プレスリリース:カブトムシの角(ツノ)にオスとメスとの違いが現れる時期の特定に成功

カブトムシの角(ツノ)にオスとメスとの違いが現れる時期の特定に成功

基礎生物学研究所の森田慎一研究員と新美輝幸教授らの共同研究チームは、カブトムシのメスをオスにする遺伝子を同定することで、角の性差(オスとメスの違い)が現れる時期の特定に成功しました。

カブトムシのオスは立派な角を持ちますが、その角を作るための遺伝子が働き始める時期の詳細は不明でした。今回研究チームは、土を使わずに試験管内でカブトムシ幼虫を観察する方法を確立し、角形成に重要な前蛹と呼ばれる時期に見られる特徴的な行動として「首振り行動」を見出しました。また、カブトムシの性を決める遺伝子transformerを特定しました(transformer遺伝子が働いた個体はメスになり、働かない個体はオスになります)。メスの幼虫において、この遺伝子の機能を完全に抑制すると、メス化が阻害されオスと同様に角が形成されます(図参照)。この現象と試験管内観察法を利用して、角が形成されると予測される前蛹期前後の様々な時期で transformer 遺伝子の機能を阻害し、角の性差が現れる時期 (メスにオスのような角がはじめて形成される時期) を特定しました。今回特定した角の性差が現れる時期は、角形成に関与する複数の遺伝子がダイナミックに働き始める時期と予測され、角形成の鍵となる遺伝子を探索する上で重要な知見をもたらすものです。

本研究は基礎生物学研究所 進化発生研究部門の森田慎一研究員と新美輝幸教授らのグループを中心として、国立遺伝学研究所の前野哲輝技術職員、基礎生物学研究所の重信秀治教授からなる共同研究チームにより実施されました。本研究成果はPLOS Geneticsに2019年4月10日付けで掲載されます。

図 カブトムシの性決定遺伝子transformerの機能を抑制するとメス化が阻害され、メスにオスと同様に角が形成された。

論文タイトル: Precise staging of beetle horn formation in Trypoxylus dichotomus reveals the pleiotropic roles of doublesex depending on the spatiotemporal developmental contexts

著者: Shinichi Morita, Toshiya Ando, Akiteru Maeno, Mutsuki Mase, Takeshi Mizutani, Shuji Shigenobu, Teruyuki Niimi

DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1008063

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2019/04/11.html

プレスリリース:冬眠ハムスターの白色脂肪組織に冬支度の秘密をみる

冬眠ハムスターの白色脂肪組織に冬支度の秘密をみる
~肥満や生活習慣病予防へも新たな視座~

北海道大学
東京大学
自然科学研究機構 基礎生物学研究所

北海道大学低温科学研究所の山口良文教授,東京大学大学院薬学系研究科大学院生(当時)の茶山由一氏,三浦正幸教授,自然科学研究機構基礎生物学研究所の重信秀治准教授,福山大学薬学部の田村豊教授らの研究グループは,餌を貯蔵しながら冬眠する哺乳類シリアンハムスターが,冬眠時,エネルギーを蓄える機能をもつ白色脂肪組織において,脂肪を合成する同化系と分解する異化系の両方を著しく増強させることを解明しました。

冬眠する哺乳類は,長い冬眠の間,体内に貯蔵した大量の脂肪を効率的に燃焼させてエネルギーを取り出すと考えられていますが,その仕組みは多くの点が不明です。本研究の成果は,この仕組みに迫ることで肥満症や生活習慣病の理解にも新たな視座を与えうるものです。

なお,本研究は科学技術振興機構さきがけ(JPMJPR12M9),日本学術振興会科学研究費補助金(JP16H05127,JP16K15114,JP18K19321,JP26110005),細胞科学研究財団,かなえ医薬振興財団, 武田科学振興財団,積水化学自然に学ぶものづくり研究助成,他の支援を受けて行われました。また,本研究成果は,英国時間2019年1月28日(月)午前10時公開のFrontiers in Physiology誌(生理学の専門誌)に掲載される予定です。

論文タイトル:Molecular basis of white adipose tissue remodeling that precedes and coincides with hibernation in the Syrian hamster, a food-storing hibernator(餌貯蔵型冬眠動物シリアンハムスターが示す,冬眠に先行しかつ一致する白色脂肪組織リモデリングの分子基盤)

