トピック1:発生における左右性の初期決定機構

人体は、心臓が左に大きく、肝臓が右に位置するように左右非対称なつくりをしている。この左右の区別(左右性)が何によって決まるか日々考えている。

マウス7.5日胚(ヒトでは妊娠23日頃に相当)は、体の中央、腹側表面にノードという窪んだ構造を一時的に作る。ノードを構成する数百の細胞は各々が1本の繊毛を生やしている。この繊毛は先端から見て時計回りに運動する。

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ノードの微分干渉顕微鏡写真。画像処理するとこのように見える

ノード繊毛の運動は、その回転軸が細胞表面に対し胚の後方側(尾側)に傾いているため、単なる渦ではない左向きの力を生み出す。結果、周囲に左向きの水流(ノード流)が作られる。



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微小ビーズで水流を可視化:動画はこちら


ノード流がその後の左右を決めることは、人工的に胚の左右を逆転させる実験によって確認できる。フローチャンバー内の「たこつぼ」に胚を固定、一定方向の水流に曝し、ノード内の水流が右向きになるような条件で培養すると、左側特異的な遺伝子nodal 右側に発現し、心臓などの形態も左右逆転する。


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人工的な水流で胚の左右性を逆転させる実験。


では、ノード流はどのように遺伝子発現の左右差を引き起こし、個体レベルの左右を決定するのか。この謎を解くために努力している。

今までに、ノード内部の細胞にカルシウム上昇が見られること、その頻度がわずかに左側で高くなること、この差が左右性決定に必須であるらしいことがわかってきた。しかし何がカルシウム上昇を起こすか、カルシウム上昇はどう遺伝子発現に影響するか、という点はいまだ不明であり、その問題に取り組んでいる。


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ノードにおける細胞内Ca2+を測定、2値化、積算してヒートマップにしたもの。動画はこちら