研究概要

RESEARCH 生物の系統解析

系統関係の推定は進化を研究するための基本情報となります。30年ほど前は、陸上植物の系統関係はわからないことばかりでした。それまで形態情報に基づいて100年以上も系統推定がされていましたが混沌とした状態でした。そこで、我々は、別な方法は無いのかと考え、遺伝子を用いた陸上植物の系統解析をはじめました。世界でも植物分子系統学の第一世代だったので、我々は、裸子植物、シダ植物、コケ植物の類縁関係を世界に先駆けて解明することができました。

現生裸子植物が単系統であることを世界で初めて提唱しました。最初は誰も信じてくれませんでしたが、現在ではほとんど全てのデータが支持してくれています。

Hasebe, M., Kofuji, R., Ito, M., Kato, M., Iwatsuki, K. and Ueda, K. 1992. Phylogeny of gymnosperms inferred from rbcL gene sequences. Bot. Mag. Tokyo 105: 673-679.

しかし、生殖器官形態が大きく異なる現生裸子植物がどうして単系統になるのか納得できませんでした。そこで、MADS-box遺伝子やLEAFY遺伝子の発現様式を調べたところ、従来考えられてこなかったような相同性がうかび上がり、化石記録も考慮すると自分なりに納得できる解釈ができました(Shindo et al. 2001)。

Shindo, S., Sakakibara, K., Sano, R., Ueda, K. and Hasebe, M. 2001. Characterizatin of a FLORICAULA/LEAFY homologue of Gnetum parvifolium, and its implications for the evolution of reproductive organs in seed plants. Int. J. Plant Sci. 162: 1199-1209.

シダ類のほぼ全ての科と重要な属の系統関係を明らかにしました。最初は私を含めみんな疑心暗鬼でしたが、現在では広く信じられています。

Hasebe, M., Omori, T., Nakazawa, M., Sano, T., Kato, M. and Iwatsuki, K. 1994. rbcL gene sequences provide evidence for the evolutionary lineages of leptosporangiate ferns. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 5730-5734.

Hasebe, M., Wolf, P.G., Pryer, K.M., Ueda, K., Ito, M., Sano, R., Gastony, G.J., Yokoyama, J., Manhart, J.R., Murakami, N., Crane, E.H., Haufler, C.H. and Hauk, W.D. 1995. A global analysis of fern phylogeny based on rbcL nucleotide sequences.
American Fern Journal 35: 134-181.

陸上植物系統学最後の謎、コケ植物の系統を西山智明博士(現金沢大学助教)やサバティカルで滞在していたWolf博士が中心となって推定しました。ツノゴケ類、セン類、タイ類が単系統になるという結果を世界で初めて提唱しました。一時期はコケ植物は側系統でタイ類が陸上植物の基部で分岐したと広く信じられてきましたが、解析データに問題があったことがわかり、最近のゲノムワイドな解析結果は我々の結果を支持しています。

Nishiyama, T., Wolf, P.G., Kugita, M., Sinclair, R.B., Sugita, M., Sugiura, C., Wakasugi, T., Yamada, K., Yoshinaga, K. Yamaguchi, K., Ueda, K., and Hasebe, M. 2004. Chloroplast phylogeny indicates that bryophytes are monophyletic. Mol. Biol. Evol. 21: 1813-1819.

ほぼ明らかになった系統樹を元に、形態形質がどのように進化したのか、特定の群を規定する共有派生形質は何かを整理する研究が進んでいます。壁谷幸子技術職員は、分子系統学から明らかになった新しい系統関係が日本国内ではまだ十分に普及しておらず、手頃な日本語の教科書も無いことから、インターネットで系統関係、そして、各系統を規定するような共有派生形質をまとめたwebページを作成し公開しています(http://www.nibb.ac.jp/evodevo/tree/00_index.html)。将来的に陸上植物全体の科と主要な属が理解できるようなwebになることを目指しています。また、系統樹の基づいて、植物の発生進化の面白さを解説したページも公開しています(http://www.nibb.ac.jp/plantdic/blog/