著者名:茶山由一1,安藤理沙1,佐藤佑哉1重信秀治2,姉川大輔1,藤本貴之1,泰井宙輝1,田村 豊3,三浦正幸1,山口良文41東京大学大学院薬学系研究科 遺伝学教室,2基礎生物学研究所,3福山大学薬学部,4北海道大学低温科学研究所 冬眠代謝生理発達分野)

DOI: 10.3389/fphys.2018.01973

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2019/01/28.html

プレスリリース:ホタルのゲノム解読に成功

ホタルのゲノム解読に成功
〜ホタルの光の遺伝子の進化が明らかに〜

自然科学研究機構 基礎生物学研究所
中部大学

基礎生物学研究所の重信秀治特任准教授と中部大学の大場裕一准教授、別所学博士らの研究グループは「ヘイケボタル」のゲノムの解読に成功しました。また米国マサチューセッツ工科大学(MIT)と共同で、米国産ホタル「フォティヌス・ピラリス」のゲノムも解読しました。両者のゲノムを比較することにより、ホタルの仲間がどのように光る能力を手に入れたのか、その歴史の詳細が初めて明らかになりました。ホタルの発光は、ルシフェラーゼと呼ばれる酵素とルシフェリンと呼ばれる基質が反応することによって光を発生することが知られています。今回の研究により、進化の過程でホタルがどのようにして発光に必要なルシフェラーゼ遺伝子を獲得したのかが判明しました。

光らない生物でも普遍的に持っている、アシルCoA合成酵素と呼ばれる脂肪酸代謝酵素の遺伝子が進化の過程で何度も重複を起こして複数のコピーが存在するようになり、そのひとつが発光活性を持つルシフェラーゼに進化したことがわかりました。さらに、ルシフェラーゼはもう1度遺伝子重複を起こし、ひとつはホタルの成虫の発光器官で、他方は卵と蛹で発光するように進化したこと、そしてこれらのイベントが1億年以上前に起こったことがわかりました。また、研究グループは、ホタルと近縁な発光昆虫ヒカリコメツキのゲノムも解読し、この昆虫のルシフェラーゼもアシルCoA合成酵素を起源としているものの、ホタルとは独立に発光の能力を獲得したことも明らかにしました。近年、環境保全の観点からもホタルは注目されていますが、今回明らかにしたホタルのゲノム情報はその基盤情報としても重要です。

本成果は,eLife誌に2018年10月16日付で掲載されました。

論文タイトル:Firefly genomes illuminate parallel origins of bioluminescence in beetles

著者:Timothy R. Fallon, Sarah E. Lower, Ching-Ho Chang, Manabu Bessho-Uehara, Gavin J. Martin, Megan Behringer, Humberto J. Debat, Isaac Wong, John C. Day, Christian J. Silva, Kathrin F. Stanger-Hall, David W. Hall, Robert J. Schmitz, David R. Nelson, Sara M. Lewis, Shuji Shigenobu, Seth M. Bybee, Amanda M. Larracuente, Yuichi Oba, Jing-Ke Weng

DOI: 10.7554/eLife.36495

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2018/10/16.html

プレスリリース:テントウムシの多様な斑紋を決定する遺伝子の特定に成功

当室の重信秀治特任准教授らは、基礎生物学研究所 進化発生研究部門の安藤俊哉助教と新美輝幸教授らのグループ、東京工業大学の伊藤武彦教授らのグループ、明治大学の矢野健太郎教授らのグループ、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授らのグループ、東京大学の鈴木穣教授らのグループと共同で、テントウムシの多様な斑紋を決定する遺伝子の特定に成功しました。


