はじめに

生物のゲノム(遺伝情報の全体)は安定に遺伝するだけでなく、大きく変化して遺伝することがあります。このような変化は、遺伝子の働きを調節したり、生物に個性や多様性を与えたりします。当グループでは、ゲノムのダイナミックな変化と遺伝子の発現調節を理解するために、花の模様を研究しています。多様な模様の花が存在し、実験植物として優れた性質をもつアサガオを材料にしています。また、多彩な花の色が決まる仕組みの研究や、アサガオを研究する上で必要なツールやリソースの開発も行っています。


遺伝子の発現調節

ゲノムが頻繁に変化して、生物の着色を決める遺伝子を調節すると、縞とか斑と呼ばれる模様が現れます。模様は観察が容易なため、ゲノムの変化と遺伝子の働きを知る上で都合の良い研究対象です。トウモロコシの種やショウジョウバエの目に現れる模様は古くから研究され、生物の基本的な遺伝子の調節機構が明らかにされてきました。一方、アサガオには、既知の遺伝子の調節機構では説明し難い模様があります。このような模様の解析から、ゲノムの変化や遺伝子の調節機構を理解したいと考えています。

AK96雀斑(AK96)

AK30吹掛絞(AK30)

AK70吹雪(AK70)

AK79覆輪(AK79)

AK69車絞(AK69)

AKX10刷毛目(AKX10)

・ 動く遺伝子(トランスポゾン)
・ 遺伝子の重複
・ RNAサイレンシング
・ DNAメチル化


花の発色機構

アサガオの原種は青い花を咲かせ、フラボノイド色素であるアントシアニンにより着色します。青い発色には、青く発色しうるアントシアニンが合成されるだけでなく、液胞という細胞内の袋のような場所に蓄えられることや、液胞のpHが弱アルカリ性になることが必要です。これらの必要な要素が失われることで咲く、紫、赤、茶、白、薄黄などのアサガオを使って、青い発色の分子機構を解析しています。

・アントシアニン生合成酵素
・アントシアニン生合成酵素遺伝子の転写制御
・アントシアニン生合成酵素の活性制御
・アントシアニンの液胞への輸送と蓄積
・液胞pHの制御

さらに詳しく知りたい方は、こちらのコラムや要旨も参照下さい(一般向け)。

日本植物学会:研究トピック3

日本植物生理学会:市民講座「植物科学をもっと楽しもう2011 -花と生殖-」要旨(PDFファイル)


アサガオの研究基盤

アサガオは、広く国内外で研究されています。しかし、研究に必要なツールやリソースは、まだまだ整備の必要があります。そこで私たちは、独自に遺伝子の端読み配列であるESTや、アサガオの大きなゲノム配列を保持した大腸菌(BACクローン)を作成しています。また、アサガオの形質転換系も立ち上げました。作成したESTやBACクローンなどのリソースは、ナショナルバイオリソースの事業を通じて、世界中の研究者に提供しています。今後、これらのDNAクローンを活用することで、アサガオのゲノム解読にも挑戦したいと考えています。


研究のキーワード

ゲノム 植物 トランスポゾン 突然変異 遺伝子重複 エピジェネティクス DNAメチル化 RNAサイレンシング small RNA ノンコーディングRNA RNAi アントシアニン フラボノイド 二次代謝 液胞 転写調節 転写後調節 アサガオ ペチュニア バイオリソース 花 模様 分子育種


アサガオの魅力

アサガオ(Ipomoea nil)は、中南米原産で、奈良時代に中国から薬草として渡来したと考えられています。江戸時代から園芸植物としての発展がはじまり、栽培ブームを繰り返しながら現在に至っています。その多彩な品種は自然突然変異とその組合せによるものです。今日でもアサガオは各地で展示会が開かれたり、小学校の教材として育てられたりするなど、夏の風物詩として日本人の生活に溶け込んでいます。

一方、豊富な変異体を使った遺伝学は、メンデルの法則が再発見された直後からはじまり、200を越える変異座が報告され、それらの連鎖地図も作成されています。植物生理学の分野でも、短日植物のモデルとして日長に鋭敏に反応して花芽をつける性質が盛んに研究され、膨大な知見が集積しています。このような背景をもつアサガオは、実験植物として優れた特徴も持っています。

・豊富な突然変異と遺伝学的な情報
・シンプルなゲノム構成(2n=30、800から1,000 Mb)
・標準系統(東京古型標準、ムラサキ)
・ 形質転換が可能
・シロイヌナズナと同じ設備で育成可能
・EST、BACクローンなどDNAリソース
・ アクティブな内在性トランスポゾン
・ 鋭敏な短日性(開花の時期、植物サイズを制御可能)
・高い自殖性
・世界各地の自然集団、交配可能な近縁種
・ 生育が容易