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    “不妊を回避するメカニズムを発見”

     生涯を通じて精子をつくり続けるためには精子幹細胞と呼ばれる細胞が必要です。この細胞は、細胞分裂を繰り返すことにより精子を枯渇させることなくつくり続けることができます。精子幹細胞が失われると不妊が引き起こされてしまいます。精子幹細胞が失われる原因として、精子幹細胞を生み出す前駆細胞(始原生殖細胞と呼ばれる)の数が著しく減少することが考えられます。本研究では、始原生殖細胞の数が減少すると、少数の始原生殖細胞から効率よく精子幹細胞を作り出し不妊を回避する調節機構があることをショウジョウバエを用いて明らかにしました。これは、生物の最も重要な性質である「生殖機能」を確保するための巧妙な仕組みといえます。
     ショウジョウバエでは、精巣の先端にはニッチ細胞と呼ばれる特殊な細胞があり、ニッチ細胞に隣接する始原生殖細胞のみが、精子幹細胞になることができます(図1上)。つまり、ニッチ細胞は、精子幹細胞を生み出すために必要な細胞です。北舘・小林は、ニッチ細胞を「増やそうとする遺伝子」(Notch遺伝子)と「減らそうとする遺伝子」(EGFR遺伝子(注1)を発見しました(図2、参考図)。通常の状態では、発生過程の精巣の中では、ニッチ細胞を「減らそうとする遺伝子」の機能と「増やそうとする遺伝子」の機能が拮抗しており、一定の数のニッチ細胞と精子幹細胞がつくられます。しかし、アクシデントなどにより精子幹細胞の前駆細胞である始原生殖細胞の数が著しく減少した場合には、これが引き金になり「減らそうとする遺伝子」の機能が抑制されることを発見しました。この結果、「増やそうとする遺伝子」の働きにより、ニッチ細胞の数が増え、少数の始原生殖細胞から精子幹細胞が効率よく作られるようになることが分かりました。(図1中段)。始原生殖細胞の数が著しく減少している状態で、この「減らそうとする遺伝子」の抑制がかからないようにした場合には、精子幹細胞が失われ不妊となることが示されました(図1下段)。

    News Release 小林 1
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    News Release 小林 参考
     本研究成果は、始原生殖細胞の数に異常が生じても、不妊になることを避け生殖を可能にするという巧妙な調節機構があることをはじめて示したものです。本研究で得られた知見は、ショウジョウバエ以外の動物における不妊の回避機構の解明や、精巣以外の器官におけるニッチ細胞や幹細胞の調節機構を明らかにする基盤となることが期待され、生殖・再生医療にもつながる可能性があります。


     用語説明: 注1)EGFR 遺伝子:上皮細胞増殖因子(EGF)の受容体タンパク質を作る遺伝子


    「発表雑誌」
    Proceeding of the National Academy of Sciences, USA. 2010 Jul 26. [Epub ahead of print]

    タイトル:
    “Notch and Egfr signaling act antagonistically to regulate germline stem cell niche formation in Drosophila male embryonic gonads”

    著者:Yu Kitadate and Satoru Kobayashi  >> 詳細

    詳しい情報
      >> 基礎生物学研究所プレスリリース

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