テントウムシの多様な斑紋を決定する遺伝子の特定に成功

自然科学研究機構 基礎生物学研究所
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所

基礎生物学研究所 進化発生研究部門の安藤俊哉助教と新美輝幸教授らの共同研究チームは、テントウムシの多様な翅の斑紋(模様)を決定する遺伝子の特定に成功しました。

ナミテントウの前翅には、同種でありながら200以上もの異なる斑紋が存在します。この斑紋の多様性は、遺伝の様式から、一つの遺伝子によってもたらされることが古くから知られていましたが、具体的な遺伝子の実体および斑紋形成メカニズムは全く不明でした。本共同研究チームは、ナミテントウのゲノム解読などを行い、斑紋のパターンを決定する遺伝子がパニア(pannier)と呼ばれる遺伝子であることを特定しました。テントウムシの斑紋は、主に黒色と赤色のパターンとして作られますが、この遺伝子は、前翅がつくられる過程の、蛹の中期のステージにおいて黒色色素形成領域で働き、黒色色素(メラニン)の合成を促すと同時に赤色色素(カロテノイド)の沈着を抑制する機能をもつことが明らかになりました。興味深いことに、たった1つの遺伝子の働きにより翅全体の斑紋パターンが決定される機能は、ナナホシテントウにおいても保存されていることが判明しました。

本研究成果はNature Communicationsに2018年9月21日にされました。

論文タイトル:Repeated inversions within a pannier intron drive diversification of intraspecific colour patterns of ladybird beetles

著者:Toshiya Ando, Takeshi Matsuda, Kumiko Goto, Kimiko Hara, Akinori Ito, Junya Hirata, Joichiro Yatomi, Rei Kajitani, Miki Okuno, Katsushi Yamaguchi, Masaaki Kobayashi, Tomoyuki Takano, Yohei Minakuchi, Masahide Seki, Yutaka Suzuki, Kentaro Yano, Takehiko Itoh, Shuji Shigenobu, Atsushi Toyoda, and Teruyuki Niimi

DOI:10.1038/s41467-018-06116-1

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2018/09/21.html

図:ナミテントウの多様な翅の斑紋

プレスリリース:ヒトとチンパンジーの脳の違いを発見

自然科学研究機構 生命創成探究センターの郷 康広 特任准教授(自然科学研究機構生理学研究所・特任准教授 併任)らとの共同利用研究の成果が発表されました。


ヒトとチンパンジーの脳の違いを発見
 〜霊長類脳の遺伝子発現変動とエピジェネティック変動の網羅的解析〜

発表のポイント
・ヒトとチンパンジーの脳における遺伝子発現を比較した結果、ヒトの脳においてより多くの遺伝子発現が変動していることが明らかになった

・ヒト特異的な発現変動している遺伝子群(モジュール)の半数以上が海馬のニューロンやアストロサイトにおいて発現が上昇していた

・ヒトとチンパンジーの発現変動には転写因子の活性が主に関与しており、脳の領域差には、プロモーター領域のクロマチン修飾状態の違いが主に関与していることが明らかになった

概要
 ヒトの脳のどこでどのような遺伝子が働いているかを調べることは、ヒトの高次認知機能を理解する上でも大変重要ですが、それだけでは、いきものとしてのヒトの個性や特異性を理解するには不十分です。自然科学研究機構 生命創成探究センターの郷 康広 特任准教授(自然科学研究機構生理学研究所・特任准教授 併任)らは、中国科学院上海生命科学研究院、スコルコボ科学技術大学、自然科学研究機構基礎生物学研究所、京都大学霊長類研究所、京都大学野生動物研究センター、新潟大学脳研究所との国際共同研究として、ヒトの脳にのみ現れる特徴を見つけ出し、ヒトの脳を理解するために、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、テナガザル、およびマカクザルを対象とし、機能の異なる複数の脳領域で計測された遺伝子発現データおよびクロマチン修飾データの分析を実施しました。

 本研究グループは、4 種の霊長類の 8 つの脳領域にわたる空間的な遺伝子発現動態を詳細に解析することで、ヒトの脳において特異的な発現変化を示す複数の遺伝子群(モジュール)を発見し、そのモジュールに分類される遺伝子の数はチンパンジーと比べて 7 倍以上に及ぶことを明らかにしました。さらに、ヒトとチンパンジーの種の違いは、主に転写因子の発現状態・結合状態の差に起因するものであり、一方で、脳の領域間の差には、プロモーター領域におけるクロマチン修飾状態の違いが主に関与していることも明らかにしました。

