研究概要 (Research Summary in Japanese)

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共生のメカニズムと進化に関する研究

マメ科植物は、根粒細菌を細胞内に取り込むことで、大気中の窒素を固定して利用します。一方、多くの陸上植物はアーバスキュラー菌根菌と共生し、土壌中のリンや水分を効率よく吸収しています。近年、マメ科植物と根粒菌の共生は4~5億年前に起源をもつアーバスキュラー菌根共生を基盤として進化してきたことが分かってきました。

私たちの研究室では、モデルマメ科植物ミヤコグサを用いて、2つの共生のメカニズムと進化の解明に取り組んでいます。

感染過程と根粒形成プログラム

マメ科植物の根に感染した根粒細菌は、感染糸を介して約3日で宿主細胞に取り込まれ、窒素を固定するオルガネラ様器官へと変化していきます。 根粒共生を生み出す遺伝的プログラムを解明するために、ミヤコグサを用いた大規模変異体スクリーニングを行い、これまでに多くの変異体を単離してきました。さらに、変異体の表現型解析により4つのカテゴリーに分類しました(下図)。

現在、個々の変異体の関係と共生遺伝子ネットワークの解明に取り組んでおり、細胞内共生に至る感染過程と根粒形成プログラムの分子的理解を目指しています。

アーバスキュラー菌根菌とは?
その不思議な特性と共生のメカニズム

アーバスキュラー菌根菌(AM菌)は、コケ、シダ、裸子植物、被子植物など多くの陸上植物と共生する糸状性の真菌です。 AM菌は、植物の根の皮層細胞で樹枝状体(arbuscule)を形成し、外生菌糸から吸収したリンや窒素、水分を植物に供与する一方、植物から光合成産物を得て菌糸を伸ばし、次世代の胞子を形成します。AM菌の興味深い性質として、生物間の相互作用においてしばしば見られる宿主特異性を欠いていることがあげられます。この性質によりAM菌は菌糸を介してさまざまな植物個体を連結することができ、ここに菌糸で繋がれた超生命体が形成されます。

最近、一部のAM菌ですが、脂肪酸に加えてストリゴラクトンとメチルジャスモン酸を培地に添加することで、植物と共生することなく多くの次世代胞子を誘導できるようになりました。私たちはAM菌の単独培養技術の開発とともに、独特な振る舞いを示すAM菌の特性と共生の仕組みの解明に取り組んでいます。


アーバスキュラー菌根菌の感染様式と胞子形成

根粒形成の全身的制御機構 オートレギュレーション

窒素固定には多くの生体エネルギーを消費されるため、植物は根粒の数を厳密に制御しています。 その制御は「根」と「葉」の遠距離シグナルを介した制御システムであり、「根粒のオートレギュレーション」と呼ばれています。
 これまでに私たちは、「葉」から共生を制御するHAR1やKLV受容体、根から地上部へ遠距離輸送されるアラビノース修飾CLEペプチド、葉からのシグナルを受け根で機能するTML等を明らかにしてきました。
 興味深いことに、HAR1等のオートレギュレーションの構成因子は、シロイヌズナズナやイネなどの茎頂メリステム(SAM)の維持に必要とされるCLV1やFON1のオルソログであることが分かってきました。マメ科植物は窒素固定細菌との共生成立過程においてどのように制御システムを進化させて来たのでしょうか?また、そもそも地下部の共生を「葉」で制御する生物学的意義は何なのでしょうか?その謎の解明に取り組んでいます。