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Report

Molecular and Cellular Basis of Growth and Regenerationへ参加とミシガン大学 Dr. Lei研究室を訪問して〜

開催期間:2016年1月10日〜14日、1月15日〜16日
開催場所:Beaver Run Resort・Breckenridge, Colorado USA, and University of Michigan Medical School

基礎生物学研究所 生殖細胞研究部門
伊神 香菜子



 私は貴新学術領域研究から旅費助成を受けて、2016年1月10-14日にアメリカのコロラド州ブリッケンリッジで開催されたKeystone Symposia on Molecular and Cellular Biology, Molecular and Cellular Basis of Growth and Regenerationに参加し、その後15-16日の日程でミシガン大学Dr. Lei研究室を訪問しましたので御報告いたします。
 この学会では、発生や再生時のサイズやプロポーションを制御するメカニズム、幹細胞の関わりに焦点を当て、分子学的、細胞学的視点から様々な生物種間での相違点や共通点を比較、共有しあうことを目的としたものです。このような学会の趣旨から、マウスやショウジョウバエのモデル動物はもちろんのこと、サンショウウオや野鳥、ナマコなどの非モデル動物から植物まで、幅広い生物を扱う研究者が集いました。口頭発表26演題、ポスター発表66演題と大きな会ではありませんでしたが、参加人数が少ない分、研究者同士の顔を覚えることができ、何度も言葉を交わすなど研究者同士仲を深める機会が多かった気がします。口頭発表では、生きたマウスの皮膚細胞をライブイメージングで追跡する話、細胞の競合について実験とモデルとを絡めての議論、遺伝子配列の変化ではなく遺伝子発現を制御する配列の変化が生物の進化に重要という魚をモデルとした話、アヒルとウズラの顎を互いに移植する実験から顎のサイズの制御メカニズムを明らかにする話などたくさんのユニークな話を聞くことができました。また、異分野同士の集まりということもあり、お互い研究者が何を目指しているのかなど議論し合い、とても活気のあるものでした。
 私はポスター発表を行いましたが、生殖細胞についての発表は私以外にはなく、他の研究者との会話から生殖幹細胞の認知度がそれほど高くないことを痛感しました。しかし多くの方が聴きに来てくださり、研究の内容から精巣という組織の構造に関しても非常に興味を持ってくださいました。論文でよく拝見する先生が聴きに来てくださった際にはとても緊張しました。今思い返せば間違った英語ばかり使っていたと頭を抱えたくなるほどです。私の拙い英語を一生懸命聞いてくださり、最後にはとてもいい研究だとおっしゃってくださったときに身体の緊張が一気に抜けた感覚を覚えています。
 私にとって一人で海外の学会に参加することは初めてで、知り合いができるか、発表が英語でうまくできるかと不安で仕方がありませんでした。不安に追い打ちをかける様に、初日から間違ったホテルにチェックインをしようとして追い出され、タクシーで40分かけて正しいホテルに移動するという大失敗を犯しました。疲労困憊した状態で学会会場である標高3000m近いブリッケンリッジに到着すると、今度は頭痛と吐き気という高山病に悩まされました。おまけに時差ぼけです。このような最悪の体調で、英語しか通じない環境に一人放り出されました。こちらからアクションを起こさないとどうにもならないというプレッシャーから無我夢中で他の研究者に話しかけましたが、当時何を話したのかよく覚えていません。しかし、最終的には同年代の研究者と仲良くなり一緒に観光するなど、今思い返せば全てが刺激点で楽しい学会でした。会場はスキー客の集まる観光地で、学会参加者の多くはスキーやスノーボードなど楽しんでいました。午後いっぱいフリー時間という学会は初めてで、観光も含めて余すことなく学会を楽しんでやろうという日本とは少し違う感覚に驚きました。今回の学会でフランスやアメリカのポスドク、学生と仲良くなりました。彼らと話すなかで、研究に対する考え方など言語や出身地は関係なく同じで、似た様な環境や立場で頑張っている人たちはたくさんいるのだと実感しました。
 学会後はマウスの卵形成を研究されているミシガン大学Dr. Lei研究室を訪問しました。Dr. Leiは胎生期の卵形成過程を生きたマウスの中で細胞一つずつに焦点を当て丁寧に観察しようとしており、貴新学術領域でも今後関係の深くなる研究者だと思っております。Dr. Leiにはこれからの方針、興味のある現象などのお話を聞かせていただきました。卵形成の初期にできる生殖細胞の合胞体の観察、合胞体を構成する細胞間でみられる極性の違いが何によって生み出されているかなどのお話を聞かせていただきました。研究成果の全ては新しく驚きのあるもので、この先がもっと知りたいと思っています。私の現在進行中の研究についてもお話しさせていただき、的確なアドバイスや疑問点など指摘いただきました。研究室はとても大きな部屋をいくつものラボが共有したオープンな環境でした。PIの人数も多いためか、小さなチームが集まって大きな研究施設に作り上げている、という印象を受けました。また、ミシガン大学があるアナーバーは学生で溢れており活気のある街です。ミシガン大学は街の中心にありとても広くて建物も新しいため、研究するにはとても良い環境だろうと思います。
 今回の学会ミシガン大学への訪問は、多くの研究者との意見交換ができたということだけではなく、「きっと海外でも楽しく研究ができる!」という自信につながったことが私にとって大きな収穫でした。きっと今後の私の研究人生において、今回の冒険は「あれが私の転機だった」と思える貴重な体験になると感じています。最後になりましたが、このような機会を与えてくださった貴新学術領域および関係者の皆様に深く感謝致します。

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左:ブリッケンリッジの街並み 右:Lei研究室のあるBiomedical Science Research Building
写真提供:伊神 香菜子


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