 本研究結果は、米国コールド・スプリング・ハーバー研究所発行の学術誌 Genome Research 誌(2018年8月1日)に掲載されました。

論文タイトル:
Human-specific features of spatial gene expression and regulation in eight brain regions
(複数脳領域における遺伝子発現と発現制御様式からみたヒト脳の特異性)
著者:
Chuan Xu#, Qian Li#, Olga Efimova, Liu He, Shoji Tatsumoto, Vita Stepanova, Takao Oishi, Toshifumi Udono, Katsushi Yamaguchi, Shuji Shigenobu, Akiyoshi Kakita, Hiroyuki Nawa, Philipp Khaitovich*, Yasuhiro Go* (#共同筆頭著者,*責任著者)
DOI: 10.1101/gr.231357.117

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2018/08/02.html

プレスリリース:シロアリの兵隊分化を決定する遺伝子の発見

富山大学大学院理工学研究部(理学)の前川清人准教授と大学院理工学教育部の矢口甫氏(現琉球大学熱帯生物圏研究センター博士後研究員)らの研究グループは、当室の重信秀治特任准教授らと共同で、当室で運用している次世代DNAシーケンサーを駆使することにより、シロアリの兵隊分化を決定する遺伝子を発見しました。


シロアリの兵隊分化を決定する遺伝子の発見
〜女王とのかかわり合いが生み出す分化のしくみ〜

富山大学大学院理工学研究部(理学)の前川清人准教授と大学院理工学教育部の矢口甫氏(現 琉球大学熱帯生物圏研究センター博士後研究員)らの研究グループは,基礎生物学研究所の重信秀治特任准教授らと共同で,シロアリの兵隊分化を決定する遺伝子を発見しました。研究グループは,次世代DNA シーケンサー(大規模塩基配列解読装置)を用いた網羅的な解析を行い,兵隊分化の初期に働く遺伝子を探索しました。その結果,兵隊に分化する個体では,リポカリンとよばれる輸送タンパク質遺伝子が極めて高く発現することを突き止めました。リポカリン遺伝子は,シロアリへの進化の過程で配列が特徴的に変化しており,タンパク質は腸の上皮細胞に局在していました。機能解析の結果,この遺伝子が女王からの栄養物質の受け渡し行動を介して,兵隊分化を生じさせることが明らかになりました。

本成果は,英国王立協会紀要「Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences」に掲載されました。

論文タイトル:A lipocalin protein, Neural Lazarillo, is key to social interactions that promote termite soldier differentiation.
著者:Hajime Yaguchi, Shuji Shigenobu, Yoshinobu Hayashi, Satoshi Miyazaki, Kouhei Toga, Yudai Masuoka, Kiyoto Maekawa
DOI:https://doi.org/10.1098/rspb.2018.0707

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2018/07/26.html

プレスリリース:植物と共生するアーバスキュラー菌根菌のゲノムを高精度に解読

当室の重信秀治特任准教授らは、当室で運用している1分子DNAシーケンサーを駆使することにより、植物と共生するアーバスキュラー菌根菌(AM菌)の高精度なゲノム解読に成功しました。その結果、特殊なリボソームDNA遺伝子の特徴を発見しました。


肥料節減に向け、植物と共生するアーバスキュラー菌根菌のゲノムを高精度に解読
〜植物から得ている栄養素を明確化・特殊な遺伝子構造を発見〜

アーバスキュラー菌根菌(以下AM菌)は植物の根の中に菌糸を発達させるとともに、土中にも菌糸を張り巡らし、植物の根が届かない場所のリン等を植物に届け、代わりに糖などの光合成産物を受け取る共生関係を築いています。この共生関係は植物の生育を促進する効果があり、将来的に、リン肥料などの消費を押さえる生物資材としての活用が期待されています。

今回、基礎生物学研究所の前田太郎研究員、重信秀治特任准教授、川口正代司教授らを中心とした研究グループは、代表的なAM菌であるRhizophagus irregularisのゲノムを従来よりも格段に高精度に解読することに成功し、AM菌が脂肪酸やビタミンB1などの栄養素の合成に関わる遺伝子を欠損していることを明確にしました。AM菌は植物との共生無しでは胞子増殖できませんが、今後これらの栄養素を人為的に投与することによってAM菌を単独で大量培養できる可能性があります。さらに、AM菌の種の同定や植物への効果の評価に使われてきた遺伝子マーカーであるリボソームDNA遺伝子が、他の生物では見られない特殊な性質をもつことを明らかにしました。

