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    “配偶子幹細胞ニッチの場を形成する分子メカニズムの解明”

     配偶子幹細胞は生殖細胞に分化する細胞を継続的に生み出すことにより、種の存続を担う細胞です。ショウジョウバエの配偶子幹細胞は精巣および卵巣の先端部分において、ニッチ細胞と呼ばれる特殊な生殖巣体細胞に接するように存在しています。ニッチ細胞は配偶子幹細胞の維持に必要な細胞増殖因子を分泌することで配偶子幹細胞を維持することが知られています(図1)。

    News Release 小林 1

    しかし、分泌性の細胞増殖因子がなぜニッチ細胞の近傍にのみとどまり、その領域にのみ幹細胞を維持することができるのか、その分子メカニズムは明らかになっていませんでした。私たちは、細胞増殖因子を保持し、幹細胞に安定したシグナルを伝える領域として、「ニッチの場」という新たな概念を提唱し(図1)、それを構成する分子の特定を試みました。その結果、糖タンパク質の一種であるヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)がニッチの場を構成する重要な因子であることを明らかにしました。
     HSPGはヘパラン硫酸を側鎖として持つ糖タンパク質の一種であり、細胞膜表面あるいは細胞外基質を構成する主要な因子の一つです(図2)。

    News Release 小林 2

    HSPGは、細胞外領域において、その側鎖あるいはタンパク質部位に様々な細胞増殖因子を結合することにより、増殖因子の空間的分布を制御することが知られています。私たちはこのHSPGの分子機能に着目して研究を行った結果、以下の点を明らかにしました。
    1:HSPGの一種であるグリピカンをコードするdallyおよびdally-likeは、それぞれ卵巣および精巣のニッチ細胞で発現している。
    2:グリピカンのニッチ細胞における働きは配偶子幹細胞の維持に必要である
    3:グリピカンの働きは配偶子幹細胞維持に必要な増殖因子シグナルの活性に必要である。
    4:卵巣においてdallyをニッチ細胞以外で異所的に発現した場合、幹細胞の存在する領域の拡大が誘導される。
     これらの結果は、グリピカンがニッチの場を構成する重要な構成因子であること、さらにグリピカンはニッチの場の構成因子として増殖因子シグナルの及ぶ範囲を制御することにより幹細胞の存在する領域を分子的に規定していることを示しています(図3)。

    News Release 小林 3

     HSPGはショウジョウバエのみならず、線虫などの原始的な動物から、ネズミや私たち人間などのほ乳動物まで広く存在している因子です。本研究の成果は、ショウジョウバエのみならず本学術領域で対象とする様々な生き物、そして私たちほ乳動物まで含めた多くの動物の配偶子幹細胞制御機構の理解をいっそうに進めるものであると考えています。またマウスなどの動物種においては、その生殖腺の形態的特徴のために明確に配偶子幹細胞の存在する領域を特定することが困難な場合があります。今後は、そのような生殖腺においてHSPGを可視化することにより、より明確なニッチの場の特定、そしてその分子メカニズムの解明が進むものと期待しています。さらに、本研究成果は配偶子幹細胞のみならず、私たちの身体を構成するさまざまな組織の幹細胞が体内で保たれている仕組みの理解に大きく寄与するものであると考えています。

    「発表雑誌」
    The Journal of Cell Biology, vol.187, 473-480, (2009)
    タイトル:“Drosophila glypicans regulate the germline stem cell niche”
    著者:Yoshiki Hayashi, Satoru Kobayashi and Hiroshi Nakato  >> 詳細

    詳しい情報
    <基礎生物学研究所プレスリリース>
    http://www.nibb.ac.jp/press/091120/091120.html

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