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    “JAK/ STATシグナルのリガンドが正しく分布する仕組みの解明”

     小林悟(計画研究)らの研究グループは、ミネソタ大学(中藤博志准教授)、ケンタッキー大学(Dougrass Harrison准教授)との共同研究により、JAK/ STATシグナルのリガンドが組織内で正確に分布する仕組みを明らかにしました。
     組織内において細胞間の情報伝達はリガンドと呼ばれる分子を介して行われます。リガンドは、情報を発信する細胞から分泌され細胞外に放出されます。分泌されたリガンドは、細胞外を拡散し、別の細胞に受け取られます。リガンドを受け取った細胞では、細胞内シグナルと呼ばれる一連の反応が活性化され、その結果、細胞は分裂や移動、機能の変化などの様々な反応を引き起こします。組織内のリガンドが正確に分布することは、組織内の個々の細胞が適切に振る舞う上で重要です。
     JAK/ STATシグナルは、細胞内シグナルの一種で、幹細胞を維持や、組織の形作り、免疫応答などの様々な生命現象を制御することが知られています。JAK/ STATシグナルを活性化するリガンド(JAK/ STATリガンド)が組織内で正確な空間パターンをもって分布することは、幹細胞の維持や組織の形態形成の理解に重要です。しかし、JAK/ STATリガンドの組織内での分布が、どのような仕組みで制御されているのかは不明でした。
     研究グループは、ショウジョウバエの卵巣をモデルとして用いることで、その分布を制御する分子の特定を試みました。JAK/ STATシグナルは、ショウジョウバエの卵成熟を制御することが知られていましたが、リガンドの可視化が困難であったため、その分布の様式やそれを制御する仕組みは不明でした。そこで研究グループは、JAK/ STATリガンドの可視化の方法の確立を試み、次にリガンドの分布を制御する分子の特定を試みました。分布を制御する分子としては、細胞の表面に存在する糖タンパク質の一種、グリピカン(用語解析、図1)の働きに着目しました。グリピカンは細胞の表面で、様々なリガンドと糊のように結合することで、リガンドの分布を制御する性質をもつことが知られていたからです。

    News Release faculty of 1000 JAK 1 図1:グリピカンの模式図

     卵巣においてJAK/ STATリガンドを可視化することにより、その分布を観察したところ、JAK/ STATリガンドは産生細胞を起点として、距離に応じた濃度勾配をつくって分布することが明らかになりました(図2A)。この卵巣の一部の細胞において、グリピカンの働きを阻害したところ、そのような細胞の表面からJAK/ STATリガンドは失われました(図2B)。反対に、一部の細胞でグリピカンを過剰にもたせた場合、そのような細胞はJAK/ STATリガンドを多くもつようになりました(図2C)。以上の結果は、JAK/ STATリガンドの分布は、細部表面のグリピカンと結合することにより制御されることを示しています。これはJAK/ STATリガンドの分布を制御する仕組みを明らかにした初めての研究です。

    News Release faculty of 1000 JAK 2 図2:グリピカンによるJAK/ STATリガンドの分布の制御

     本研究の成果は、組織内におけるJAK/ STATリガンドの分布制御が重要な、幹細胞維持、組織の形態形成などの全ての生命現象を理解する上で基礎となるものです。本研究は発生生物学専門誌Developmentの139巻(2012年)に発表されました。なお、この成果は生物医学系の研究者により選定されるFaculty of 1000に選ばれました。
     本研究は岡崎統合バイオサイエンスセンター/基礎生物学研究所の林良樹助教、小林悟教授、米国ミネソタ大学の中藤博志准教授、米国ケンタッキー大学のDougrass Harrison准教授からなる研究グループによる成果です。

    「用語解説」
    1:グリピカン
    糖タンパク質の一種。ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)と呼ばれるグループの糖タンパク質である。細胞膜の外側にGPIアンカーと呼ばれる分子を介して結合している。細胞外において、様々なリガンドと結合することで、リガンドの分布を制御する働きがある。

    「論文情報」
    Development
    タイトル:Glypicans regulate JAK/STAT signaling and distribution of the Unpaired morphogen
    著者:Yoshiki Hayashi, Travis R. Sexton, Katsufumi Dejima, Dustin W. Perry, Masahiko Takemura, Satoru Kobayashi, Hiroshi Nakato, and Douglas A. Harrison  >> 詳細

    詳しい情報
    基礎生物学研究所プレスリリース

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