AM菌のゲノムは繰り返し配列が多く、その解読は従来の技術では困難でした。そこで、我々は繰り返し配列の解読に有利な一分子DNAシーケンサーを利用することにしました。我々生物機能情報分析室は、シーケンスライブラリの作製、シーケンシング、並列コンピュータによるアセンブルなどゲノム解読に関わる一連の過程を担当し、高精度なゲノム情報の取得に貢献しました。

本研究成果は「Communications Biology」に2018年7月10日付けで掲載されました。

論文タイトル: Evidence of non-tandemly repeated rDNAs and their intragenomic heterogeneity in Rhizophagus irregularis
著者: Taro Maeda, Yuuki Kobayashi, Hiromu Kameoka, Nao Okuma, Naoya Takeda, Katsushi Yamaguchi, Takahiro Bino, Shuji Shigenobu, Masayoshi Kawaguchi
DOI: 10.1038/s42003-018-0094-7

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2018/07/10.html

プレスリリース:植物の生殖細胞をつくる鍵因子を発見

山岡尚平 京都大学生命科学研究科助教、河内孝之 同教授らの研究グループとの共同利用研究の成果が発表されました。

われわれ基生研・生物機能情報分析室のNGSチーム(山口勝司、重信秀治、浅尾弘世、若月幸子)は、bonobo変異の原因遺伝子の同定に大きく貢献しました。T-DNA挿入サイトを全ゲノムリシーケンシングで検出するために、次世代シーケンス用ライブラリ作製や、バイオインフォマティクスに独自の工夫を凝らしました。


植物の生殖細胞をつくる鍵因子を発見
~花粉の精細胞をつくる仕組みは花の咲かないコケ植物に起源があった~

京都大学
自然科学研究機構 基礎生物学研究所

山岡尚平 京都大学生命科学研究科助教、河内孝之 同教授らの研究グループは、基礎生物学研究所(重信秀治特任准教授チーム)と共同で、植物の生殖細胞をつくるための鍵となる遺伝子を発見しました。まず、陸上植物の祖先的特徴をもつゼニゴケにおいて、突然変異体をもとに生殖器をつくる遺伝子を同定しました。そして、シロイヌナズナでその相同遺伝子の機能を調べた結果、花粉の精細胞(動物の精子に相当)をつくるうえで必須の役割をもつことがわかりました。これは植物の生殖細胞の形成メカニズムを明らかにする成果です。

花を咲かせる植物は、受粉することで種子をつくり、子孫を残します。これは、花粉の中で作られる「精細胞」が、雌しべの中の卵と受精することで起こります。しかし、精細胞をつくる分子メカニズムは、多くの部分が未解明のままになっています。

ゼニゴケは、卵と精子を特有の生殖器(造卵器と造精器)の中につくって受精を行います。今回の研究では、BONOBOと名付けた転写因子が、ゼニゴケにおいて生殖器をつくる過程をコントロールしていることを明らかにしました。BONOBOはほぼすべての陸上植物にあって遺伝子ファミリーを構成していました。さらにシロイヌナズナのBONOBO相同遺伝子の解析を進めたところ、花粉の精細胞をつくるのに必要であることを突き止めました。これらのことから、BONOBOファミリーは陸上植物の生殖細胞をつくるために必要不可欠であることがわかりました(図1)。一見まったく違うようにみえる花粉の精細胞とコケ植物の生殖器は、類似の分子メカニズムを使ってつくられており、BONOBOは、約4億5千万年前に陸上植物が誕生したときから受け継がれてきた、陸上植物の生殖細胞形成の鍵となる遺伝子である、と考えられます。

この成果は、1月26日に米国の学術誌Current Biologyオンライン版に掲載されました。

論文タイトル:Generative Cell Specification Requires Transcription Factors Evolutionarily Conserved in Land Plants
著者:Yamaoka, S., Nishihama, R., Yoshitake, Y., Ishida, S., Inoue, K., Saito, M., Okahashi, K., Bao, H., Nishida, H., Yamaguchi, K., Shigenobu, S., Ishizaki, K., Yamato, K.T., Kohchi, T.
著者所属:京都大学・大学院生命科学研究科、基礎生物学研究所、神戸大学・大学院理学研究科、近畿大学・生物理工学部
DOI: 10.1016/j.cub.2017.12.053

