タンパク合成装置であるリボソームの主要構成成分はリボソームRNAである。リボソームRNA遺伝子の転写はRNAポリメラーゼIによって行われ、核内の転写量の半分以上をも占める非常に活発な生命活動である。がん遺伝子やがん抑制遺伝子の産物も転写制御に関わっており、がん増殖とも関係していると考えられる。しかしリボソームRNAの転写調節機構にはまだ不明な点が多く残されている。また、リボソームRNA遺伝子は約50kbpの長さの遺伝子がタンデムにつながった構造をしており、ヒト2倍体細胞では約400コピー存在する。そのうち発現可能な遺伝子はほぼ半分であり、リボソームRNA遺伝子の状態を維持・調節する特殊な機構が存在すると考えられる。しかしリボソームRNA遺伝子のこのエピジェネティック制御の機構も十分には解明されていない。
近年、ヒストンの翻訳後修飾が遺伝子機能の調節に大きな役割をもっていることが明らかとされてきた。そこで我々はヒストンの翻訳後修飾によるリボソームRNA遺伝子の機能調節の可能性について検討をおこなった。その結果、ヒストンメチル化修飾がリボソームRNA遺伝子発現を調節していることが示唆された。リボソームRNA遺伝子とヒストンメチル化に関しては今までほとんど研究されていないことから、この修飾に注目することにより新たな調節機構が発見できるものと期待された。そこで次にヒストンメチル化制御に関係するタンパク質がリボソームRNA転写の場である核小体に存在するかを検討した。その結果、ヒストン脱メチル化酵素と考えられるある種のJmjCドメインタンパクが核小体に存在することがわかった。本課題ではこれらのタンパク質とリボソームRNA遺伝子との関係について研究を進め、リボソームRNA遺伝子の制御機構を解き明かすことを目指す。
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