研究概要

RESEARCH 陸上植物の発生進化 (2) 花器官形成遺伝子系の進化

(越水静 院生、村田隆 准教授)

花は被子植物の生殖器官で、多くの場合、ガク片、花弁、雄蕊、雌蕊の4種類の花器官から形成されています。これらの花器官はMADS-box遺伝子のコードするホメオティックセレクター転写因子によって制御され形成されます。そしてMADS—box遺伝子はLEAFYと呼ばれるより上位の転写因子によって制御されています。LEAFY遺伝子や花器官形成MADS-box遺伝子はもともとどんな機能を持ち、どうやって花が進化したのでしょうか。我々はシダ類のリチャードミズワラビ、緑藻類のシャジクモ類などを用いて、1倍体世代で機能していた1つのMADS-box遺伝子が遺伝子重複することにより数を増やし(Hasebe et al. 1998, Tanabe et al. 2005)、そのうちのいくつかがLEAFYの転写制御下に入ることで統合されることで(Maizel et al. 2005)、花器官形成遺伝子ネットワークが進化してきた可能性が高いことを発見しました。

では、もともとMADS-box遺伝子はどのような機能を持っていたのでしょうか。また、花を付けない植物のMADS-box遺伝子はどんな働きをしているのでしょうか。これまでの研究からいくつかの仮説をたててきましたが、それを検証するためには、花の咲かない植物でのMADS-box遺伝子機能を明らかにすることが必要です。越水静 院生は村田隆 准教授の協力のもと、ヒメツリガネゴケのMADS-box遺伝子の機能解析を行っています。遺伝子欠失体の解析などから、当初の予想とは全く異なった機能を持っているとともに、陸上植物の生殖機構進化の新しい局面が切り開けそうな予備的実験結果が得られており、今後の進展が楽しみです。

Hasebe, M., Wen, C.-K., Kato, M. and Banks, J.A. 1998. Characterization of MADS homeotic genes in the fern Ceratopteris richardii. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 6222-6227.

Maizel, A., Bush, M. A., Tanahashi, T., Perkovic, J., Kato, M., Hasebe, M., and Weigel, D. 2005. The floral regulator LEAFY evolves by substitutions in the DNA binding domain. Science 308: 260-263.

Tanabe*, Y., Hasebe*, M., Sekimoto, H., Nishiyama, T., Kitani, M., Henschel, K., Munster, T., Theissen, G., Nozaki, H., and Ito, M. 2005. Characterization of MADS-box genes in charophycean green alga and its implication for the evolution of MADS-box genes. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 2436-2441. (*both authors contributed equally)