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2018/01/26.html

プレスリリース:花を作る遺伝子の起源推定に成功

 基礎生物学研究所の越水静総合研究大学院大学大学院生、村田隆准教授、長谷部光泰教授、金沢大学の小藤累美子助教、東京工業大学の太田啓之教授グループ、宮城大学の日渡祐二准教授らとの共同研究の成果が発表されました。


花を作る遺伝子の起源推定に成功

 花を付ける植物(被子植物)は花を付けない植物から進化してきました。この 30 年ほどの研究から、数種類の MADS-box(マッズボックス)遺伝子と呼ばれる遺伝子が共同して働くことで、花が作られることがわかってきました。また、20 年前には花を付けない植物であるシダ類にも MADS-box 遺伝子があることが発見されました。花を付けない植物では MADS-box 遺伝子がどのような働きをしているのか、それらの遺伝子がどのように進化して花を作るようになったのか、植物の形の進化のメカニズムを探る研究として進められてきましたが、これまでにはっきりとした結論が得られていませんでした。その理由は、花を付けない植物では遺伝子操作が難しく、MADS-box 遺伝子がどんな働きをしているかが明確にわからなかったからです。

 基礎生物学研究所の越水静総合研究大学院大学大学院生、村田隆准教授、長谷部光泰教授を中心とした研究グループは、金沢大学の小藤累美子助教、東京工業大学の太田啓之教授グループ、宮城大学の日渡祐二准教授らとの共同研究により、花を付けない植物であるコケ植物ヒメツリガネゴケが持つ6つの MADS-box 遺伝子全てを解析し、これらの遺伝子が、茎葉体の細胞分裂と伸長、精子の鞭毛の動きの2つの働きを持っていることを明らかにしました。茎葉体も精子の鞭毛も、花の咲く植物が乾燥に適応して進化する過程で退化し、消失してしまっています。このことから、進化の過程で、茎葉体と精子の鞭毛で働いていた MADS-box 遺伝子が不要になり、それを別な機能に再利用することで、花が進化した可能性が高いことがわかりました。この点は、発生の仕組みが、異なった系統でも類似している動物とは大きく異なっており、動物と植物では発生の仕組みの進化の仕方が異なることがはっきりしました。

 本研究成果は国際学術誌 “Nature Plants”(ネイチャー・プランツ)に 2018 年1 月 3 日付けで掲載されました。

論文タイトル:Physcomitrella MADS-box genes regulate water supply and sperm movement for fertilization
著者:Shizuka Koshimizu, Rumiko Kofuji, Yuko Sasaki-Sekimoto, Masahide Kikkawa, Mie Shimojima, Hiroyuki Ohta, Shuji Shigenobu, Yukiko Kabeya, Yuji Hiwatashi, Yosuke Tamada, Takashi Murata, and Mitsuyasu Hasebe
doi:10.1038/s41477-017-0082-9

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2018/01/09.html

プレスリリース:長期記憶形成に必須な分子メカニズムを特定

基礎生物学研究所/岡崎統合バイオサイエンスセンター 神経細胞生物学研究室らとの共同研究の成果が発表されました。


長期記憶形成に必須な分子メカニズムを特定
~タンパク質の設計図を神経樹状突起へ局在化させる因子が不可欠~

 基礎生物学研究所/岡崎統合バイオサイエンスセンター 神経細胞生物学研究室の中山啓助教、大橋りえ大学院生(総合研究大学院大学)、椎名伸之准教授らの研究グループは、新潟大学(崎村建司教授)、東京理科大学(古市貞一教授)、東京薬科大学(篠田陽講師)、基礎生物学研究所(野田昌晴教授、重信秀治准教授)、神戸市看護大学(二木啓教授)、理化学研究所(御子柴克彦チームリーダー)の研究グループと共同で、長期記憶の形成のためには、タンパク質の設計図である「伝令RNA」を、神経細胞から長く伸びた樹状突起へ局在化させる因子、RNG105が必須であることを明らかにしました。

本研究成果は、2017年11月21日付けで英国オンライン科学誌eLifeに掲載されます。

詳しくは以下のページをご覧ください。
http://www.nibb.ac.jp/press/2017/11/21.html