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アフリカツメガエル (学名: Xenopus laevis2012/04/26

アフリカツメガエル (学名: <i>Xenopus laevis</i>)
アフリカツメガエルのメス(左)とオス(右)
メスにはお尻に総排泄溝と呼ばれる突起がある。オスはメスに比べて体が小さい。
分類
脊索動物門/脊椎動物亜門/両生綱/無尾目/ピパ科/クセノプス属
研究室
形態形成研究部門(上野直人教授)

解説

アフリカツメガエルはアフリカ原産のカエルです。日本でよく見られるカエルに比べると、頭が小さく、全体的に扁平な体つきをしています。5本ある後足の指のうち腹側の3本に黒いツメが生えており、これがツメガエルの名前の由来になっています(このツメはおそらく、陸上に出たときに地面との足がかりを良くしたり、外敵を引っ掻くことで撃退したりするときに使われるのではないかと個人的には考えています<<筆者)。飼育しやすく、卵を大量に得やすい、そして初期発生の研究がしやすいという特徴が有るため、古くから発生生物学のモデル生物として使われています。
 

<飼育環境>
xenopus_room.jpgツメガエルは後ろ足に良く発達した水かきを持っていて、たまに息継ぎをしに水面に出てくる以外は、一生を通してほほ完全な水中生活をします。淡水性でだいたい18〜23℃のカルキ抜きした水があれば良いため、昆虫の飼育ケースや衣装ケースなどに水を貯めて飼うことができます。研究所ではオーバーフロー型の水槽を使って水を循環させ、時々水質チェックをしながら水用ヒーターとエアコンを用いて水温を18℃に保って飼育されています。エサやりや水替えは当番制で行われています。
 

<エサ>
エサはオタマジャクシの時期は植物性のものを食べますが、成体になると基本的に何でも食べます。他のカエルと異なり生き餌でなくても食べてくれるので餌やりはとても楽です。私たちは普段は固形のマス餌を与えています。良い卵を産んでもらうために、週1で栄養価の高いメダカも食べさせています。面白いことに、彼らは舌を持っていないため、食べるときは口を開けてエサを吸い込み、前足を器用に使ってワサワサとかきこむようにして食べます。
 

<採卵>
卵を得るときには、実験の前日にゴナドトロピンと呼ばれる性腺刺激ホルモンをメスに注射しておきます。すると翌朝にメスは産卵行動を行います。このとき使われるホルモンはヒト妊婦の尿中に含まれているものと同じです。女性から採取した尿をツメガエルに注射し、その中にホルモンが存在した場合ツメガエルが卵を産むことから、かつてツメガエルは妊娠検査薬代わりとして使われていたことがあります。ホルモン注射をしたメスとオスを同じ水槽で飼っておくことで受精した卵が得られます。
 

<卵からカエルへ>
卵は直径約1.2 mm。受精後約45分ではじめの卵割がおき、2細胞になります。ツメガエルの場合卵全体が割れていきますが、割れた後の細胞の大きさが異なるため「不等割」と呼ばれる形式で発生が進みます。その後はおよそ1時間おきに1回のペースで細胞分裂がおきて、細胞が倍々で数を増やしていきます。胞胚期に到達するまでは、卵はひたすら細胞の数を増やします。その後に原腸陥入や神経管閉鎖、そしてその他の器官形成が連続的に起き、丸かった卵が複雑な3次元構造を持ったオタマジャクシへと変形していきます。オタマジャクシになるまでは2日ほどかかります。オタマジャクシが変態すると手足が生え、尻尾も無くなって成体と同じ形になりますが、次の世代が得られるカエルに育つには1年ほどかかります。
 

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モデル生物としてのツメガエル
ツメガエルの発生過程には脊椎動物で重要とされる発生現象(原腸形成・神経管形成・体軸形成など)が多く含まれています。これらの現象は生物種間で強く保存されていると考えられているため、その仕組みをツメガエルを使って解き明かそうと古くからたくさんの発生学者に重宝されてきました。また、変態期になると手足が生えて尻尾が無くなるので、四肢の形成・再生やアポトーシス(プログラム細胞死)の研究にも役立ってきました。さらにすごいことに、ツメガエルの卵の抽出液を使うと、細胞膜が無い状態(無細胞系)にも関わらず試験管内で細胞周期の観察やタンパク質合成を行うことができます。そのため、その筋の研究にも貢献しています。

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このうち私たちの研究室では初期発生の研究のためにツメガエルを用いているわけですが、その理由はツメガエルが以下の様な利点を持っているからです。

1. 発生がメスの体外でおき、さらに卵が他のモデル生物に比べて非常に大きいため観察及び実験操作がしやすい。
 

  1. 2. 顕微鏡下でピンセットを用いて組織片を切り出し/移植したり、細いガラス管を使って卵の中に遺伝子を注入したり、遺伝子の働きを抑制する薬剤を注入したりすることが容易にできる。
     
  2. 3. 同じタイミングで授精させた卵はすべて同じタイミングで発生が進むため、条件の同じ卵を大量に得られてサンプル数を稼ぎやすい。
     
  3. 4. 蛍光を生じる物質やタンパク質を導入すれば、蛍光顕微鏡を使って分子の挙動や細胞・組織の運動を可視化できる。
     
  4. 私たちはこれらの実験操作を組み合わせて、複雑な体の形作りがどのような細胞の運動によって成り立っているのか、そしてそれがどのような遺伝子・タンパク質のやり取りよって支えられているのかを明らかにしようとしています。
  5.  

文:原 佑介(形態形成部門 大学院生/日本学術振興会特別研究員)
写真:倉田智子(広報室)、原 佑介
 

 

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