになる卵に注入するとオスの形態を示しました。これらの結果より、井口らは、ダブルセックス1遺伝子の働き方の違いが、オオミジンコのオスとメスを決めていることを明らかにしました(ダブルセックス1が働くとオスに、ダブルセックス1が働かないとメスになる)。これは、環境性性決定において、具体的に性を決めている遺伝子が明らかになった世界で初めての例です。以上の成果は、遺伝学専門誌PLoS Genetics(プロスジェネテイックス)2011年3月号にて発表されます。

 

2011年2月9日

てんかん発作に関わる遺伝子の同定


基礎生物学研究所の上野直人教授、理化学研究所発生再生科学総合研究センター、およびアイオワ大学医学部のBassuk博士らの研究グループは、細胞の極性(形や機能的な非対称性)を決め個体の発生にも重要な役割を担う因子のひとつPrickle(プリックル)遺伝子の変異が、てんかん発作のおこりやすさに関わることを示しました。研究グループは、Prickle遺伝子の機能が低下したマウスでは、正常マウスに比べて発作を起こしやすいことを明らかにしました。この成果は、2月11日に米国人類遺伝学会誌 The American Journal of Human Geneticsで発表されます。