プレスリリース:ホタルのゲノム解読に成功

ホタルのゲノム解読に成功
〜ホタルの光の遺伝子の進化が明らかに〜

自然科学研究機構 基礎生物学研究所
中部大学

基礎生物学研究所の重信秀治特任准教授と中部大学の大場裕一准教授、別所学博士らの研究グループは「ヘイケボタル」のゲノムの解読に成功しました。また米国マサチューセッツ工科大学(MIT)と共同で、米国産ホタル「フォティヌス・ピラリス」のゲノムも解読しました。両者のゲノムを比較することにより、ホタルの仲間がどのように光る能力を手に入れたのか、その歴史の詳細が初めて明らかになりました。ホタルの発光は、ルシフェラーゼと呼ばれる酵素とルシフェリンと呼ばれる基質が反応することによって光を発生することが知られています。今回の研究により、進化の過程でホタルがどのようにして発光に必要なルシフェラーゼ遺伝子を獲得したのかが判明しました。

光らない生物でも普遍的に持っている、アシルCoA合成酵素と呼ばれる脂肪酸代謝酵素の遺伝子が進化の過程で何度も重複を起こして複数のコピーが存在するようになり、そのひとつが発光活性を持つルシフェラーゼに進化したことがわかりました。さらに、ルシフェラーゼはもう1度遺伝子重複を起こし、ひとつはホタルの成虫の発光器官で、他方は卵と蛹で発光するように進化したこと、そしてこれらのイベントが1億年以上前に起こったことがわかりました。また、研究グループは、ホタルと近縁な発光昆虫ヒカリコメツキのゲノムも解読し、この昆虫のルシフェラーゼもアシルCoA合成酵素を起源としているものの、ホタルとは独立に発光の能力を獲得したことも明らかにしました。近年、環境保全の観点からもホタルは注目されていますが、今回明らかにしたホタルのゲノム情報はその基盤情報としても重要です。

本成果は,eLife誌に2018年10月16日付で掲載されました。

論文タイトル:Firefly genomes illuminate parallel origins of bioluminescence in beetles

著者:Timothy R. Fallon, Sarah E. Lower, Ching-Ho Chang, Manabu Bessho-Uehara, Gavin J. Martin, Megan Behringer, Humberto J. Debat, Isaac Wong, John C. Day, Christian J. Silva, Kathrin F. Stanger-Hall, David W. Hall, Robert J. Schmitz, David R. Nelson, Sara M. Lewis, Shuji Shigenobu, Seth M. Bybee, Amanda M. Larracuente, Yuichi Oba, Jing-Ke Weng

DOI: 10.7554/eLife.36495

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2018/10/16.html

プレスリリース:テントウムシの多様な斑紋を決定する遺伝子の特定に成功

当室の重信秀治特任准教授らは、基礎生物学研究所 進化発生研究部門の安藤俊哉助教と新美輝幸教授らのグループ、東京工業大学の伊藤武彦教授らのグループ、明治大学の矢野健太郎教授らのグループ、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授らのグループ、東京大学の鈴木穣教授らのグループと共同で、テントウムシの多様な斑紋を決定する遺伝子の特定に成功しました。


テントウムシの多様な斑紋を決定する遺伝子の特定に成功

自然科学研究機構 基礎生物学研究所
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所

基礎生物学研究所 進化発生研究部門の安藤俊哉助教と新美輝幸教授らの共同研究チームは、テントウムシの多様な翅の斑紋(模様)を決定する遺伝子の特定に成功しました。

ナミテントウの前翅には、同種でありながら200以上もの異なる斑紋が存在します。この斑紋の多様性は、遺伝の様式から、一つの遺伝子によってもたらされることが古くから知られていましたが、具体的な遺伝子の実体および斑紋形成メカニズムは全く不明でした。本共同研究チームは、ナミテントウのゲノム解読などを行い、斑紋のパターンを決定する遺伝子がパニア(pannier)と呼ばれる遺伝子であることを特定しました。テントウムシの斑紋は、主に黒色と赤色のパターンとして作られますが、この遺伝子は、前翅がつくられる過程の、蛹の中期のステージにおいて黒色色素形成領域で働き、黒色色素(メラニン)の合成を促すと同時に赤色色素(カロテノイド)の沈着を抑制する機能をもつことが明らかになりました。興味深いことに、たった1つの遺伝子の働きにより翅全体の斑紋パターンが決定される機能は、ナナホシテントウにおいても保存されていることが判明しました。

