脳の機能を細胞レベルで可視化する光学顕微鏡技術は、ライブイメージング法を含めて近年飛躍的に進歩した。ここに光・電子相関顕微鏡法を導入し、電子顕微鏡の解像度を用いた微細構造の解析を行うことで、細胞間の情報伝達機能についてのより詳細な考察が可能となる。本講演では、光・電子相関顕微鏡法を利用して神経細胞の構造と機能を解析した研究例を用いて、特定の細胞や構造を標識する方法、電子顕微鏡像の３次元構築と画像解析、それに続く定量解析法の開発と現状、今後の展望について紹介する。

Serial block-face scanning electron microscopy(SBF-SEM)は、ダイヤモンドナイフによる切削と画像取得を自動反復して得られる多数の連続電子顕微鏡画像から、任意の構造の抽出・計測・3次元再構築を行う手法である。この手法は組織・細胞の3次元微細構造情報を得るために様々な研究で用いられており、画像取得の高速化を皮切りに、試料作製やデータ取得・処理における技術開発によって、多くの知見が得られてきた。本講演では、ABiSの支援を中心にSBF-SEMの最近の成果を紹介するとともに、深層学習によるデータ解析の更なる効率化など、今後の展望についても議論したい。

神経細胞は、分化したタイミングにより異なる個性を持つことが知られている。そのため神経細胞の「誕生日」は、これまでも神経細胞の良い分類法として使われ、数々の重要な発見を導いてきた。しかし現行のDNA類似体を用いた誕生日決定法は、回顧的な組織化学手法であり、分類された神経細胞サブセットに実験操作を加えることができないことが欠点であった。我々はこの欠点を克服し、生きたマウス個体内で神経細胞の誕生日依存的に遺伝子組換えを誘導できる「誕生日タグ付け法」を開発した。この度、この手法を多くの研究者に使ってもらいたいと考え、この手法を利用する上で必要となるCreERマウス系統のカタログ的な全脳切片画像のデータベース NeuroGT (Brain Atlas of Neurogenic Tagging Mouse Lines)を作成し公開した。ABiSの協力を得て、タグづけされた神経細胞の細胞体や軸索をズームアップして極めて高解像度で観察できる設計となっている。この新しいオープンリソースが今後有効活用され、様々なタイプの研究の発展につながることを期待している。

海は生命の故郷である。生物の進化や多様性、生物の環境適応のメカニズムを知る上で、海産生物の研究は欠かすことができない。しかし、海産生物のイメージング解析を行う場合、しばしば生物の採集から飼育、そして観察までを現場で行う必要がある。本支援班の研究室は、海に隣接するマリンステーション内にあり、これら海産生物の採集、飼育から、分子細胞レベルでの解析を行う研究を総合的に支援している。本講演では、これらの支援活動、特に繊毛運動の解析系を紹介するとともに、繊毛に関する演者らの最近の研究についても紹介したい。

本シンポジウムでは、構造MRI画像や安静時脳機能MRI画像を中心に、画像解析法の実際や、そうした解析技術を用いて進められた最近の研究を紹介する。また、小規模なMRI研究においてその結果の再現性が乏しい可能性が指摘されるため、大規模なMRI研究の実施が求められている。こうした背景から近年、多施設共同臨床研究を含む大規模MRI研究が、本邦および諸外国で進められており、具体的な取り組みについて概説する。

ヒト脳画像研究の分野では、米Human Connectome Projectや英国biobankに代表されるように、脳画像に加え行動指標や生体指標を含んだ大規模データベース化・精緻化が国際的に進んでいる。これによって、脳・行動データを多次元データとしてデータ駆動型のアプローチで扱うことが可能となり、従来の仮説検証型の解析方法に加えて、AI技術の一つである機械学習によるデータ駆動型解析の活用が本格化している。その例として、疾患の判別や、バイオタイプの同定、さらには個人特性の予測などが挙げられる。ここでは、多施設・多疾患患者のヒト脳MRIデータ解析研究および、データベースマネジメントに関して紹介する。

超解像度顕微鏡や光シート顕微鏡など、近年の生命科学では、最先端のイメージング技術の開発が加速している。これらの最先端技術は、従来の技術では不可能であった細胞内外の構造や生体分子の空間分布、それらの挙動の科学的な計測を可能にし、生命科学の進展を加速している。しかし、これらの最先端技術の多くは高度な技術と知識を持つ技術者の自作品であり、製品化された場合も極めて高額であるため、ごく限られた大学、研究機関のみがこれらの最先端技術を導入し活用しているのが実態である。生命科学コミュニティ全体が最先端のバイオイメージング技術を活用できているとは言い難い。この問題の解決のため、バイオイメージングデータの共有の仕組み作りが国際的な枠組みで急速に進んでいる。本講演では、データ形式やメタデータの標準化、データの品質評価と再現性の確保、データ共有システムの構築等、バイオイメージングデータ共有に関する国際的な検討の現状を紹介し、今後の展望について議論する。

近年、畳み込みニューラルネットワークをはじめとした、深層学習に基づく画像認識技術は、コンピュータビジョンの分野で重要な役割を果たしている。顕微鏡画像の分類や特定領域のセグメンテーションなど、バイオイメージングの分野においてもその技術は多用されてきた。このため、推論結果に対し、判断根拠の説明性がより重要視されるようになった。また、学習データに含まれる、ノイズや輝度バイアス、さらには背景構造などの存在が、推論結果の精度に影響を及ぼすことも知られてきた。本講演では、画像認識結果を解釈するうえで重要となる説明可能なAI（Explainable AI, XAI）技術について概説するとともに、ネットワークの認識精度や汎化性を向上させるための画像処理技術について、具体的な研究事例を交えて説明したい。