2010年11月20日

マメ科植物において、根粒の数と植物の形作りを同時に制御する遺伝子を発見


[発表雑誌]

Development 2010 137:4317-4325

論文タイトル:
"The receptor-like kinase, KLAVIER, mediates systemic regulation of nodulation and non-symbiotic shoot development in Lotus japonicus"

著者:Hikota Miyazawa, Erika Oka-Kira, Naoto Sato, Hirokazu Takahashi, Guo-Jiang Wu, Shusei Sato, Masaki Hayashi, Shigeyuki Betsuyaku, Mikio Nakazono, Satoshi Tabata, Kyuya Harada, Shinichiro Sawa, Hiroo Fukuda, Masayoshi Kawaguchi

[日本語要旨]

マメ科植物は根に根粒という組織を作ってその細胞内に根粒菌という窒素固定を行う土壌細菌を取り込み、共生しています。根粒菌が固定した窒素を供給されることによりマメ科植物は窒素栄養の乏しい土壌でも生育することができますが、一方で植物は光合成産物などのエネルギーを根粒に提供しており、両者のバランスが共生関係の成立には重要です。植物はその共生のバランスを保つために、形成する根粒の数を負に制御する仕組みを持っています。

この抑制機構が破綻したミヤコグサのhar1変異体やklv変異体では根粒が過剰に形成されます。接ぎ木実験によってHAR1KLVは植物の地上部で機能することが示されており、HAR1は受容体様キナーゼをコードしていることが分かっています。また、根粒菌感染によって根で発現誘導されるLjCLE-RS1LjCLE-RS2はHAR1依存的に根粒形成を抑制する分泌性ペプチドをコードしており、地上部のHAR1が根から遠距離輸送されたLjCLE-RS1、LjCLE-RS2ペプチドを受容して根粒形成を全身的に抑制するというモデルが考えられています。

今回、我々はポジショナルクローニングからKLVが新規の受容体様キナーゼをコードすることを明らかにしました。二重変異体の解析からKLVHAR1は遺伝学的に同一経路で根粒形成を抑制することが示されました。またLjCLE-RS1, 2を根において過剰発現させると野生型の植物では根粒の形成が根全体で抑えられるのに対し、klv変異体ではその抑制効果が全く見られないことから、KLVHAR1同様にLjCLE-RS1, 2過剰発現による根粒形成の全身的抑制に必要であることが示されました。さらに一過的発現系を用いた解析によって、KLVがHAR1と複合体を形成することが示されました。これらの解析から、根粒形成の全身抑制機構においてKLVはHAR1と受容体複合体を形成してLjCLE-RSシグナルを伝達するというモデルが考えられました。

また共生における機能とは別に、KLVは茎頂分裂組織の大きさや、花成の開始時期、維管束の連続性の制御といった多面的な形態形成を同時に司る受容体であることが明らかになりました。興味深いことにKLVと最も高い相同性を持つシロイヌナズナのオルソログは葯の形態形成や胚発生に関わるRPK2 (TOAD2)でした。最近の研究で、このRPK2はシロイヌナズナの茎頂分裂組織の幹細胞の増殖を制御し恒常性を保つシグナルを伝達する第3の経路を担う受容体であることも明らかになっています(Kinoshita et al.)。以上の知見から、KLVはマメ科植物にとって共生のバランスと形づくりを同時に制御する因子であり、根粒形成の制御に関しては独自の機能を獲得し、茎頂分裂組織の恒常性制御に関してはシロイヌナズナのRPK2と同様の機能を保持しているのではないかと考えられました。

今後さらにくわしい制御機構の解明が進み応用されれば、窒素固定能力の向上、バイオマスの増加による二酸化炭素の固定によって、食糧問題や環境問題の解消への貢献も期待できます。