本研究成果はNature Communicationsに2018年9月21日にされました。

論文タイトル:Repeated inversions within a pannier intron drive diversification of intraspecific colour patterns of ladybird beetles

著者:Toshiya Ando, Takeshi Matsuda, Kumiko Goto, Kimiko Hara, Akinori Ito, Junya Hirata, Joichiro Yatomi, Rei Kajitani, Miki Okuno, Katsushi Yamaguchi, Masaaki Kobayashi, Tomoyuki Takano, Yohei Minakuchi, Masahide Seki, Yutaka Suzuki, Kentaro Yano, Takehiko Itoh, Shuji Shigenobu, Atsushi Toyoda, and Teruyuki Niimi

DOI:10.1038/s41467-018-06116-1

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2018/09/21.html

図:ナミテントウの多様な翅の斑紋

ゲノムインフォマティクストレーニングコース(GITC)2018秋【BLAST自由自在】を開催しました

9 月 6 – 7 日にゲノムインフォマティクストレーニングコース(GITC)2018 秋「BLAST自由自在〜配列解析の極意をマスターする〜」を開催しました。

21 名の方にご参加いただきました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

 

 

 

プレスリリース:ヒトとチンパンジーの脳の違いを発見

自然科学研究機構 生命創成探究センターの郷 康広 特任准教授(自然科学研究機構生理学研究所・特任准教授 併任)らとの共同利用研究の成果が発表されました。


ヒトとチンパンジーの脳の違いを発見
 〜霊長類脳の遺伝子発現変動とエピジェネティック変動の網羅的解析〜

発表のポイント
・ヒトとチンパンジーの脳における遺伝子発現を比較した結果、ヒトの脳においてより多くの遺伝子発現が変動していることが明らかになった

・ヒト特異的な発現変動している遺伝子群(モジュール)の半数以上が海馬のニューロンやアストロサイトにおいて発現が上昇していた

・ヒトとチンパンジーの発現変動には転写因子の活性が主に関与しており、脳の領域差には、プロモーター領域のクロマチン修飾状態の違いが主に関与していることが明らかになった

概要
 ヒトの脳のどこでどのような遺伝子が働いているかを調べることは、ヒトの高次認知機能を理解する上でも大変重要ですが、それだけでは、いきものとしてのヒトの個性や特異性を理解するには不十分です。自然科学研究機構 生命創成探究センターの郷 康広 特任准教授(自然科学研究機構生理学研究所・特任准教授 併任)らは、中国科学院上海生命科学研究院、スコルコボ科学技術大学、自然科学研究機構基礎生物学研究所、京都大学霊長類研究所、京都大学野生動物研究センター、新潟大学脳研究所との国際共同研究として、ヒトの脳にのみ現れる特徴を見つけ出し、ヒトの脳を理解するために、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、テナガザル、およびマカクザルを対象とし、機能の異なる複数の脳領域で計測された遺伝子発現データおよびクロマチン修飾データの分析を実施しました。

 本研究グループは、4 種の霊長類の 8 つの脳領域にわたる空間的な遺伝子発現動態を詳細に解析することで、ヒトの脳において特異的な発現変化を示す複数の遺伝子群(モジュール)を発見し、そのモジュールに分類される遺伝子の数はチンパンジーと比べて 7 倍以上に及ぶことを明らかにしました。さらに、ヒトとチンパンジーの種の違いは、主に転写因子の発現状態・結合状態の差に起因するものであり、一方で、脳の領域間の差には、プロモーター領域におけるクロマチン修飾状態の違いが主に関与していることも明らかにしました。

 本研究結果は、米国コールド・スプリング・ハーバー研究所発行の学術誌 Genome Research 誌(2018年8月1日)に掲載されました。

論文タイトル:
Human-specific features of spatial gene expression and regulation in eight brain regions
(複数脳領域における遺伝子発現と発現制御様式からみたヒト脳の特異性)
著者:
Chuan Xu#, Qian Li#, Olga Efimova, Liu He, Shoji Tatsumoto, Vita Stepanova, Takao Oishi, Toshifumi Udono, Katsushi Yamaguchi, Shuji Shigenobu, Akiyoshi Kakita, Hiroyuki Nawa, Philipp Khaitovich*, Yasuhiro Go* (#共同筆頭著者,*責任著者)
DOI: 10.1101/gr.231357.117

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2018/08/02.html