セントロメアは、染色体が安定に子孫へ分配されることを保障する重要な機能シスドメインである。分裂期にはキネトコアと呼ばれるDNA蛋白質高次複合体を形成し、スピンドル微小管と直接相互作用して染色体を極方向に牽引する力を発生する動力源として働く。またゲノム情報を包括する構造体である染色体の秩序だった核内配置を規定し、その遺伝情報の発現制御に影響している可能性が高い。核内で大規模な染色体の配置転換が起こる際には、その制御拠点の一つになることも知られている。本申請研究では、ダイナミックな染色体動態変換を司るセントロメア機能の発現に必須な構造モジュールの抽出を目指す。セントロメア機能解明には、この巨大DNA蛋白質複合体が位置する場の理解、すなわち核内構造および中心体や微小管といった核周辺の構造体との未知の相互作用を見出し、その分子基盤を紐解く努力が不可欠である。核構造の専門家である各班員との交流を通じて、未知の機能的相互作用を発見することを目指す。
セントロメアは凝縮染色体構造をとるヘテロクロマチン領域とCENP-Aを含むセントロメア特異的ヌクレオソーム構造領域の二つのサブドメインに大別される。前者は遺伝子発現抑制に機能する他の条件的ヘテロクロマチンとも共通した分子基盤を示し、主に反復DNA配列領域に見られる。分裂酵母ではこの領域のクロマチン構造確立と機能発現にRNAi装置が関わるという驚くべき報告がなされたが、その全貌には未だ不明瞭な点が多数あり、高等脊椎動物でも保存された機構であるのか不明のままである。一方後者はセントロメア特異的なヒストンH3バリアントであるCENP-Aが局在化するヌクレオソーム上に形成され、姉妹染色分体の二方向性の確立や染色体運動の動力源として働く。従って細胞分裂装置を構成するスピンドル微小管やスピンドルチェックポイント因子群との直接的相互作用が予想されるが、その分子実体は明らかではない。スピンドルチェックポイント装置の間期核膜孔複合体への結合や核膜孔複合体構成因子の分裂期セントロメアへの移行も報告されており、本研究の視点からは極めて興味深い事象である。これらの事象の機能的意味づけを可能にする分子的相互作用の実体解明を目指したい。 |