翅の獲得及び多様化は、昆虫がこの地球上で最も繁栄する動物群となる大きな要因となっている。手や足と独立に存在する昆虫翅は、他の生物にはない昆虫固有の形質である。翅の起源に関する仮説は2世紀も前から様々なものが提唱されてきたが、翅の起源に関する統一見解は未だ得られていない。また我々は、これまで翅が存在しないと考えられてきた前胸や腹部に翅の連続相同構造が存在することを世界で初めて示すことに成功した。そこで、翅形成のマスター遺伝子 vestigial を解析ツールに、翅の起源構造や多様な翅連続相同構造がもたらされる進化メカニズムを探っている。 昆虫は、様々な環境に適応するため機能分化した翅を発達させた。甲虫は、飛翔から体の保護へと機能転換した前翅(鞘翅)を獲得し、全動物種の 4 分の 1 を占める圧倒的な種数の豊富さで繁栄を極めている。甲虫の前翅と後翅の比較トランスクリプトーム解析と RNAi スクリーニングを行い、鞘翅をもたらした遺伝子ネットワークを解明したい。
ナミテントウの斑紋には遺伝的多型が存在し、単一遺伝子 座の複対立遺伝子による支配を受けることが知られている。 RNAi 法や形質転換ナミテントウを用いた遺伝子機能解析により斑紋形成メカニズムを解明する。 テントウムシの赤色と黒色からなる目立つ斑紋は、捕食者に対する警告色として機能する。テントウムシへの擬態により捕食を回避する昆虫は様々な分類群に存在する。系統的に遠縁であるにも関わらず、類似した擬態斑紋が形成されるメカニズムは依然として謎のままである。各種テントウムシやテントウムシに擬態したヘリグロテントウノミハムシを材料に、遺伝子機能解析を通して擬態進化の謎に挑む。
角は、全く異なる独立した系統で何度も獲得され、それぞれの系統内には多様な形態が存在する。カブトムシをモデル に比較トランスクリプトーム解析及び RNAi 法などにより、角形成遺伝子ネットワークを解明する。カブトムシから得られた知見を、多様な角を持つ近縁種間で比較し、角の多様化をもたらすゲノム上の変化を探る。さらに、角を独立に獲得した種を用いて同様の比較解析を行い、角の独立進化メカニズムの解明に迫りたい。
昆虫の性決定カスケードは、性特異的なスプライシング調節が中心的な役割を果たす点で、他の生物群には存在しない昆虫特異的な分子メカニズムである。無変態昆虫や不完全変態昆虫の遺伝子機能解析を通して、昆虫に特異的な性決定メカニズムの進化的起源の解明を目指す。
非モデル昆虫の興味深い現象を分子レベルで解明するためには、遺伝子機能解析ツールが必要不可欠となる。そこで、 非モデル昆虫での遺伝子機能解析を容易にするために独自に工夫した形質転換体を利用した遺伝子機能解析系、種々の RNAi 法やゲノム編集技術などの開発を行っている。