このプレスリリースは以下の機関の合同発表です。
国立大学法人 九州大学
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 基礎生物学研究所
独立行政法人 水産総合研究センター

2008年 11月 22日

世界初!マナマコの放卵・放精(生殖行動)を誘発する神経ホルモンを発見
〜マナマコの大量生産可能に〜

九州大学(吉国 通庸 大学院農学研究院教授:研究代表者)、自然科学研究機構(大野 薫 基礎生物学研究所助教)、水産総合研究センター(山野 恵祐 養殖研究所チーム長)の共同研究グループは、マナマコの神経から放卵・放精などの生殖行動を誘発する神経ホルモンの解明に世界で初めて成功しました。今回の研究成果は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センターが実施する「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の平成18年度採択課題「水産無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンの解明と応用(研究代表者:吉国通庸教授)」の研究の一環として共同研究グループが行ったもので、米国発生生物学会誌(Developmental Biology誌)に掲載されます。

[研究の背景]

近年の中国での高級食材としての干しナマコ需要の急拡大をうけて、国産のマナマコの水揚げと輸出額が年々急増していますが、一方で、マナマコ資源の保護と育成が急務となっていました。マナマコ漁が行われている各地方自治体の栽培漁業センターでは、毎年、種苗放流の為の稚ナマコの生産・出荷を行っていますが、これまでは効果的な産卵誘発法が無く、十分な種苗の供給が困難でした。雌個体から産卵された卵でなければ受精しないために、親ナマコを暖めた海水に浸漬する等の物理的な刺激を与えて産卵を誘発する方法が行われていますが、その効果は不安定で成功率が低く、効果的な新しい産卵誘発技術の開発が望まれていました。共同研究グループは、平成18年度から「水産無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンの解明と応用」の研究を開始し、マナマコの産卵誘発ホルモンの解明に取り組んでおり、その成果が期待されていました。

[研究の内容]

九州大学の吉国 通庸 教授の研究チームは、マナマコの放射神経から分泌され、マナマコの精巣・卵巣に作用して成熟した精子と卵子を産ませる作用を持つ神経ホルモンの精製に成功し、自然科学研究機構の大野 薫 助教の研究チームと協力してホルモンの化学構造を明らかにしました。これらの研究成果を基に、水産総合研究センターの山野 恵祐 チーム長の研究チームが、マナマコ種苗生産の為の実証試験を行い、産業レベルでの実用化が可能であることを明らかにしました。今回発見された神経ホルモンは、アミノ酸5個からなる低分子量のペプチドで、産卵期の親個体に体内濃度が10nM(300gの個体であれば、100万分の2グラム)となるように注射すれば、およそ1時間後に放卵行動(または放精行動)を開始することが明らかになりました。また、この神経ホルモンの研究の過程で、親ナマコの成熟度の判定法を開発し、産卵誘発の最適時期を決めることが可能となりました。今回発見された神経ホルモンは、“首を持ち上げて左右に振りながら放卵・放精を行う”マナマコ特有の行動にちなんで、クビフリン(Cubifrin)と命名し、クビフリン及びそれを用いた放卵・放精誘発技術については特許出願しました。

[効果]

今回の研究成果を基に開発した親ナマコの成熟度判定法とクビフリンによる産卵誘発法を用いれば、安価で簡単でありながら確実に産卵を誘発することが可能となり、マナマコ自身が持つ天然のホルモンを用いるため、極めて安全な産卵誘発法であると言えます。従来行われていた物理的な刺激を与える方法は全く不要となり、これまでマナマコの産卵誘発用に使用していた海水処理設備・施設は全て他に転用することが可能となります。今回の研究成果により、マナマコの採卵における技術的な問題は、ほぼ解決されたと言えます。

[今後の展望]

今後は、発見した神経ホルモンが、産卵の誘発だけではなく、卵巣や精巣の発達にも作用を示すか否かを解析すると同時に、さらなる関連ホルモンの研究を継続します。また、九州大学と生物系特定産業技術研究支援センターとの共催で、全国のマナマコ種苗生産従事者を対象とした、本研究で解明された神経ホルモンと関連技術を用いた産卵誘発技術の習得のための「マナマコ採卵技術講習会」を平成20年12月に福岡市で開催します。本講習会を通して技術の普及を速やかに進めることにより、全国のマナマコの種苗生産の飛躍的な効率化が期待されます。

ナマコの放卵・放精

図: マナマコの放卵・放精の様子
この写真は、マナマコにホルモン注射を行い、人工的に放卵・放精行動を誘発したときの様子を水中ビデオで撮ったムービーファイルから一コマ切り出したものです(撮影場所:九州大学大学院生物資源環境科学府附属水産実験所)。左側が雌で、やや右下にいるのが雄です。マナマコの生殖孔は、頭部の右体側に一つだけあります。雌雄共に、その生殖孔から放卵(または放精)をしている所です。卵はオレンジ色の紐状に写っていますが、これは直ぐに一つ一つの卵にほぐれます。精子は白っぽく見えています。これも直ぐに海水に拡散していきます。マナマコの産卵動作は面白く、写真のように頭を高く持ち上げて、左右に振って卵や精子を振り出す動作をします。この写真ではたまたま雌雄の個体が抱き合っているように見えますが、これは偶然のようです。

[研究グループ]

本研究は、九州大学(吉国 通庸 大学院農学研究院教授:研究代表者)、自然科学研究機構(大野 薫 基礎生物学研究所助教)、水産総合研究センター(山野 恵祐 養殖研究所チーム長)の共同研究として行われました。

[研究サポート]

この研究は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センターが実施する「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の平成18年度採択課題「水産無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンの解明と応用(研究代表者:吉国 通庸 教授)」の サポートを受けて実施されました。

[本件に関するお問い合わせ先]

国立大学法人 九州大学大学院 農学研究院 動物資源科学部門
教授: 吉国 通庸(よしくに みちやす)
Tel: 0940-52-0163 (九州大学大学院生物資源環境科学府附属水産実験所)
E-mail: yosikuni@agr.kyushu-u.ac.jp
URL: http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/asweb/jikkensho/home.html

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 基礎生物学研究所
助教: 大野 薫(おおの かおる)
Tel: 0564-55-7555(研究室)
E-mail: k_ohno@nibb.ac.jp

独立行政法人 水産総合研究センター 養殖研究所 生産技術部 繁殖研究グループ
チーム長: 山野 恵祐(やまの けいすけ)
Tel: 0599-66-1830
E-mail: yamano@fra.affrc.go.jp

[報道担当]

九州大学 広報室
福島 泰
Tel: 092-642-2106
E-mail: koho@jimu.kyushu-u.ac.jp

基礎生物学研究所 連携・広報企画運営戦略室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp

水産総合研究センター 経営企画部 広報室
本間 広巳
Tel: 045-227-2624
E-mail: hhonma@fra.affrc.go.jp