アスパラガスの雌雄を分ける性決定遺伝子に関する共同利用研究の成果が Genes to Cells 誌に掲載されました

概要

 奈良先端科学技術大学院大学(学長:小笠原直毅)バイオサイエンス研究科の高山誠司客員教授(現東京大学)、村瀬浩司助教らの研究グループは基礎生物学研究所、徳島大学、東北大学、九州大学との共同研究により、全ゲノム(遺伝情報)や遺伝子の発現を網羅的に解析する手法を用いて、アスパラガスの雌雄を決める性決定遺伝子を世界で初めて発見しました。
 植物の多くは 1 つの花におしべとめしべをもつ両性花ですが、イチョウ、キウイフルーツ、アスパラガスなどは雄花のみをつける雄株と雌花のみをつける雌株に分かれます。これらの植物の性別はほ乳類と同様に性染色体によって制御されており、アスパラガスでは性染色体が XY のとき雄株、XX のとき雌株となります。アスパラガスの花は発生初期では雄花と雌花で違いはありませんが、発達するに従い雄花ではめしべの、雌花ではおしべの発達が停止します。そのため、Y 染色体上にはおしべの発達を促進する遺伝子とめしべの発達を抑制する 2 つの性決定遺伝子が存在すると予想されていました。
 本研究では MSE1 と名付けた転写因子の機能があるタンパク質の DNA を持つ遺伝子がおしべの発達を促進するアスパラガスの性決定遺伝子であることを明らかにしました。この成果はアスパラガスの性別を決定する鍵因子を明らかにしただけでなく、人為的に植物を雌雄があるタイプに改変したり、雌雄をあわせ持つ両性花に戻したりする技術へ発展する可能性があり、植物の育種に応用されることが期待されます。
 この成果は日本分子生物学会および米国の John Wiley & Sons 社が出版する Genes to Cells 誌 1 月号( 1 月 13 日発行)に掲載されました。

生物機能情報分析室チームの貢献

 本研究は基礎生物学研究所の共同利用研究の一つである、「統合ゲノミクス共同利用研究」の課題として実施されました。当研究所の生物機能解析センター生物機能情報分析室(重信秀治特任准教授、山口勝司技術職員ら)のチームは、次世代シーケンシング技術を駆使し、アスパラガスのゲノム解析に貢献しました。
 アスパラガスのゲノム解析は難易度が高いものでした。何度か失敗しつつ、基生研チームは、奈良先端大のチームとともに試行錯誤の末、若い先端葉組織から質の高い DNA を抽出することに成功し、さらに、シーケンスライブラリー作製の過程では DNA 損傷修復するなどの工夫を施しました。完成したライブラリーを、特徴の異なる 2 つのタイプの次世代 DNA シーケンサー(イルミナ社 HiSeq プラットフォームと PacificBio 社 PacBioRSII プラットフォーム)でシーケンスし、それらのデータを組み合わせて、アスパラガスゲノムの性決定遺伝子の候補領域近傍を集中的に解析しました。その結果、性決定遺伝子の同定と塩基配列の決定に成功しました。

詳しくは下記の論文や各機関のプレスリリースのページをご覧ください。

論文情報

  • 論文タイトル:MYB transcription factor gene involved in sex determination in Asparagus officinalis(和訳:アスパラガスの性決定に関わるMYB転写因子)
  • 著者:Kohji Murase1, Shuji Shigenobu2, Sota Fujii1, Kazuki Ueda1, Takanori Murata1,Ai Sakamoto1, Yuko Wada1, Katsushi Yamaguchi2, Yuriko Osakabe3, Keishi Osakabe3,Akira Kanno4, Yukio Ozaki5 and Seiji Takayama1,6
  • 所属:1奈良先端科学技術大学院大学,2基礎生物学研究所3徳島大学、4東北大学,5九州大学,6東京大学
  • DOI: 10.1111/gtc.12453
  • 掲載誌:Genes to Cells( 1 月号)

プレスリリース

メディアへの掲載情報

  • 2017.1.25 日経産業新聞
    重信秀治特任准教授らによる「アスパラガスの雌雄を分ける性決定遺伝子を世界で初めて発見 植物の性の進化、ダーウィンの予測を裏付け ~有用な作物の育種に期待~」に関する研究成果について、1 月 25 日の日経産業新聞にて紹介されました。
  • 2017.1.26 日刊工業新聞
    重信秀治特任准教授らによる「アスパラガスの雌雄を分ける性決定遺伝子を世界で初めて発見 植物の性の進化、ダーウィンの予測を裏付け ~有用な作物の育種に期待~」に関する研究成果について、1 月 26 日の日刊工業新聞にて紹介されました。