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Report

The 18th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciencesに参加して 〜

開催期間:2014年10月26日 ~ 30日
開催場所:The Henry B. Gonzalez Convention Center, Texas, U.S.A.

横浜市立大学医学群分子生命医科学系列プロテオーム科学
古目谷 暢



 貴新学術領域研究から旅費助成を受けて、2014年10月26日から30日の5日間にわたってアメリカのテキサス州サンアントニオで開催されたThe 18th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciencesに参加しましたので、御報告いたします。
 この学会は、工学分野のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)という半導体製造技術を発展させ、1つのチップの上に微小かつ複雑な構造体を作成し、生化学、生物学、医学など様々な分野に応用することを目的としています。当初は微小な流路、薬剤混合スペース、反応スペースなどを設けて、生化学分野へと応用されました。試験管内での実験を微小なチップ上で行うことにより、サンプルや薬品を節約できるうえ、体積に対して表面積の割合が多くなるので化学反応が高速化するメリットがあり、気体、液体などの成分分析や血液検査、DNA検査などにおいて技術革新をもたらしました。その後、微小流路のなかで細胞を扱うことで生物学や医学へ応用され始めました。FACSなどの高度な技術を用いることなく流れの力を利用して細胞のソーティングを行ったり、流路内の微小スペースに細胞をトラップすることで実験のハイスループット化を実現したりしています。細胞を単離して微量の薬剤で包み込むDroplet技術の開発も盛んで、薬剤開発や細胞内シグナルの解明に活用されています。この他、細胞と比べると大型な線虫などの寄生虫も流路中に1匹単位でトラップすることができ、ハイスループット化に加え観察能の強化を実現しています。さらにはチップ上に細胞を配列しin vitroで臓器をつくるOrgan on chipという概念も提唱されています。生体内環境を再現した微小構造体のなかで細胞を培養することにより、生体内機能を部分的に発現することに成功しています。今後、生体内構造をより精巧に模倣することが可能となれば、再生医療の進歩への寄与が期待されます。これら一連の技術は微小構造体の中に薬剤や培養液を流す流路を作成することからマイクロ流体技術と言われています。私たちの研究室はin vitro精子形成にこの技術を応用すべく、マイクロ流体技術の第一人者の一人である東京大学生産技術研究所 統合バイオメディカルシステム国際研究センターの藤井輝夫教授、木村啓志特任助教(現 東海大学工学部機械工学科 講師)と2012年から共同研究を開始し、生体内環境を再現した培養系の開発を行っています。2012年から学会に参加していますが、毎年新しい技術が報告され、また工学系以外の研究者の参加も増えてきており、生物学の研究手法の1つとして注目されはじめている印象です。
 今年はテキサス州サンアントニオのThe Henry B. Gonzalez Convention Centerで開催されました。開催の前の週にテキサス州ダラスでエボラ出血熱にかかったリベリア人男性と接触したアメリカ人がエボラに2次感染するという事態が起こりました。ご存じのとおりエボラ出血熱は有効な治療法がなく、致死率の極めて高い疾患です。いかに広いアメリカとはいえ同じ州内でエボラが発生したことは大きな衝撃で、一抹の不安を抱えながら渡米しました。その後テキサスでの感染はなく結果的にエボラ自体も終息し取り越し苦労で終わりましたが、もしかしたら感染しないまでも帰国後に成田に隔離・・・などというシナリオもあり得たかと思うと一生忘れられない思い出です。
 さて学会自体はエボラ騒動にも負けず盛況で口頭発表が115演題、ポスター発表が755演題ありました。参加者は半導体産業の盛んなアメリカ、日本、ヨーロッパ、韓国、中国などが多く、全体の1/5ほどは日本人でした。このため多くの日本人研究者が座長や口頭発表者として、活発な討論を行なっていました。Organ on chipというセクションがあり、そこではマイクロ流体技術を用いて従来の静置培養では困難であった毛細血管の秩序だった誘導に成功した報告がありました。興味深いのは同じ装置を用いても流れがないと血管新生がうまくいかず、血流を再現することの重要性が示されています。構造を模倣するという点では、肝臓の最小構成単位である小葉構造を模倣して肝細胞を配列させる研究があり、その精巧さに驚かされました。また生体吸収性素材を用いたマイクロ流体デバイスの報告ではum単位の培養回路の作製に実現しており、生体への移植を想定し積層化・大型化に向けた試行錯誤がなされていました。 このように学術的に大変充実した学会でしたが、学会場と観光地が隣接しており学会の合間に観光もできました。学会場、ホテルを含む中心部をリバーウォークという運河が取り巻いており、運河沿いには洒落た雰囲気のレストランやカフェがあり、ベネチアを彷彿とさせました。ただしゴンドラではなくタグボートが遊覧しているあたりがアメリカらしいと苦笑してしまいました。また、食事はあまり期待していませんでしたが、サンアントニオはメキシコに近いためメキシコ料理がとても美味しかったです。しかし、さすがはアメリカ、ボリュームが半端なく昼食でタコスを注文したところ、前菜のトルティーヤとサルサソースがお代わり自由で、メインのタコスは日本人の感覚だと2-3人前サイズでした。何とか完食しましたが、夕食を抜いたにもかかわらず翌朝胃もたれに悩まされたぐらいです。
 最後になりましたが、このような機会を与えてくださった新学術領域および関係者の皆様に深く感謝しています。今回学んでことを活かし、生体内環境を再現したin vitro精子形成系の開発を進めることで、新学術領域の研究の進展に少しでも貢献できればと思っています。

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左:The Henry B. Gonzalez Convention Center 右:隣接するRiver walk
写真提供:古目谷 暢


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