生物は種によって形態が違います。
種間の形態の違いは、これまでの図鑑などでわかりやすくまとめられてきました。しかし、種よりも大きな枠組みである科(か)や目(もく)の間での形態の違いに重点をおいてまとめた図鑑はありませんでした。
この図鑑は陸上植物の目や科の類縁関係とそれぞれの目や科が持つ特徴をまとめたものです。また、必要に応じて、亜科などのより細かい分類群の系統関係についてもまとめてみました。
目や科に注目して植物を理解する利点の一つは、植物全体を俯瞰できる点にあります。
もちろん、種を全部理解すれば良いのですが、被子植物だけでも20万種以上あるので、かなりたいへんです。
被子植物の目は64、科は416ですから(APGIV 2016)、このくらいだと、全体を理解することが可能になるかなと思います。
これまで目や科の特徴に重点をおいてまとめた図鑑が無かった理由の一つは、科や目の類縁関係がよくわからなかったためです。
陸上植物の系統関係は、この20年間の系統分類学の進歩でほぼ解明されました。遺伝子の塩基配列情報を用いた分子系統学的方法の確立、そして、遺伝子の情報とともに形態や化学成分などの情報も総合し客観的に解析する分岐系統学的方法の確立によって、陸上植物の類縁関係の多くの部分が明らかになってきたのです。
そして、これまで用いてきた全ての植物図鑑の目や科の分類は大きく変更されました。
生物の進化は系統樹で現すことが出来ます。
この図鑑では全ての目と科を系統樹に基づいて説明しようとしています。系統樹を見ると、各目や各科が互いにどういう関係にあるかが一目でわかります。
また、進化の過程のどこでどんな形質が進化したのか、言い換えると、各グループに共通の形質は何かを系統樹上に示すことが可能になります。ほとんどの形質は、肉眼で見える器官レベルの形質に限定しました。しかし、陸上植物は似たような形質がいろいろな系統で何回も平行的に進化していて、目のレベルでは目の集まりや目そのものを規定するような形質を見つけることは困難です。また、目の中の科のレベルでも、科の集まりを規定するような形質はほとんど見つかりません。一方、科のレベルだと半数程度の科については、科を特徴づけるような形質を見つけることができます。
系統関係には、まだまだ十分にわかっていない点も残っています。
この図鑑にある系統関係の細かい点は今後の研究で少し変わるかも知れません。系統関係がはっきりわからない分岐は多分岐で示しましたが、将来はっきりわかることを期待したいと思います。
これまでは数個の遺伝子を用いた系統推定がほとんどでしたが、2014年ころから、ゲノム情報を用いて500から1000個の遺伝子を用いた系統解析が可能となってきましたので、それらの結果が出そろうとより信頼度の高い系統推定ができるかもしれません。
おおまかな系統関係がわかると、陸上植物の進化過程のどこでどんな形質が進化したかがわかります。すると、より大きな謎への挑戦が可能となります。陸上植物の進化のいろいろな局面において鍵となった形質がどのような遺伝子のどのような変化によって進化したのか、何回も似たような形質が進化できたのはなぜか、逆に、かたくなに維持されている形質があるのはなぜか、進化の本質に迫るような問題点に挑戦できる時代になりました。
このページに整理した内容は多くの研究者の研究結果に独自の見解を加えてまとめたものです。
それぞれのページに引用した文献に加えて、APG IV (2016)、Judd et al. (2016)、Stevens(2001 onward)を参考にしました。また、学名、和名は大場(2009)、米倉と梶田(2003 -)を主に参照し、必要に応じて米倉(2012)を用いました。
このWEBページの一部は、文部科学省・科学研究補助金奨励研究(課題番号;24923006, 25923006)、大学共同利用機関法人・自然科学研究機構・基礎生物学研究所運営費交付金などにより支援を受けましたので感謝致します。
APG IV. 2016. An update of the angiosperm phylogeny group classification for the orders and families of flowering plants: APG IV. Bot. J. Linn. Soc. 181: 1-20.
Judd, W.S. et al. (2016) Plant Systematics. 4th ed. Sinauer Associates, Inc.
Stevens, P.F. (2001 onwards). Angiosperm Phylogeny Website.
http://www.mobot.org/MOBOT/research/APweb/.
大場秀章(2009)植物分類表. アボック社
米倉浩司(2012)日本維管束植物目録(邑田仁監修). 北隆館
米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)http://http://ylist.info/index.html